濡れ衣を着るのは主人公じゃない

墓荒らしと言われなかったら、子供二人連れて歩いているから誘拐犯と間違われたかと不安になるところだった。もしかしなくても、リーブの墓でのことを勘違いされた以外ないだろう。


というか、ぱっとしない独り身童貞がなぜ美少年と美少女を連れて歩く状況になっているのか聞きたいんだが。俺は今何してるんだ?


「濡れ衣。リーブの墓を荒らしたのはあの変態だし。」


レイが令状のようなものを持つ男に言い放つが聞こえるわけがない。ワンとリーブがレイの言葉に反応して俺を見てくる。まあ、この中で会話するのは俺しかいないわな。


「いえ、あの墓はリーブ本人の…。」


俺はそこまで言って黙ってしまう。リーブ本人の墓。そう、あの墓の持ち主は、今ここに居る明らかに頭が半分ないボーとした子供ゾンビの墓なのだ。これが何を意味するか。


禁忌である死霊術を実行してしまったこと。つまり、万引きを否定するため人を殺したというアリバイを語ろうとしているようなものだ。馬鹿なの?


「リーブ本人の…なんです?」


「申し訳ないのですが、事件について詳しく説明を伺ってもよろしいでしょうか?」


丁寧にいこう。あくまで協力的に、下手に出よう。最悪レイの言う通りリーブの墓荒らしで捕まるだけだ。それならばなんとかすれば誤解を解くことができるし、投獄されたとしても刑期は短いはずだ。


令状を持った男は口を開きかけて、目をこちらに向けたまま後ろに手招きをする。すると打合せしていたのか、二人の男とレイが令状を持った男のもとに集合した。そのまま2、3言葉を交わすと、俺の方に向き直る。


「えー現在10件以上墓荒らしが行われていまして、手口や目撃証言から犯行は同一犯によるものだとわかっております。」


続けるようにレイが俺を指さしてくる。いつのまにやら男たちと同じ軍服のような服になっている。そんなこともできるのか。


「気づかれていない犯行を把握して罪を軽くしようとしたようだけど、残念!これ以上ソーンには情報を開示しない!」


こいつは本当に自由だな。割とまずい状況な気がするのに、レイがふざけているせいで実感がわかない。


レイが言うことが確かなら、完全に犯人であると確信されているようだな。しかし、その犯人がどうして俺たちなんだ?俺がここ一週間でやったことと言ったら、薪割りと墓参りぐらいだ。墓荒らしなど…。


やっていたとしても自分の墓、ワンの墓、リーブの墓の3件だ。10はおかしい。なんとか言ったら?とレイが急かしてくるので、とりあえず話をつなぐ。


「…仮に僕たちだとして、どうしてわかったんですか?」


同じ軍服のようなものを着た男たちが顔を見合わせると、数人が静かに笑う。ワンが笑った男たちを睨みつけると、咳払いをして軽く頭を下げてきた。なんかワンって名前もそうだけど、お前犬みたいだな。


「失礼。服装を変えてから言うべきかと思ったもので。」


「服装?」


俺たち4人が首をかしげていると、令状を持っていた男が懐から別の紙を取り出し、書いてある文字を俺に見せながら読みだす。


「暗闇で目立たない服装にはフード。腰に頑丈なポーチ。女性。女性ではありませんが、証言では男に見えたという話も上がっています。それに、これだけしかない条件にぴったり引っかかる人も珍しいと思いませんか?」


絵も書いてあるが見覚えしかない絵だ。


「あ!」


レイがふざけるのをやめて男の持っていた絵を指さす。


「…僕の服装?」


「その服どこで手に入れたの?」


「家を出る時にその服装になっていたが?」


レイとワンが俺に詰め寄ってくる。この服は確か、ルベルの部屋にこれ見よがしに置いてあった。つまりこれはもとはルベルの服だが…。


「今日、このあたりに墓荒らしの拠点があるという匿名の情報提供者が…。」


令状を持った男がとどめを刺すように、追加情報を教えてくれたが、俺たちはもう聞いていなかった。…そういえば俺が墓から出たとき、ルベルは声を変えていたっけ。あれは捜査をかく乱するためのものだったのか…。


「馬鹿!濡れ衣を自分から着てんじゃん!」


誰がうまいことを言えと…。


「自分は彼と昨日知り合ったばかりで、無関係だ。」


ワンもあっさりと手のひらを返す。事実だけど…。


「リーのパパを埋めて、墓直してくれた。」


事実だけどなぜ今、無垢な少女を騙して死体遺棄をした風に?罪を増やそうとするんじゃない!


「目撃証言で一人の犯行だとわかっていますが、重要参考人としてご同行願います。」


もういいだろう、諦めなさいと言いたげに、俺の方に男が歩いてくる。つまりなんだ、ルベルにしてやられたということか。


俺はしょうがないと思いつつどう弁明しようか、仮に捕まったとして刑期はどのくらいかと考えていたのだが、手錠の代わりに腕輪をつけられた瞬間に自分が脱獄囚であったこと、その前は死刑囚であったことを思い出すのだった。

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