プロローグ3

「よく我慢したね、沙耶」


 継続的に与え続けられていた熱と、痛みが治まったあとのことだ。耳元に優しく声を掛けられた沙耶は、続けて、子供をあやすように頭も撫でられた。


「……終わったの?」


「そうだ」


 うつ伏せのままの沙耶に養父が答える。


「だから見せてあげるよ。これならば、欠陥品ディフェクターのお前でも、王になることが出来るかもしれない」


 続いて、カシャリと音が聞こえた。

 スマホについているカメラのシャッター音だ。


「さあ、見てみるといい」


 スマホを渡そうとしてくる養父に応えるように、沙耶は上半身を起こして、


「え……?」


 スマホを受け取り画面を見て、沙耶は目を丸くした。そこに写っているのは、自分の背中に、赤い線で模様が描かれているものだったからだ。


(これをお養父とうさんが、わたしの背中に描いたの?)


 とても複雑な魔法陣だった。

 腕にかかるほどに、背中いっぱいに描かれている。


「驚いているようだね」


 絶句し、愕然とする沙耶に向けてそう言った養父は、にっこりと笑みを浮かべたまま言葉を続けていく。


「説明してあげよう。その入れ墨は、お前の魔力を高めるための魔法陣なんだ。それさえあればさっき言った通り、欠陥品ディフェクターであるお前でも、魔王になることが出来るかもしれないんだ」


 その言葉で沙耶は理解した。

 ああ、わたしはこの男の目的のために存在しているのだ。

 ただの道具に過ぎないのだ、と。

 沙耶には今の養父の微笑みが、不気味な、悪魔の笑みであるようにしか見えていなかった。


(もう、どうでもいいや)


 こんな背中になってしまった以上、お嫁にだって行けないだろう。

 学校で誰かに見られるわけにもいかない。


(わたしはこれからどうなってしまうのだろう)


 養父ちちの言う通りであるならば、やがてはわたしが、わたしでなくなってしまうのかもしれない。

 でもそれすらもう、沙耶にはどうでもよくなっていた。 

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