file 9

「飛び道具とはな、実に面白いッ! だが――」

 典空めがけて放たれた《氣》を見て、典空はなおも笑っている。

「儂を飛び道具で退けるなら、範士が使う弓か火縄銃を持ってくるのじゃな!」

 典空はそう喝破すると、棒を回転させる。

 武士の武器は刀ではなく、槍、弓、銃の遠距離武器だ。典空が棒を使うのは当然のことだ。

「嘘だろ、氣を弾いた!」

 典空が《氣》を弾き返す姿を見た和樹は驚愕し、歯噛みさせられる。

 弾いた氣で後ろの壁にひびが入る。どうやら弾き返したせいで威力が増したようだ。奥義の名前は伊達ではなかったというわけだ。

「我武者羅なのは結構、だがそれだけではな……ッ!」

 典空が棒を回すのをやめ、迎撃の構えを取る。

 鍛えられし棒術による守りは完璧だ。典空の八代目住職は伊達ではない。

「……仕方がありませんか」

 見ていた僧が経典を取り出し、何事か念仏を唱えだす。

「――ッ!」

 念仏を聞いた典空の動きが鈍りだす。

「申し訳ございません。念仏を唱えさせていただきました」

「なるほど、住職とはいえ。儂も霊には違いないからな……!」

 念仏はマイナス電化を乗せた言霊により《霊》の存在に強く干渉するものだと和樹は聞いている。

「ふむ……。そこの僧よ。なぜ守護者を目指す者と同行しておる?」

 典空は構えを解き、僧に問いかける。

「え?」

 僧は問いかけに念仏を唱えるのを中断してしまう。だが典空が策を弄したいわけはないというのは分かる。

「そうですね。最初は、興味本位でありました。遺跡を発掘し、《秘宝》を悪用する連中から守るというお題目を掲げ何をしているのかと」

「……疑われたのかよ?」

 動きを止めた和樹がきょとんとした顔をする。

 とはいえ疑わるのも無理はあるまい、トレジャーハンターはフィッシャーマン・ファウンデーションなどがの社会的地位を保証してくれなければ、ただの盗掘者なのだ。

「しかし、このような依頼にも足を運んでもらい。知恵を用いて謎を解き、怪物と戦う姿を見て。考えを改めました」

「そうか……」

 胸をなでおろす。フィッシャーマンの思想を理解してもらえたのは嬉しい話だ。

 世界を飛び回り歴史に触れ、学問の発展や安全に貢献している

「我々も僧侶もそうです。自分の為だけでなく、みんなが心穏やかに暮らせる役に立てれば、と。我々、僧は思っております」


「……」


 それを聞いた典空は目を閉じ、しばし沈黙する。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る