身勝手な考えたち

一色 サラ

第1話 不登校って偉いの?(春海)


 春海は職員室にノックして入ると、数人の先生が無言で立ち尽くしている。そこは、どんよりした空気で漂っていた。ただ、担任の田村先生の姿はそこにはなかった。

生物を教えてくれている村上先生が春海に近づき、「田村先生は、すぐ戻ってくると思うから、教室では自習しといて」耳元に聞えるか聞こえない声で囁く。

 また、あいつ等ら、校長室に来ているのだろう。

春海は、村上先生に「はい」とだけ返事をして、素直に職員室を出た。


教室に戻りとクラスメイトから「どうだった」と言われ、田村先生が居ないから、村上先生から自習をするように言われたことを伝える。

そこにいた誰もが、怪訝そうに、各々の座席に戻って座り、トランプを始める者もいた。

今年は、私たちは受験生というのに、中学生活を1年で止まっている新谷一樹に振り回されている。

別に『仲良しごっこ』するために中学校に、通っているわけではない。嫌なら、転校してほしい。

学校、教育委員会、教師、私たちクラスメイトの責任にして、何も1つ悪くないという考えで、学校に母親と共にわざわざやって来て文句を言っている。その間、教室がどのよう状況になっているかなんて、彼らの頭の中には何1つ予想など出来ないのだろう。そもそもそんな考えなんて持っていないのだろう。被害妄想は自由だけど、巻き込まないでほしい。本当に迷惑だ。

意見が通らないからといって、アンケートと取れ、個々に聞き取りをしろと、受験勉強の邪魔してくるのをやめてほしい。

「あいつ、転校しないの?」

「しないんじゃない。ていうか、クラス全員に謝ってほしいって、言っているらしい」

本当に迷惑だ。謝ってほしいって何なんだろう。現在は、中学3年でクラス替えもしている。新谷一樹は2年の途中から学校に来なくなったらしい。「無視をされた」など、被害妄想に振りまわされるのは不愉快だ。何もしていないのに、なんで謝らないといけないの。自意識過剰に思えてくる。本当にいい加減にしてほしい。他人のために生きているわけではない。新谷の人権を否定するつもりはないが、誰も彼に興味がなかった。いてもいなくても、クラスとしては、誰も困ることもないのだろう。新谷の家に「プリントを届けてほしい」と田村先生に春海は頼まれていた。嫌だったが、断れず、いつもポストに投函していた。同じクラスだからって、こんなわがまま通じるわけない。学校に母親が取りに来いと心では思いながら、いつもマンションのポストに投函していた。それすら、文句が出たらしい。チャイムを鳴らして、届けることが礼儀とか母親から苦情がきたらしい。田村先生も頼んだ身で、春海が乗り気ではなかったこともあるのか、直接は何も言われなかった。田村先生は母親にそこまでは出来ないことを伝えていたことが噂で流れてきた。だったら、田村先生が届けてほしいと更に要求が来たらしいが、そこまではできないと必要以上に1人の生徒を特別扱いは出来ないと返答したらしい。

校長室では相変わらず「学校は何もしてくれない。」と騒いでいるのだろうか。てゆうか、何もしないだろう。学生1人のためにできることは限られている。不登校生のために、同じクラスの生徒だからといって、新谷のために我慢をしたり配慮する必要性は何1つないのだ。本当に来たくないなら来なくていい。困るのは本人で、それを他者に責任転嫁して、学校に何でもかんでも都合の良い環境を作れてきな要求が通るわけがない。それでも「別室で勉強させて」や「保健室でいさせて」など、わがままに言っているらしい。子ども1人の教育もできないくせに、学校の教育に文句を言ってる母親にも反吐が出てくる。合う、合わないは、あるだろう。春海はどうでもいいと思っている相手のことをぐるぐると回想してしまう。

「転校させる方法とか、ないの?」

「どうやれば、いいだろうね」

どうやら、彼の行動はクラス全体のストレスになっているのは事実のようだ。

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