第5話

 どれぐらい走ったのだろう、元々体力に自信がない私なのにかなり遠くまで走ってしまったようだ。


「なおくん……」


「はぁっ……はぁっ……ったく、体力ねえのによく走るなここまで」


「な、なんで!なおくんがここに……?!」


 なおくんは息を整えて、まっすぐな瞳で私を見る。


「結希こそなんで追ってきたんだ?」


「そ、それ……は……」


 言えない……本当の事、なおくんには言えない……。


「なんだって良いけど、そんな顔すんなって可愛い顔が台無しだぞ?」


「か、かわっ……?!」


 い、今……なんて?私の事か、可愛いって言った……?


「あ!いやその……!ま、周りから見たら十分可愛いかなって思っただけだからな?!」


「ぷっ……ふふっ」


「あっ……」


 もうなおくんってば、やっぱり敵わないや。


「えへへ、ありがとなおくん戻ろ?」


「お、おう」


 私はなおくんとの距離が少しだけ縮まったことに、思わず笑みが溢れてかなりだらしない顔をしている。

 まだ手を握ったりそういうのはできないけど、近いうちにまた昔みたいな関係に戻れたら良いな、なんて考えていた。




 ☆




 そして放課後、誰も居ない教室で一人待たされる私。


「遅いなぁ……」


 もうそろそろ帰って良いかな?家に帰って今日の反省会したいんだけどなぁ……。


「ご、ごめん……!ちょっと色々あって遅れちゃって」


「いいよ別に、それで話って?」


「昨日待ってたけど全然来なかったのはどうして?」


 あー私がすっぽかした件の子か、顔はまあまあ良いけど私には心に決めた人が居る以上、彼と馴れ合う気は一切ない。


「その件はごめんなさい、何も知らない弟に連れていかれちゃったから」


「じゃあ今日は……?」


「昨日のお詫びだよ?約束してたのに本当にごめんなさい」


 破ってしまった以上は素直に謝っておこう、許されるとは思ってないけど。


「まあそういうことなら……じゃあ一つだけ聞いても良いかな?」


「?言える範囲なら」


「藤崎と付き合ってるって本当なの?」


 その話が本当だったら良かったんだけどね!なおくんと私は幼馴染以上恋人未満の関係だよ!


「付き合ってはない、かな……?」


 やっぱり突然なおくんの名前が出ると少し動揺して、恥ずかしくなる。早く意識する前の関係に戻りたいよー!


「そう……」


 そのまま静かな時間が過ぎていった、時間にしたらたった数分だけど。


「初めて会った時からずっと好きでした!俺と付き合ってください!」


 やっぱりかー、でも答えは最初から決まってる。


「ごめんなさい、あなたとは付き合えない」


「それはどうして……?」


「私ね、好きな人居るの……あなたと会うずっとずっと前から」


 私はそう彼に告げると彼は俯き、覇気がなくなっていた。


「ごめんね?じゃあ私帰るね」


 私はその場を去ろうとした時、不意に手を掴まれた。


「……ふざけんなよ、そんなの!」


「きゃっ……?!」


 い、いたっ……!足が……!


「取り消せ、今すぐに!」


 こ、怖いよ……た、助けてなおくん……!


 祈りが通じたのか、見上げると目の前になおくんが居た。


「黙ってみてりゃ……お前相当な奴だな?」


「藤崎?!帰ったんじゃ……!」


「バーカ、こいつ置いて一人で帰るかよ?俺が居なきゃ何にも出来ねえ俺のをこんな目に遭わせておいて……よく言うなおい?」


 彼は私の手を離して、なおくんに殴りかかろうとするもあっさり避けられる。


「言葉じゃダメなら次は暴力か?もうちょっと頭使えよ?」


「てめぇ……!」


 彼の右手がなおくんの顔目掛けて鋭く振り抜かれるも、あっさりと右手を掴む。


「結希、ちょっと我慢してろ……すぐ終わらせるから」


 掴んだ右手を背中に回して、近くの机に押さえつけた。


「二度とに近付くんじゃねえ、いいな?」


 なおくんは今までに見たことない顔で彼を威圧していて、彼はなおくんを睨み付けてそのまま去った。


「……ふぅ、結希足大丈夫か?」


「ふぇ……?あ、うん……ちょっと捻っちゃったみたい」


「ほら、帰り道一緒だし乗ってけよ」


 私は大きな背中に身を預け、熱くなった顔を見られたくなくてそのまま顔を埋める。

 大切な幼馴染、俺の結希……えへへ、ダメだ顔が緩んじゃう。

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