第4話  終戦ではなくて敗戦です

「終戦では無い敗戦です」

              

私は敗戦後、成人するまで日本が戦争を仕掛けた理由も原因も判らなかった。

父が生前に戦地に赴いていた事もあり幼い頃に一度か二度聞いた事があった。

父は樺太庁の小沼にあつた中央試験所で林業技官として奉職していた。

就職してまもなく若き技官は軍隊に徴用され二度も兵隊として戦った。

戦争での話しは、すべて記憶の世界から葬られた様であった。

何処で戦ったのか、どんな部隊であったのか正確な返答を与えないで平成に入り暫くして天国に召された。

その樺太で私は生誕「昭和19年生 1944年敗戦一年前」したのです。


私は、その後青春時代そして壮年時代は仕事及び生活に追われて我が国が敗戦に至った大きな理由も原因も突き詰めないで満足して来た。

戦争に至った事が、映画や記録雑誌などで再考させられたが、それは大きな解決にはならなかった。

大きな理由は、世間を信じていた事、そして我が教師の存在が大きく影響していた。

小学時代の担任は戦地帰りの短気な先生で、できの悪い生徒には暴力を使う事もしばしばあった。 特に男子生徒には厳しくしていた。

先生に怒られて帰ると父親は「男はそんな事でくよくよするな。」と担任の味方をする。

敗戦後の日本は凄まじい生活力に溢れていたと思われる。


父の実家は札幌南部の真駒内にあり樺太から敗戦後引揚げた時分に数ヶ月住んでいた。樺太からの引き揚げは、1948年「敗戦から三年後」6月で真岡「現ホルムスク」から函館に引き上げ船で移動した。

真駒内には進駐軍のキャンプがあり、町内の道路にはアメリカ軍の車両が日夜走り回っていた。

朝・このキャンプから軍用ジープが市内に向けて走り出す。同乗しているヤンキー「米兵」が、走り寄る子供「私もその仲間」らにチョコレートやガムを投げ与える。

「ギブミー・チョコ」などと子供らは声を張上げる。

その光景を、ヤンキーは車上から笑顔で見ている。

私の母親も実家の叔母さんも子供らに交ざって「ギブミー・アイス」などと言いながらバケツを片手に子供らとジープを追って走る。

まだ二十代後半の母であるが、そのは強心臓の女性。

ヤンキーも二十代に手の届く年頃で同年代の国際交流に弾みが着く。

夏場には、ジープからアイス・クリームが投下された。生活が貧しい、物資が無い、子供らは飢餓状態でそれを守る母親の姿が今も胸に焼きついている。

私は、当時四歳であった。


 二十数年後、私は香港でそんな過去の自分を見た。

テレビ報道取材で訪れていた。

大勢の観光客にまとわり着く香港の幼い子ら「ギブミー・マネー」と言いながら必要に観光客に取り付く。

いやがる客もいるが、殆どが何がしかの小銭を渡す。

しかし、ショクな出来事も目撃した。

日本人団体が旗持つ添乗員に引率されて港に来た。子供たちも港で待ち構えている。幾人かの子供がその団体の輪に近づき「ギブミー・マネー」と声を掛けている。

「少し・お金を下さい。お願いします」と日本語を話す子供もいる。

年長と思える日本人は「判った。ほらやるよ」と日本語の大声で財布を取り出し小銭を手に海に向けて投げた。呆然として見ている子供たち。

一人の男の子が海に飛び込んだ。

観光団もその光景を固唾を呑んで見守っていた。

埠頭から飛び込んだ男の子は海面から一揆に海底へと潜っていった。

数分すると片手に小銭を持ってその子が浮上してきた。

仲間が埠頭からその子を引揚げる。

その子は、小銭を投げた年長者に「これでは少ない。もう少し大きい紙幣を下さい」と言っている。

年長は「君の勇気に感動した。このお金をあげるよ」と言って一万円を財布から引き抜き少年の頭を撫でながら渡した。

その子は仲間に万札を見せて付いて来いと手招きした。埠頭から子供たちの姿が消えた。

私は、四歳に体験した進駐軍との光景を、この香港の埠頭で思い出していた。

日本人の年長者の行動は賛否両論あるでしょう。小銭を海に投げ与えた行為。少年への行動への褒美。当時の一万円は高額紙幣であり香港では半年の生活費に当たる換算である。この団体は、日本の大きな農業組織で幹部クラスの観光旅行であった。


私は太平洋戦争の終結に「戦後」と言うが、それ間違いで「敗戦」と言うべきである。

又、戦争は絶対に避けるべきだが、もし・もしも戦争になったら「絶対に勝つ戦い」・「勝戦国」にならなくてはならない。

代議士の数も敗戦後生まれが議員数の九割以上も占めている現状に「ギブミー」の声が理解できるのか。疑問である。 今年76歳を迎えました。


戦争は絶対反対 経済戦争や頭脳戦争は賛成です。

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