第4話 ばあさんへ。街へ向かいました。



「まぁ暮らす分には問題ないし、仕事も続けれるか。しかし本当にこれからどうすっかな…」


職人は軽く頭を抱えるが、そんな職人を見る自称女神はあっけらかんとしたものだった。


「とりあえず近くの街に行くのはどうですよぅ?。1人でいるより誰かといる方が楽しいですよぅ?」


「ん?。魔王とやらが支配してるとかじゃなかったのか?。儂がウロウロしても大丈夫なのか?」


自称女神がエヘンと胸を張る。


「ここら辺はまだ辺境なので、魔王の手が届いてないんですよぅ。周囲のモンスターも弱いし、冒険初心者には最適なんですよぅ」


「………嬢ちゃん、今モンスターとか言わなかったか?」


職人の問いに、きょとんとした顔の自称女神が答える。


「そりゃ魔王が居るですよぅ。当然モンスターもいますよぅ」


当然のように答える自称女神に、職人は大きなため息をつく。



「………ちなみに、魔王とやらを倒したら、そのモンスターも消えるのか?」


「消えないですよぅ?。モンスターは元々いるものですよぅ?」


うーんと頭を捻る職人を、不思議そうに自称女神が見る。


「ちなみに、そのモンスターとやらは、熊みたいに人に襲ってくるのか?」


「クマ?は分からないけど、基本的に襲ってくるですよぅ」


物騒なとこだなぁとブツブツ言いながら、職人は壁に掛けていた猟銃を手に取る。


暫くするとまた浮き上がってきたので、予備でもう一丁取っておく。


弾丸もとったら出てくるので、多めに小さな鞄に詰める。



そしてジーンズのジャンパーとズボン、それにトレッキングシューズという動きやすい格好に着替えると、自称女神に尋ねる。


「とりあえず、嬢ちゃんの言う様に街に行ってみよう。話はそれからだな」


「分かったですよぅ。じゃあ、出たら扉の出し方と消し方を教えるので、ちゃんと覚えるですよぅ?」


それから外に出た2人は、出入り口の出し方と消し方の練習をする。


新しい事になかなか覚えるのに苦労しながらもなんとか覚えれたようなので、2人は街を目指して歩き出した。




「ところで、おじいさんは武器を何も持って来てないですよぅ?。モンスターが来たらどうするですよぅ?」


「は?。背中に猟銃背負っとるし、これじゃいかんのか?」


自称女神は不思議そうな顔をしたが、そのまま歩き続ける。


暫くすると木の陰から目の前に猪の様な生き物が姿を現す。


「ボアですよぅ!。そんなに強くないけど、おじいさんは逃げた方がいい─────」

───────────────パーン


自称女神の言葉と同時に、森に音が響く。


その音に驚いたのか、上を見あげると多数の鳥のような影が飛んでいた。


ガチョンと薬莢を排出してリロードをすると、油断なく横たわる猪の様な生き物に近づく。


きれいに眉間を穿たれたそれは、ピクリとも動かなかった…絶命である。



職人は動かないのを確認すると、腰から武骨な鉈の様な刃物を取り出し、血抜きをしていく。


「なんか凄い音だったんですよぅ…ところでおじいさんは、何をしてるんですよぅ?」


「んー?。仕留めた時にきちんと血抜きしないと臭みに繋がるからな。というかこれ、食えるのか?」


話ながらも職人はチャッチャと手を動かし、近くにあった太めの棒に脚を縛った仕留めたボアをぶら下げる。


「そんなに美味しくないけど、この辺りの人は倒すついでに食べてる筈ですよぅ」


「そうか。じゃあ街に着いたらこいつで獅子鍋でもするかな」


職人は軽々と棒を担ぐと、また街へと歩き出す。



「ところで、おじいさんのそれは弓ですよぅ?。凄い音がしたし、あのボアを一発で仕留めるとかすごい武器ですよぅ」


「んー?、こっちには銃はないのか?」


自称女神が「ジュウ?」と頭を捻る。


「…まぁ手軽な弓矢ってとこだな。儂でも扱えるし熊程度ならなんとか出来るな」


「またクマ?ですよぅ。こんな強い武器が要るくらいに、おじいさんの世界も大変なんですよぅ?」


自称女神の質問に、職人が笑う。


「いやいや、これは趣味の様なもんさ。一応駆除も手伝ったりするけど、その程度さ」


「遊びでこんな武器を使うんですよぅっ!?」


なにかを勘違いをしたらしい自称女神が驚いた顔をしているが、職人はあまり気にしていないようだ。



そんなこんなをしてるうちに、大木々の間から木で出来た柵と民家が見え始めた。



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