第6話

 雪美さんはあの後2時間ほど美沙と話してから帰っていった。雪美さんと話しているときの美沙は昨日や今朝よりも楽しそうで、少しでも気が紛れていることがよく分かった。



「今の美沙には人との関わりが少なすぎるんだ。やっぱり美沙は外に出て人と話さなきゃなんだろうな」



 たぶん、美沙は僕が事故で亡くなってからほとんど人と話してないんだろう。話すとしてもたまに来てくれる雪美さんやコンビニの店員ぐらいで、それ以外はずっと1人なのだ。そんな生活を送っていれば、自分の中でため込んでしまっている気持ちはいつまでも発散されない。その結果が、昨日の公園での一言につながっているのは間違いない。



「どうすればいいのか。⋯⋯僕じゃなにもできないし。なにかないかな」



 そう呟きつつ部屋の中をぐるぐると彷徨っていると、ふと昔見た心霊番組を思い出した。内容はよくある怖い動画を集めたようなものだが、その中の一つに幽霊が物を動かしたり、人を襲ったりしている映像があったことを思い出した。


 昨日の時点で、人にも物にも触れないということは分かっている。でも、もしも自分に不思議な力を使うことができるのならば、と一縷の望みにかけてみるのもいいのではないだろうか。実際、事故で死んであの世に行くのかと思えば目が覚めたら幽霊として住んでいた部屋に戻ってきたのだ。少しぐらいはかけてみてもいいだろう。



「かといって、どうすればいいんだって話なんだけどさ。とりあえずやってみるしかないな」







 




 あれから1週間ほど経った。毎日毎日違ったアプローチで物を動かそうとしたり、美沙に触れてみようとしたけれど、すべて空振りに終わってしまった。


 例えば見つめてみる作戦。これは名前の通りで、ずっと見つめていれば動くのではないかと思いやってみたが、全く動かなかった。


 念じてみる作戦。これも名前の通りで、動け動けと念じてみる作戦だが、これも全く動かなかった。


 結局1週間を棒に振ってしまったのかと考えると、なんとも言えない気持ちになる。


 美沙の方もなにも変化がなく、毎日決まった時間に起きて仏壇に手を合わせ、ご飯を食べて寝る生活を送っている。たまに外に出たかと思えば、前に行った公園に行くか、コンビニでカップ麺を買って帰る。


 彼女の生活を見てよりいっそうどうにかしなくてはいけないという気持ちが強くなった。美沙がこんな生活を送り始めてすでに3ヶ月近い。このままでは心身ともに参ってしまう。一刻も早くなにか解決する手立てが必要だ。


 ただ、1つだけ分かったことで、僕は日中よりも夕方6時以降の方が体の調子がいい気がする。理由はよく分からないが、やはり幽霊ということで、夜の方が元気になるのかもしれない。どうにか手立てを見つけなくてはと思いながら今日も美沙と一緒に1日を過ごした。

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