6話:僕は、弱い



 アーロンの話を聞いて、3日が経った。


「はあ……」


 僕は、あれからロゼに何も聞いていない。父さんにも、お屋敷で働いている人にも。

 だって、いつもと変わらないから。いつも通り起きたら服を用意してくれて、ご飯も運んでくれる。

 たまに叱られて、もちろんしっかり褒められて。いつもと変わらない日常を送っているから。水をさしたくない。


「……」


 それでも、……自分で言うのもなんだけど、僕は器用だった。

 お稽古事は全部こなして、勉強もして、いつも通り過ごしている。いや、そうやって何かをしないとどうにかなりそうだったからかも。だから、ほら。こうやって時間が空くと色々考えちゃう。よくないなあ。


「よし!」


 こんなモヤモヤ嫌だ。ロゼに聞いてスッキリしちゃいたい。

 聞けば、絶対答えてくれる。僕の欲しい答えをくれるはず。

 僕は、昼間からベッドでゴロゴロする自分の身体に喝を入れるように飛び起きる。



 ***



「あ、ロゼ」


 ロゼは、玄関前の螺旋階段にいた。一生懸命に、手すりを拭いている。


「あら、坊っちゃん。おやつの時間でしたか?」

「あ、違くて」

「では、夕飯……は、まだでしたね。もしかして、メニューが気になってるのですか?」

「むう」


 さっき、昼ご飯を食べたばかり。僕は、そこまで食いしん坊じゃないやい!

 ロゼは、話をするべく僕の方を向いてくれる。いつもど同じ、無表情で。


「ふふ。今日の夕飯は、坊ちゃんの好きなグラタンですよ。前菜がサーモンと水菜のマリネ、デザートはプリンアラモードと聞いております」

「グラタンにプリン!」


 僕の大好物じゃないか!

 ロゼの言葉に、心が踊る。……いや、違う違う。そうじゃない。


「あ、いや。その、……」

「……?」


 僕は、階段の一番下でなんと切り出したら良いのかわからず。

 すると、彼女が目線を合わせるためにゆっくりとおりてきた。いつの間にか、手に持っていた雑巾はなくなっている。


「ゆっくりで良いですよ。何か悩み事ですか?」


 ああ、ロゼ。

 君の事なんだ。君が、僕に嘘をついてるんじゃないかって気になって。

 そう、口にできればどれだけ楽になれるだろうか。


「……やっぱり、なんでもない」


 しかし、僕は何も言えなかった。

 だって、ロゼを疑うなんて。それを、彼女に知られるなんて。

 変な空気になっちゃったな。


「……坊ちゃん」


 僕は何も言わず、そのままロゼを残して階段を駆け上がった。

 後ろから声が聞こえたが、今の僕にそれを返答する資格はない。



 ***



 その日から、僕はロゼと顔を合わせるのが怖くなって世話係を変えてもらった。


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