おばあちゃんが霊能者をやめた訳

OKAKI

おばあちゃんが霊能者をやめた訳

「すみません。ここら辺に、村上節子さんのお宅はありませんでしょうか?」

 学校の帰り道、スーツの男性に話しかけられた。相手が男性だったので一瞬身構えたけど、後ろにいる少し疲れた感じの女性とその隣にいる男の子が目に入り、警戒心はなくなった。

「村上節子は私の祖母です。案内しますね」

 私はにこやかに笑って、2人を家に連れて帰った。




「おばあちゃーん! お客さーん」

 店の裏に回り、自宅の玄関からおばあちゃんを呼びながら上がると、奥からおばあちゃんがゆったりとした動作で顔を出す。

「お帰り、絵梨ちゃん」

 おばあちゃんは、いつもの派手な色のカーディガンとストレッチパンツじゃなく、落ち着いた色の服を着ていた。

「ただいま。お茶入れるね」

「ありがとね」

 おばあちゃんは穏やかに笑って、お客さんに向き直る。完璧なよそ行きの顔。

 私は制服のままお茶を入れ、客間に運んだ。

「失礼します」

 声をかけて襖を開くと、長机を挟んで座っているおばあちゃんと男性が私を見た。女性の方は私が入ってきたことにも気付いていないようで、お茶を出して初めて暗く沈んだ頭を上げて、小さくお礼を言ってくれた。その憔悴した様子に、胸が痛む。

 女性の隣には、女性に寄り添うように立つ男の子がいる。男の子は、女性の顔を心配そうにじっと見ていた。


 大丈夫だよ。絶対、おばあちゃんが助けてくれるからね。


 私は心の中で男の子に語りかけ、静かに部屋を出た。




「おばあちゃんにお客さん来たよー」

 着替えてから店に顔を出す。ちょうどお客さんが途切れたようで、お母さんが暇そうにしていた。

「あら、意外に早かったのね」

「学校帰りに道聞かれたから、連れて来た。多分、あの子も来たかったんだと思うよ」

 そう言うと、お母さんは少し嫌そうに顔をしかめた。

「ばあさんの客、もう来たのか?」

 おじいちゃんが奥から顔を出して聞く。

「うん」

「後でお菓子出してあげなさい。用意するから」

「はーい」

 おじいちゃんとお父さんは和菓子職人。いつもおばあちゃんのお客さんに、うちのお菓子を出してあげている。

 おじいちゃんも、おばあちゃんのお客さんにとても優しい。おじいちゃんも、昔、おばあちゃんに助けられたことがあるらしいから、おじいちゃんなりのおばあちゃんのお手伝いのつもりなんじゃないかと思う。




「失礼します」

 外から声をかけ、客間の襖を開ける。

「絵梨ちゃん、ありがとう。ちょうどお話終わったところよ」

 おばあちゃんがにっこり笑って私を見る。女性は真っ赤になった目をハンカチで押さえ、男性は目に涙を浮かべていた。だけどその顔に会った時の悲壮感はなく、どこか穏やかだった。

「息子が作ったお菓子なの。どうぞ食べてちょうだい」

 お菓子を出しながら女性の隣に立つ男の子に目を向けると、男の子も私を見てにっこり笑ってくれた。

 私は嬉しくなって、思わず「良かったね」と言ってしまった。男性はきょとんとした顔で私を見て、女性は少し驚いたような顔をした後、優しく微笑んで「ええ」と言ってくれた。

 呆れたように苦笑するおばあちゃんと穏やかに笑うお客さんに見送られて、私は急いで退出した。

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