その23 欠けたピースは掴めない

「一番早く来たのが太田とは、意外ね」

「トラブルに巻き込まれなければ、遅れることはないですよ」


 生徒会室に遅れてくる太田の印象が強いけど、確かに時間通りにくる時もあった。

 トラブルに巻き込まれて遅くなったのなら、ほぼ毎日、巻き込まれてることになるけど。

 遅刻した言い訳に使っているだけなんじゃ……。


「信じないなら別にいいです。おれは、別に副会長さんを尊敬してるわけじゃないので」

「今はもう会長よ。尊敬なんてしなくていいわ。ただ、言うことは聞いてもらうわよ」

「生徒会を私的運用でもするつもりですか? 内容によっては従いませんよ」

「普通のことを普通にしてくれればいいわよ。私は、元会長ほど有能ではないの」


 その有能さも、侵略者の力を使っていた紛い物の実力だけど。

 大垣くんは、不正を使いこなす『腕』はあったのだと思う。


「あなただけではなくて、猪上にも同じことを言うわ。とりあえずは、時間通りにきなさいって話ね。太田も、トラブルの件は分かるけど、遅刻は厳禁よ」

「善処はしますよ。だけど、どうしても無理な場合もありますから」

「教室まで迎えにいきましょうか? 太田に降りかかるトラブルを見つけ次第、私が防げばいいだけだし」


「いや、いいですって。副会長、じゃなくて、会長さんに迷惑はかけられないです」

「遅刻する方が迷惑なのよ」


 これからは太田と猪上の手が必要になってくる。

 今までは大垣くんと私で作業を分担して、後輩二人への負担を軽くしていたけど、さすがにこれから私一人で背負うには多過ぎる仕事量だ。


 いずれパンクする。

 そうならないためにも、そしてそうなった場合も見越して、後輩二人には教えておくことがたくさんあるのだ。

 生徒会活動の時間も限られている。

 だから遅刻をされると教える時間がなくなってしまう。


「分かりましたよ……。時間は守ります」

「よろしくね、太田。……さて、次は猪上ね。今日、学校にきてるわよね?」

「昼に食堂にいましたから……、早退していなければいますよ」


「二人は別クラスよね? よく食堂で見つけられたわね……」

「不快感で目につきますから」


 いい加減、二人の不仲もどうにかしたい……。

 自然と競争になっているから向上心という点ではあってもいいと思う。

 だけど、二人の生徒会でのトラブルも多い。

 どうにかしたいが、私が介入して無理やり仲直りさせても、それは意味がないし……。


 と、考えている内に時計の針が進んでいく。

 気づけばもう一時間、猪上はまだこない。


 そして同時に、呼んでおいたホランも顔を出していなかった。


 今日の分の仕事は私と太田でなんとかなるけど、本当は全員でこの場に集まり、新しい生徒会として頑張っていこう、という顔合わせが主な目的だった。

 一回目からこうもピースが合わないとなると、先行きが不安だった。


 なんだかんだで大垣くんが会長の時は、太田も猪上も集まってくれていたのに。

 連絡もなく、すっぽかす、なんてことはなかった。


「……いや、それも力のおかげだから、だもんね」

「会長、作業の手、止まってますよ」

「少し中断するわ。猪上を探しにいってみる」


「会長が自分で、ですか? スマホで連絡を取ればいいじゃないですか」

「猪上の連絡先、知らないもの」


 以前は大垣くんが知っていたため、私は連絡先を交換しなかったのだ。

 一応、私もスマホを持ってはいるけど、大垣くんに教えられた機能しか使いこなせていない。

 元々、連絡なんてお父さんかお母さん、大垣くんとしかしなかったから、それ以上の機能を覚える必要がなかった。


 猪上と連絡を取るには、ソーシャルネットワーキングサービスに入らないといけないらしいし、私の場合はネット制限がかけられているので多分できない。

 細かいことは詳しくは知らないけど、お父さんなら必要ないって言う気がする。


 学園にはいるだろうし、人の目がたくさんある。

 目立った成績ではない生徒ならば埋もれてしまうだろうが、猪上は生徒会役員だ。

 嫌でも目につくはず。


 聞いて回ればいずれ猪上がどこにいるのか分かるだろう。


「太田、留守番をお願いするわね」

「あ、会長――」


 太田が言いかけた言葉を最後まで聞かずに、私は生徒会室を出た。



 一つの校舎に三学年と五つのクラス。

 計五校舎あるため猪上の足が軽ければかなり探し回る可能性も考えられた。

 太田が言いかけたのはそういうことだろうけど、しかし猪上はあっさりと見つかった。


 猪上のクラス教室で、彼女は数人の生徒と駄弁っていた。

 生徒会役員とは思えない、机に腰を乗せた行儀の悪い座り方だった。


「………………猪上」

「げっ」


 扉の傍にいる私と目が合って、苦虫を噛み潰したような表情と共に声を出す猪上。

 その反応は、背徳的なことをしたって自覚があるみたいね。


「どうして生徒会室にこないのかしら?」

「友達の悩み相談を受けてたんすよ。ちょっと時間がかかってるだけで、終わればすぐに向かいますよ。……不機嫌そうっすけど、まさか悩める友人を見捨ててまで時間通りにこいとか言うつもりすか?」


「……いいえ、そうならそうと連絡をしなさい」

「誰に、っすか? 会長はもういないのに」


 私と連絡先を交換しておらず、太田とも当然しているわけがない。

 そうなると連絡のしようがない。

 しかし、誰かに伝言を頼むとか、先生に伝えておくとか、思えばやりようはいくらでもある。

 方法を探さずに怠ったのは猪上だ。


「……今日は怒らないわよ。それで、もう終わりそうなの?」

「まだっすね。というか今日は無理そうっす。あたしは明日から参加するのでよろしくお願いしますよ」

「ちょっと!」


 周囲のクラスメイトを連れて教室を出ようとする猪上を引き止めようとしたが、


「なんすか、副会長」

「……私、今日から会長になったのよ」


「そっすか。それで、引き止める理由はなんすか? 事情があって生徒会活動に出られませんと言いましたけど……。緊急の仕事が溜まっているわけでもないですし、あたしがいないと問題がありますか?」

「今日は、全員を揃えてこれからの方針を話し合うつもりだったの。役員であるあなたがいないと話し合いが始まらないのよ」


「べつに……決まったら教えてくださいっす。どうせあたしはみんなの意見にうんうん頷いてるだけなんで」

「そういうわけにもいかないでしょう……!」


 全員がその場にいることに意味がある。

 意見がなくても構わなかった。


 だが、猪上は意見を積極的に言うタイプだったはずだ……なのに。


「会長がいない会議で発言することに、意味を感じなかっただけっす」

「…………」


 大垣くんがいないだけで、どうしてこんなにも影響が……。

 なんで……! 

 大垣くんは、偽物の力で二人を操っていたって言うのに……!


「とにかく今日はいけないので。話し合いを明日にずらしてもらえると、あたしとしては助かります」

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