第51話

 「さて、どなたかな?」


 玄関にたどり着き、父はドアノブに手をかける。

 そしてゆっくりと、扉を引いた。


 「こんにちは〜!」


 開いた先には、ラクラス村の住人『カレラ』が立っていた。


 カレラさん、だと!?

 何とかしなければ!


 彼女の姿を見た瞬間、カイルの胸中で緊急ミッションを発動した。

 新たな戦いの幕開けである。


 カレラさんは、この村で最強の一角を担う存在。

 見た目は普通の主婦っぽいが、侮ってはいけない。

 なぜなら彼女は、ラクラス村における全ての情報を握っている、と言っても過言では無いほど、情報通なのだ。


 常日頃、色々なところに出没し、情報を得ていく様は、まるで探偵。

 そして何より、新しいネタを見つける嗅覚が鋭い。

 それだけなら別に構わない。

 そう。

 カレラさんが一番恐ろしいのは、彼女に渡った情報は、一時間もしない内に村全体に広がってしまうという事だ。


 そう。


 カレラさんは『おしゃべり』なのだ。


 今回も俺とティナの事を、鋭い勘で察知したに違いない。

 何とかバレないように振る舞わなければ!

 緊急ミッション『絶対に情報を漏らさない』発動だ!


 心の中で気合いを入れる。


 えっ?

 別にバレてもいいだろって?

 悪い事じゃないし、めでたい事だし?


 何言ってるんだ!

 俺の立場になって考えてくれ!

 バレた一時間後には、村中から冷やかされる事になるんだぞ!?

 『結婚おめでとう!でもあんまり目の前でイチャイチャするなよ?見てられないよ、私は』とか、『お前、ティナちゃんが好きだったんだな。どっちから好きって言ったんだ?まさか、お前から?普段硬派を気取ってるのに、お前から?』とか、茶化されるに決まっている!

 そんなの、俺が耐えれると思うか!?

 赤面しすぎて、頭部が爆発するぞ!

 主人公が頭部爆発で恥死なんて物語、あり得ないし面白くないだろ?

 だから何としても、情報漏洩は防がなければ!


 ミッションの報酬は『ひとときの安寧』。


 いずれは知れ渡る事だ。

 なにせこの村は小さい。

 緊急ミッションをこなした所で、明日には広まっているだろう。


 しかし、今日はイベントが多すぎる。

 今は避けられる精神負荷を避けるべきだ。

 なにせ、これからティナとご両親が挨拶にくる。

 そこでも中々のダメージを負うだろう。


 そう思うとだ。


 今日という日を乗り切る為に、この報酬は譲れない。

 たとえ微少な効果だとしても、必ず手に入れなければならないのだ!


 覚悟を決めて挑むカイル。

 そんな覚悟を知らない父ベイルが、最初の応対する。


 「こんにちは、カレラさん。どうかなさいました?」

 「いえ、私もよく分からないんですけど、頭の中に『テロテロリーン!』と閃光が走りまして。これは何かあるなと!」


 テロテロリーン!?

 突然『この家で何か起きてる!』みたいに感じるのか?

 怖っ!

 嗅覚が鋭いとかのレベルじゃないぞ!?

 にこやかに話しているが、その笑顔と話す内容が合わなすぎて怖すぎる。

 こんなの、誰も隠し事なんて出来ないんじゃないか?


 もはやバレてるとしか思えなくなってくる。


 いやいや待て待て!

 情報を明かさなければ良いだけだ。


 しかしこれ程の的確さ。

 カレラさんが持つ、何らかのスキル由来なのだろうか。

 そうでなければ説明できない。


 カイルはカレラの分析をしていた。

 そんな時間など無いのに。

 そして、その隙間を突いて出たのは、奇しくも父ベイルだった。

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