第7話 想いの行方

ㅤㅤㅤㅤㅤ―― Side こう ――



――私はなつに謝る事が出来た。


考えれば考える程思い至る過ちの数々。

一方的な告白も、気を使って付き合ってくれた事も、何度も過度なスキンシップをした事も、キスをしたことも・・・・・・。

私の謝罪を簡単に許すなつに尚も罪悪感が溢れる。


それなのに、私が座るソファーの前で屈み、|私を見返すなつの視線が熱い気がして、先程まで高ぶっていた熱がぶり返す。


 ああ、私はなんていやらしんだろう。


なつを思って身を引いた事も、なつが思う程献身的なものじゃなくもっと利己的で。

自分の罪悪感を楽にする為だから。


何故かなつは彼氏さんのは別に好きじゃなかったと言い出した。

彼氏さんの事、何度も目で追っていたのはそういう事じゃないの?

彼氏さんと一緒にいるなつは本当に楽しそうだった。

なのに好きじゃなかったと言われても意味が解らない。



ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ≫≫≫≫≫≫



「――ねえこう

「・・・何?」

「キスしたいって言ったらどうする?」


私が一方的に好きだった別れた元カノなつに落された爆弾発言。

元はと言えば、彼女が今付き合っている彼氏にキスをされて “その先” を望まれたからどうしようと言う話しだった。


「え? 彼氏さんと?」

「なんでこの状況で彼氏が出てくるかな?」

「付き合ってるから?」

「・・・・・・、そうだけど。今この状況じゃ、どう見てもこうとでしょ」

「私と? 誰が?」

「わたしと」

なつと? 私が? 何で? あ、好きでなくても出来るかどうか試したいとか?」

「いや、・・・・・・したいから、って言ったら?」

「――え?」


好きな人ならしたくなる。

好きでなければそうならない。

好きでもそうならない。

好きでなくてもそうなる。


そんな大まかな分け方。

それをなつは自分に当て嵌めたのだろう。

どれに該当するか。

それで出した結論。


それが気付けば――


「――私はこうが好きだ」


と、告白された。


「それともこうはもうわたしの事好きじゃない?」

「そ! そんな事・・・・・・ないけど・・・・・・」


正直嬉しい、けど。


「好き・・・・・・だけど」


今でも焦がれる程好きだから、好きかと聞かれては好きと答えるしかない、けど。


「ならキスしてもいいよね?」

「それはダメだよ」


私が制止するとなつが驚いた顔をした。


 なんで驚くんだろう。


非情に魅惑的なお誘いだが簡単に乗るわけにはいかない。

なつは彼氏持ちだ。

私は額や頬はともかく、唇同士でキスをするのは浮気に該当すると思っている。

なつに浮気をさせる様な不誠実な真似はさせたくない


なつ、彼氏さんと付き合ってるんでしょ? なのに他の人としたら不誠実だよ」


キスも、簡単にして良い事じゃないって事は十分に学んだ。




でも、『――私はこうが好きだ』


告白は本当だろうか。

どうして急に?


私が落ち込んでるように見えたからとか。

それでまた、私に気を使ってるだけじゃないだろうか。

しかも彼氏と別れるとか言い出してる。

ここは止めるべきじゃないだろうか。

ずっと一緒にいた。

幼馴染で、親友だった。

それでも私は失敗した。

なつの気持ちも汲み取れずに。


「――あーっと、なつ?」

「なに?」

「ちょーっと、色々衝撃的な事があって思考が追い付かなかったんだけど、お互い冷静に話し合わない?」

「む、うん。まあ私は冷静だけど? こうがそういうならそうしようか」

「あー、ありがとう?」


なんか余計ムキにさせちゃった様な気が。

なるべく冷静に、沈着に・・・・・・。


「それでその、わ、私の事が好きって事で良いの?」

「ああ、そうだよ」

「じゃあ彼氏さんの事は?」

「あーと、別にそんな好きじゃなかったんだ実は」

「よく解らないんだけど?」

「その、なんとなくいいなーって気になってただけ」

「でも」

「逆に聞きたい。なんでわたしが彼の事好きだと思ったのか。わたしが彼と付き合う前の話でお願い。こうが、わたしが彼の事好きだって気づいたのって、こうとわたしが付き合いだしてからでしょ? なのにわたしは彼の事を前から好きだったって思ってるんだよね? なんで?」

「うん、そうだけど。えーっと」


これ名前出して良いのかな?


「そう聞いたの」

「? 誰に?」

「あーと、友達」

「・・・・・・友寧ゆうね?」

「う、うん」


ごめん友寧ゆうね

告げ口したみたいで。

でも、なつも思い当たる節があるみたいだし良いよね?

やっぱりクラスメイトの男子好きな事話してたからかな。


「なるほど」

なつは少し考え出した。


「・・・・・・思い出した」


何かに思い至った見たいに話し出した。


「確か以前友寧ゆうね達と『気になる男子』って話題になって彼の事なんとなく気になってるって話した事あったわ」

「そ、そうなんだ?」


私がいない時の話しだね。

その話し方だと、確かに大して好きじゃないけど兎に角応えたって感じかな。

とどのつまり・・・・・・。


「彼氏に恋愛感情はないの」

「ああ・・・・・・」

「でも正直、今迄恋愛感情が解らなかった」

「・・・・・・うん」

「今回の事で気付けた」

「そ、そうなんだ?」

「告白されて付き合ったけど、好きでもないのに付き合うのは不誠実だ。わたしが一番不誠実だった」

「でも、なつと彼氏さんが付き合うよう後押ししたのは私達だし、なつが悪い訳じゃ」

こうが自分を不誠実だと言うならわたしにも同じ理屈になるよね?」

「うっ」


確かに、好きじゃないのに付き合うのは不誠実だと言ったのは私だ。

その理屈で言えば、なつが彼氏と付き合うのも不誠実だろう。

なつが彼氏を好きでなければ、という前提がいるけど。


世に、相手に告白されて、別にその相手が好きだったわけでもないのにOKして付き合ってる人を全否定している様で悪いけど、別にそんな気はない。

ただ、私や私の好きな相手での関係では、それを不誠実だと思い至った。

そして、自分が思う誠実でありたい、と言うだけ。


「だからわたしはわたしなりの誠実を貫きたい。彼氏と別れる」


なつの誠意は伝わる

でも脳が情報処理しきれない。

嬉しい話なんだけど、頭が待ったをかける。


「・・・・・・だから、彼氏さんと別れる、と?」

「うん。待っててくれる?」


少し不安げに言うなつ

ヤバい、その顔は反則だ。


「うっ、・・・・・・と、その前に、ほ、本当に別れて良いの?」

「いや、何でそこでこうが再確認するの」

「だって・・・・・・」

「だって?」

なつさ、彼氏と一緒にいる時、楽しそうに笑ってたんだ。私と付き合ってる時はそんなに楽しそうじゃなかった」

「・・・・・・え?」

「私に気を使わなくて良いんだよ?」


私は感情で表情が変わらない様、顔にぐっと力を入れて、ソファーから前かがみになって、私の前にいるなつの目をじっと覗き込んだ。

久しぶりに彼女の顔をしっかり見た気がする。

付き合ってる間はよく目を逸らされてた。

別れた後は私が目を逸らし出すようになってしまった。


後ろめたさからくる衝動。

真意を探るために、敢えて顔を近づけてなつの目を見据える。


なつが目どころか顔を逸らした。


「あ、違う! その、今逸らしたのは、その、こうの顔見てるのが恥ずかしかったからで! 嘘とかついてる訳じゃないから! っていうか、こうと付き合ってる時も本当は何度も恥ずかしくて顔見れなかっただけで・・・・・・」


なつが言い訳を口にした。

確かに顔が少し赤い。


 そっか。


 私の事意識してくれてたんだ。


「と、兎に角! 気を使ってるとかじゃないから! 彼氏の事は好きじゃなかった。なんとなくいいかなって思ってただけで。それで付き合うのは、ふ、不誠実だと思う! だからキチンと別れる、それは私の為であり彼氏の為でもあると思うから」


それまで待ってて欲しいと、なつが捲し立てる様に宣言する。

何故か少しずつ仰け反りながら。

顔が更に赤くなっているのははっきり口に出すのが恥ずかしかったのかな、きっと。





なつは、じゃあまた明日と言って帰った。

そして、翌日、なつは彼氏と話し合い、宣言通り別れたと告げた。

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