第9話

書籍


原作小説

『ムジカ・レトリック』シリーズ

 FE文庫より刊行。略称は「ムジカレ」。第1回FE文庫ライトノベル新人賞「大賞」受賞作。2009年5月に第一巻「ムジカ・レトリックの園」が発売となり、2014年6月に第十六巻「ムジカ・レトリックの織」を最終巻として完結。全巻とも「ムジカ・レトリックの○」というタイトルで、○には漢字一文字が入る。

『ムジカ・レトリック』第2シリーズ

 FE文庫より刊行予定(※8)。2020年8月10日に、12月25日の発売が発表された。実に6年半ぶりの新刊、新シリーズだが、ミスリル経典テロ事件の一連の動向から、実際に刊行されるかは不明。2020年9月26日現在、『ムジカ・レトリック第2シリーズ』としか発表されていないため、ムジカレ同様に漢字一文字のサブタイトルが入るかどうかは不明。

 ミスリル経典テロ事件については同記事を参照


既刊一覧

 ムジカ・レトリック シリーズ

  1  ムジカ・レトリックの園 2009年5月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  2  ムジカ・レトリックの笑 2009年9月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  3  ムジカ・レトリックの焔 2009年12月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  4  ムジカ・レトリックの瞳 2010年4月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  5  ムジカ・レトリックの星 2010年8月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  6  ムジカ・レトリックの鈴 2010年12月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  7  ムジカ・レトリックの春 2011年3月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  8  ムジカ・レトリックの箱 2011年9月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X 

  9  ムジカ・レトリックの旗 2012年1月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  10  ムジカ・レトリックの鍵 2012年6月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  11  ムジカ・レトリックの夜 2012年10月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  12  ムジカ・レトリックの睡 2013年2月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  13  ムジカ・レトリックの梢 2013年7月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  14  ムジカ・レトリックの琴 2013年10月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  15  ムジカ・レトリックの夢 2014年1月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X

  16  ムジカ・レトリックの織 2014年6月25日発売 ISBN978-4-04-XXXXXX-X


漫画

 『ムジカ・レトリックの園』から『ムジカ・レトリックの織』まで、『ムジカ・レトリックの鍵』を除いた原作15冊がコミカライズされている。全作品とも、FEコミックスより発売され、必ず上下巻構成となっている。しかし、原作小説のページ数はまちまちのため、『ムジカ・レトリックの夢』のコミックスは一冊あたり450ページの厚みとなっている。また、『ムジカ・レトリックの園』は『ムジカ・レトリックの楽園』、『ムジカ・レトリックの笑』は『ムジカ・レトリックの微笑』といったように、『ムジカ・レトリックの○□』というタイトルとなっており、○□には原作タイトルである○を含んだ二字熟語が入る。コミカライズを担当した漫画家も、15作品全員が別であり、それぞれオリジナル作品が多くのメディアミックスを経ることになることから、「アマデウス・メディア・ミックス」とも呼ばれる所以となっている。

  「ムジカ・レトリックシリーズ #アマデウス・メディア・ミックス」も参照

『ムジカ・レトリックの楽園(上)(下)』

 作画は岸原涙香が担当。原作は『園』。第1巻のコミカライズ。FEコミックスピカにて2009年5月より2011年4月号まで連載された。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの微笑(上)(下)』

 作画は印旛らんが担当。原作は『笑』。第2巻のコミカライズ。FEコミックベガにて2009年9月より2011年10月号まで連載された。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの紅焔(上)(下)』

 作画はJIGSAWが担当。原作は『焔』。第3巻のコミカライズ。FEコミックケフェウスにて2009年12月より2011年11月号まで連載された。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの無瞳(上)(下)』

 作画は雀つばめが担当。原作は『瞳』。第4巻のコミカライズ。FEコミックカシオペアにて2010年4月より2012年3月号まで連載された。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの彗星(上)(下)』

 作画は戸隠ミカミが担当。原作は『星』。第5巻のコミカライズ。FEコミックベガNEXにて2010年8月より2012年7月号まで連載された。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの銀鈴(上)(下)』

 作画は風紫禁が担当。原作は『鈴』。第6巻のコミカライズ。FEコミックレオーネにて2010年12月より2012年11月号まで連載された。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの春宵(はるよい)(上)(下)』

 作画は翻光彦が担当。原作は『春』。第7巻のコミカライズ。FEコミックスピカにて2011年3月より2013年2月号まで連載された。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの文箱(上)(下)』

 作画はらく葉なみが担当。原作は『箱』。第8巻のコミカライズ。FEコミックベガにて2011年9月より2013年8月号まで連載された。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの御旗(上)(下)』

 作画は梶尾ツィルが担当。原作は『旗』。第9巻のコミカライズ。書き下ろし。2013年12月発売。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの白夜(上)(下)』

 作画は儚月美澄が担当。原作は『夜』。第11巻のコミカライズ。FEコミックアルキオネにて2012年10月より2014年9月号まで連載された。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの極睡(きょくすい)(上)(下)』

 作画は長科まことが担当。原作は『睡』。第12巻のコミカライズ。FEコミックベガウェブ版にて2013年2月より2015年1月号まで連載された。FEコミックスより刊行

『ムジカ・レトリックの抹梢(上)(下)』

 作画は白檀イオが担当。原作は『梢』。第13巻のコミカライズ。書き下ろし。2015年6月発売。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの琴歌(上)(下)』

 作画は桂アンジュが担当。原作は『琴』。第14巻のコミカライズ。FEコミックポーラーにて2013年10月より2015年9月号まで連載された。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの夢中(上)(下)』

 作画は安賀多かなえが担当。原作は『夢』。第15巻のコミカライズ。書き下ろし。2015年12月発売。FEコミックスより刊行。

『ムジカ・レトリックの織姫(上)(下)』

 作画はぽつねんが担当。原作は『織』。第16巻のコミカライズ。書き下ろし。2016年5月発売。FEコミックスより刊行。




 わたし以外の10人全員がムジカレを読んでいたことがわかったウェブ会議は有意義ではあった。記憶を奪われてもなお彼らは再度、レビューを担当するために各作品に挑もうとしている。大丈夫、イリヤの空とか短いからね……、終わりのクロニクルはそうでも無いけど。アクセル・ワールドも長いな。ともかくレビューを書くために彼らは全部読むのだ。生徒会の一存なんて大変だぞ。前作のマテリアルゴーストも読まなければ……、それを言うと都市シリーズと終わりのクロニクルと境界線上のホライゾン読まなきゃだめなんじゃね? 死ぬんじゃね?

 一方で、わたしだけは自分の担当作を読めずにいた。Zoomのチャットを終わって、頬杖をつくわたし。ムジカレが再販なんてされるわけないし、かと言ってネタバレサイトを見ようと……、フリー百科事典を見たら驚いた。辺見ユウ、特段スランプもなく最終巻まで持っていっている他に、早霧谷が言ったとおり『鍵』だけがコミカライズされていない。第一巻の『園』発売のタイミングから、必ず上下分冊で最終巻までコミカライズだなんて、あまりに恵まれている。そもそも新人賞デビューのコミカライズに岸原涙香をいきなりつけるだなんて。ラノベのイベント誌ではコミックエッセイ描いてるよねあの人。各社でイラストもやりながらコミカライズをいきなり抜擢されるだなんて、どれだけムジカレに期待度があったんだよ! コミカライズをないがしろにしていたんだぞゼロ年代って。あの、あのハルヒも、SAOも、あんまり話題にされないんだから。とはいえ、とある科学の超電磁砲の冬川基とか、とらドラ!の絶叫とか、狼と香辛料の小梅けいとあたりから徐々に徐々に比重が上がってきたわけです。極稀に、例えば「紫色のクオリア」なんかはイラストの綱島志朗がコミカライズを担当したというもう贅沢の極み状態なのだけれど、それってほとんどありえない状態なので。だって、漫画家と絵師さんは別物。それでいいと思うし、兼任なんてほとんど考えられない。というのに。最終巻はぽつねん先生が自らコミカライズを担当しただなんて、マジでムジカレ贅沢だよな。15人が15人タッチも違うというのに、きっと巻ごとにマッチしているんだろう。そうに違いない。わたしはネタバレを踏みそうになるのを恐れ、フリー百科事典を閉じた。途端に口寂しくなる。

「……たばこ」

 別に黙っていたわけではないが、残念なことにわたしは喫煙者なのである。酒を飲んで紫煙を散々吐き散らして、キーボードに向かう古いタイプの作家なんですよ~、っていうのは言い訳。ほら、かっこいいじゃない。半分の月がのぼる空の看護師とか。

 とはいえヘビースモーカーではない。室内は本の山であるため、野外で吸うのだ。ゴロワーズの箱を開ければ……、空じゃないか。コンビニまでは徒歩二分くらいだから買いにいけばいいのだけれど。と、スマホを一つもって、マスクを耳にかけて玄関を出る。頭の中がぐるぐる回っている。ムジカレがこんなにもズルい作品だなんて、ウィキを見るまで知らなかった。いや、忘れていたのだきっと。アマデウス神に愛された・メディアミックスだなんて、わたしは上手いことを言ったものである。シンデレラストーリーの更にその上を行くメディアミックス。

 ムジカレの第一巻を読んで、あの人達が担当作品を忘れたということは、パイクさんとわたしではないが、野﨑まど的なにかがあるのかもしれないな、でもその謎を解くには……。

「あー、もしもし? いまいい?」

まず一人、聞きやすい相手がいるのだから電話をかけた。

『いいよ。どうしたの?』

「ヒビナさあ、夏にムジカレ読んだんでしょ?」

『うん。読めってちぃが言うから」

「なにか一番大切な作品について忘れたりしていない? ヒビナの一番好きな作品ってなんだっけ」

『なんだろう。ゼロの使い魔とか幼女戦記とかバカテスとかそういう異世界系だけど……、一番って難しいな』

 どうやら、そのあたりの作品がまっさきに出てきたあたり彼女には影響はないのだろうか「205番お願いします、Suicaで。あざーっした」。レビュアーと早霧谷のあいだで、特に違いなんて無い気がする。8月9月にムジカレを読んだことに変わりがないのであれば。

「非実在ライトノベルのレビューをする会、面白かったよ」

『よかったね』

「本当。ハルヒも人退もオタクだけど、あの人にはかなわないや、って思ったもんもう生き様が、その作品そのものなのね」

『あんたの生き様はかなりムジカレだから』

 そういうものかねえ、とビニールを破って封を開け、一本に火をつける。香ばしい香りと苦味が入ってきて思わず空を見上げた。あと締め切りまで10日か……。

 ん?

 んんん?

 うなじに違和感を覚える。スマホとたばこの箱をポケットに仕舞……、って!

「やべっ、制服!」

 今更普段からおさげなんてしていない。29歳だぞ29歳。そのままミディアムかスーツのときにハーフアップにするくらいなのに、さっきのウェブ会議のまま制服で、ふたつおさげで! 胸元を見れば、ぶっふぉ! 高校時代の校章入名札に3-9井守の印字まで!うわ、うわ! ちょっと、なにこれ! 公開羞恥プレイじゃない! おもわず肩を抱いてしまう! シルエットだけを捉えたらJKがコンビニ店先でたばこ吸ってることになるじゃん、っていうかレジにいたのここの店長だよねっていうことはわたしが普段通勤しているOLで何故か今夜に限って女子高生のコスプレしているってわかっていて売ったんだよねちょっと! とガラス越しにレジを向いたら直前までこっちを向いていたのかふいっ、とそっぽを向いてしまった。右手、目線の高さにあげているってそれスマホもっているんじゃないのか吊し上げかわたしの恥ずかしいコスプレ写真を撮ったのかちょっとまてえ!

 と、店内に突撃しようとも一瞬考えたが、駐車場に続いて2台車が入って客がコンビニに入っていく。今再度店内に入ったら、面倒なことになる……。ああ、もう!

 深く紫煙を吸い込むと灰皿にゴロワーズの吸い殻を放り込んで、小走りで家に戻る。どうか、誰ともすれ違いませんように。どうか。どうか……、ほんの一分ちょっとの距離が永遠のように遠く、もし本当に女子高生と思われたらそれはダメージとしては小さいが今の時間補導されてもおかしくない時間だし未成年の喫煙とか言われたら面倒! かといって、いい年してコスプレしているなんてことを見られてももっとダメージがでかい!

 玄関に身体を滑り込ませるとダンパーで自動的に閉まるのを待てずに音をたててドアを閉め、鍵を掛けて、チェーンロックもかけた。

「いや……ああああああ!」

玄関脇の姿見には、どう見たって無理した女子高生が映っていた。いや、無理だって。すぐにおさげを解いて、髪をわしゃわしゃ~っとかきまぜる。今の姿とまるで別の姿になりたかった。ブレザーもブラウスもスカートも、黒ソックスも脱ぎ捨てて、いいやもうシャワー浴びて寝ようとボイラーのスイッチを入れた。

 机の上のコーヒーは醒めていたが、逆に一気に飲み干せて少しは落ち着くことができた。まったく、みなさんZoomの会議のあと自分が普通の恰好だと思って外に出ると大変なことになりますよ。……、スカートはいていてよかったよ本当。


 制服を片付けて、シャワーを浴びて。結局その日も布団に入ってラノベを一冊読んでから就寝です。ちょっと負けヒロインはあざとすぎたから負けたんじゃないのこの新人賞。


 翌朝。ズゥゥん、と沈んだ雰囲気で出社したわたし。金曜日だし、たいして急ぎのこともないので、ぐちゃぐちゃになっていた机周りの片づけでほぼ一日が終わるかな、というゆるゆる気分。だいたい午後三時になるとコーヒーに会うチョコレートとかロータスビスケットをたべて一息つくのが日課なので、給湯室にマグカップを持って向った。他の誰も飲まないブラックコーヒー。わたしがコーヒーサーバーを持ち込んで勝手にドリップコーヒーを飲んでいる。いいもんですよ、ブラックコーヒー。これを飲むと自分が社会に揉まれて疲れていくのを矯正しているな、ってのがわかって。

「井守、スマホうるさいんだけど」

「はい?」

 机の上に置きっぱなしだったiPhone。たしかにぴこんぴこん、告知音が鳴り止まない。消音モードにしていなかったのは申し訳ない。わたしがどんなSNSをやっているかなんて会社の人は知らないが(というかバレたら休職モノだが)、こういう状況がSNSで「バズっている」のだろう、と周りは見当をつけているに違いない。心の安らぐのだから、少しくらいバズるのもしかたないと思うが、なんだろう。


LINE 185件、ツイッターのリプライ、リツイート、いいね! 2540件、ダイレクトメッセージ、17件。


 わたし史上最高に炎上している。なんだこれ、なんだこれ。今日誰ともLINEしていないんだけど! 今日何もツイートしていないんだけど!!!

 文面を見るのが怖くて、電源長押でオフにすると、リュックサックに放り込んだ。

「さ、さあ、コヒーブレークして、て、仕様書終わらせせましょ……!」

「コーヒーこぼしているぞー」

 ガタガタと震えていたのだ。今いれたばかりのホットコーヒーが、手首にかかってそれが腿に垂れ落ちていた。ほのかに熱いな、と思ったのが、

「あっつ、あっつつつ!」


 片付けをしたばかりで良かった。書類のダメージ、ゼロ。パンツもデニムだから大したダメージではない。ただし、メンタルのダメージはとんでもない。醜態にもほどがある。その日はもう仕事にならないな、と思いながらも仕様書を読み込めばいいだけなので泣きそうになりながら仕事を終わらせた。五時半に全員が帰って、わたしは7時過ぎまで非常に非効率ながら仕事を終わらせる。SNSが怖いよ怖いよ、と思いながらも帰路につけば花金だ。さあ……、ムジカレをなんとかしないとな。ちょっと前にツイッターで話題になっていた「Get Wild退社」をキメたら気分は上々。帰りは徒歩だが帰ったら調子にのっているのでわたしの可愛いクーパーでアスファルトにタイヤを切りつけながら走り抜けたい気分だ。どこか遠くまで。

 途中の信号で、スマホを忘れていたことに向き合おうとする。電源をオンに。すると、LINEの通知は300を越えていた。ツイッターは、5000を越えている。いったい、何についてそんなにバズったのか。怖い反面謎だった。理由もなくバズるっておかしくないか? もしかしてGA文庫に出した小説が賞でも取ったのだろうか? いや、それでも二次通過するかどうかだし(※これは翌週9月28日に落選している)、じゃあどうして。

 特に電話の履歴があったわけではないから、わたしの身の回りの人間になにかあったというわけではない。LINEをまず開く。すると、ずらーっ、とメッセージがひとつふたつ、と百人近いアカウントからメッセージが来ていた。


『ちぃさあ、……ファイト』


 だいたいこんなメッセージだ。なにをファイトすればいいのだ。全部目を通すのもアレなのでツイッターに行く。すると、6年も前の、わたしのコメント付きリツイートがどうやらバズっていた原因のようだ。


 井守千尋

 2014年11月30日 22時24分

 そのラノ2015!の辺見ユウインタビューに出てくるくれないのモデルの、ちぃ、ってわたしじゃん!!!

 2268リツイート 3973いいね


 なんてバカなことをつぶやいているの。これが今になってバズったのはいい薬なのだろうが、でも、きっかけが無い。リプが見知らぬ人たちから送りつけられているのは、気分が悪い。ただのワナビ相手に何を、

「何を……」

 ふら、っと前のめりに倒れそうになる。なんとか街路樹で自分の身体を支えることで転倒は免れた。しかし、、、呼吸が、ばくばく心臓がいっていて、ふーーーーー、すーーーーーーー、ふーーーーーーーーううううう!! すううううううううう!!

「ああああっ!」

 スマホを放り投げないでいられたのは、わたしの理性が早く対応をまともな人に仰げとシグナルを鳴らしていたからである。


 雪鷺

 2020年9月25日 13時55分

 昨日コンビニ行ったらムジカレのくれないがタバコ吸ってた。

 1.7万リツイート 2.8万いいね


 この、雪鷺というアカウント。昨夜コンビニに入っていった客のものに違いない! 入り口のドアの前からわたしがくわえたばこで放心状態なところを写真におさめたようだ。それをツイートに貼り付けた。何の配慮か目線と名札の部分は消されている。いや、配慮する心があるならば、そもそも写真を撮ってあげるんじゃない!

 そして、このツイートを見た、大学時代の後輩がリツイートと空リプをした。


 海理

 2020年9月25日 14時28分

 これ……井守パイセンじゃね?

 5859リツイート 1.2万いいね


 悪気は彼には無かったのだと思う。奴はすぐにリツイートしたりいいねをするツイッターの住人。しかしこのあんちくしょう、井守の名前を出しやがって! それですぐにわたしの名前を特定かよ、ってそうかムジカレのくれないのモデルかも、って思ったら特定する奴いるよなわたしだってやりかねないし……。こいつ、ダイレクトメッセージくれているし。他にも何件かダイレクトメッセージ来てるな……、帰ってから見るか。ラノベレーベルからも来ている。どうせ、なにか当選したんだろ。なにせわたしは、ラノベの小説大賞は取れなくても感想キャンペーンにおいては無類の強さを誇る(と自分ではいっていい)プロ読者だからだ。それが高じてそのラノの一般協力者に選ばれるくらいなのだから、きっとまた何か当たったんだね! 嬉しい!

 不慮の事故。わたしはこの雪鷺というアカウントにどうやって写真を消してもらえるか頼み方を悩みながら、家に向った。もう寝たい。布団から出ずにずっと眠りたい、という羞恥心に包まれながら。


 そして、少しだけ思った。案外制服似合ってるじゃん。と。

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