【第24話:変顔】

 ん? 今度はいったい誰だ?


 そう思い、振り返ったオレの目に飛び込んできたのは、そっくりな見た目の二人の美少女だった。


「パズ! もう逃がさないわよ!!」


 そう叫んだのは、ピンクの髪にポニーテール。

 透き通るアメジストのような紫の瞳に切れ長の目。


 この世界の住人は色んな髪色のものがいるので、ここまではそれほど珍しくない。

 だが、その服装が普通では無かった。


 その少女が着る七分袖のTシャツ・・・・の首元からは、キャミソール・・・・・・のようなものが覗き、太ももにスリットの入った白のカーゴパンツ・・・・・・・・に白のショートブーツという、どう考えてもこの世界のファッションじゃない服装をしていた。


 そして、もう一人も……。


「ふふふ~♪ もうこの宿の周りには結界張ったから逃げられないよ~?」


 背中まで届く青のメッシュ・・・・・・が入った金髪に、一人目と同じく透き通るアメジストのような紫の瞳。


 こちらは普通の袖の長さのTシャツ・・・・に、黒のホットパンツと白のスニーカー・・・・・・・


 ……この世界でスニーカーって……しかも、どの装備からも魔力を感じる。

 恐らく、全て何らかの効果がかかった魔法の装備だろう。


「これは間違いないな……」


 パズの事を知り、この世界には無いような服装をした双子の女の子。

 本来のパズの飼い主で、この世界に一緒に呼ばれたという勇者の双子二人だ。


 転生時に肉体が創りかえられていると聞いていたが、どうやら見た目は変わってないようだな。


「ばば、ばぅぅ?」


 いや、パズ……顔をしかめて変顔をつくっても、とっくにバレてると思うぞ……。


「よいしょっと」


 とりあえずパズが逃げだしそうなので、脇を抱えて持ち上げて確保しておくか。


「ばぅ!?」


「裏切者じゃねぇ……ちゃんと話さないとダメだろ?」


「ばぅ~……」


 パズから二人の話はある程度は聞いていたが、まさかこんなに早く会う事になるとは思わなかった。


 オレとパズのやりとりを不思議そうに見ている双子に、とりあえずこれからの事を話さなければいけない。

 パズの気持ちとしては、何故かオレと二人でまったりと冒険しながら、この世界を満喫したいようだが、異世界に来たとは言え、元々二人の飼い犬だ。

 オレとしても、もうパズと別れる気はないが、二人にはしっかり話をして許しを貰わなければと思っていた。


「えっと? パズの飼い主のミヒメちゃんとヒナミちゃんだよね?」


「え? あ、はい……あれ? どうして美姫のことを?」


「わぁ~イケメンさんだぁ。でも、ほんとだね? どうして桧七美の名前を?」


 イケメン? 確かに元の世界の基準で言えば、そこそこイケメンなのかな?

 こっちの世界では生きるのに必死で、あまり意識した事はなかったけど……。


 それにこの世界だと、ちょっと厳つい彫りの深い男前がモテるようだし、前世の基準でイケメンでも、あんまり意味はないんだよな。


「ははは。イケメンなんて初めて言われたな。一応礼を言っておこうか? でもこっちの世界じゃ、あまり人気の無い顔かもしれないけどな。それで……たぶん込み入った話になると思うんで、ちょっと場所を移して話せないか?」


「こっちの世界って……」


「……ん~、なんか事情ある感じ? ここに泊ってるなら、その部屋に行く?」


「ちょちょ!? へへへへ、部屋って!?」


「だいじょぶだよ~。このイケメンさん、優しそうだし?」


「いやいやいや! そういう人こそ注意をしないといけないんだよ!?」


 オレは一言もオレの部屋で話そうなどと誘っていないのだが、きゃっきゃきゃっきゃと盛り上がり始めてしまった……。


「あぁ……ダリアナさん、ちょっと裏庭お借りしても良いですか?」


 昨日、この食堂の奥に裏庭があるから、汗とか流したいなら自由に使って良いと言われていた。

 今はこの宿に泊まっているのはオレだけだから、話をするのはそこで良いだろう。


「はい。かまいませんよ。ベンチもありますから、自由に使ってください」


「お兄さん、リズが案内するよー!」


「あぁ、悪いな、リズ。助かる」


 オレがお願いすると、リズは奥へと歩いていき、


「お姉さんたちもこっちー!」


 と言って、とりあえず盛り上がる二人を止めてくれた。


「え? あ、うん。ありがと」


「わぁ♪ 可愛い子♪ ありがとね~」


 リズの方がずっと幼いが、しっかりしているな……。


 ◆


 裏庭に出たあと、オレはパズからある程度の事情を聞いた事、パズに助けられたこと、オレが転生者であり、前世ではペジーの飼い主だったことを打ち明けた。


 そしてオレの方は……ペジーの最期を教えて貰った。


「そうか。ペジーはそんなに長生きしたんだな。最期を教えてくれてありがとう」


 パズは何故かペジーの話をするのを嫌がっていたのだが、そう言う事だったのかと納得する。

 そして改めて、ペジーの最期を教えてくれた事に頭を下げてお礼を言った。


「ぐすっ……い、いいわよ。そんな頭を下げなくて……」


「でもね。すっごく穏やかな感じだったよ」


「ばぅぅ……」


 前世のオレが命をかけて助けた命が、こうして縁を繋いでくれているのだから、オレもペジーと神様に感謝しないとな。


「なんかしんみりさせてしまったな……とりあえず話を戻そうか」


「そそ、そうね! それで、ユウトは獣使いなんだっけ?」


「あぁ。パズ曰くそうらしい」


「で、パズに命を助けられて、主従契約しちゃったんだよね?」


 この二人も異世界に来て寂しいだろうと思うと、中々強くは言えなかったが、それでもしっかり伝えなければ。


「そうだ。これはオレの我儘ではあるが、出来ればパズとはこのまま共に行動したいと思っている」


 オレが二人を見つめ、真剣な面持ちでそう伝えると、やはり二人も即答できずに黙り込んでしまった。


「……ユウトの気持ちはわかるけど……」


 そして、ミヒメはポツリとそう零すと、そのまま俯いてしまう。

 パズとはオレも縁があるとはいえ、オレも無茶なお願いをしている……そう思うとオレもそこから言葉が出ず、口を開いては閉じてを繰り返す。


「ん~……んん~……んんん~……」


「ばぅ?」


 オレとミヒメが悩んでいると、ヒナミが突然唸りだし、それにパズがどうしたのかと問いかける。


「じゃぁさ! 私たちもユウトのパーティーに入れば問題解決だね!!」


 そして、突然そんな事を言い出したのだった。


 ……え? 勇者の使命とかは……?

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