第12話 グリムによる冒険者としてのレクチャー

 ライルはグリムと近くの森に来ていた。




「グリムはどんな戦い方をするんだ?」


「それはこれよ」




 グリムが手を出すと草で編んだような弓が出てきた。




「それは魔法か?」




 俺が聞くとグリムは左腕にはめてる腕輪を指して、




「これは、ちょっと前にダンジョンに潜ったときに見つけた装備品だ。こいつを発動すると弓が出てくる。しかもこいつはレア度もSだってよ。いや~、いい拾いもんをしたもんだ」




 陽気にしゃべっているグリムだが、ダンジョンはB級以上の冒険者じゃないと攻略できないといわれている。見たこともないモンスターがうじゃうじゃいるし、入るたびに地形が変わって地図が全く役に立たないと言われている。その上、最奥にある魔石を破壊しなければその周辺は魔物の瘴気にやられて人間が住める土地ではなくなってしまう。だから、見つけたらすぐに攻略しなければならないのだが、攻略できる人数にも限りがあるから、なるべくランクの高い冒険者に頼むのが通例だが中には他では手に入らないレアアイテムが出ることもあるのでつい欲がくらんで中に入っては二度と戻ってこないなんてのは日常茶飯事だが、そのダンジョンを攻略するなんてさすがはAランク。見た目はあんますごそうには見えないのにな。


 俺が失礼なことを思ってると、




「お前、こんな強い俺にレクチャーされるなんてラッキーだぞ。ア~ハハハハハッ!」




(うん、こいつは実力があっても頭はバカだな)




 俺は、グリムを頭の中で見定めると、




「ところで、矢を持ってないようだけど、それも装備品から出るのか?」




 俺が聞くとグリムが口元に右手の人差し指を当ててチッチッチというと自慢するように言った。




「矢は俺の魔力を使うのさ。よーく見とけよ」




 グリムは弓を構えて弦に指をかけると緑色の矢が現れ前に聳え立ってる一本の木めがけて矢を放った。やがて命中すると木の中心だけくり抜いて轟音を立てて後ろに聳え立ってた樹々もなぎ倒していった。




「すげえ威力だな」




 感心してるとグリムは、




「今のは魔力を矢の中心に集める感じで撃ったんだ。魔力のコントロールってやつだな。俺はどういうわけか昔からこういうことが得意でな。俺に合う武器が手に入ってラッキーだぜ。それにこれにはいろんな攻撃パターンがあってだな、それはそのうちみせてやるよ――っと、今の音で気づいたようだな。見てみろよ」




 グリムに言われた方を見るとさっきの物音で気づいたのか大量のゴブリンが迫ってきた。




「話に聞いてた数と違いすぎないか」




 俺があまりの多さのゴブリンに驚いていると




「これは、ゴブリンの集落が何か所かあったみたいだな。これはチャンスだぜライル。これを全部狩れば一気にレベルアップ間違いなしだ。それに早くその装備にも慣れたいだろ」


「そんな他人事だと思って」




 俺が文句言ってるとグリムは




「ゴブリンの方がレベルは高いけど攻撃は単純だからそこを見極めれば倒せる相手だ。まあ、やばくなったら援護してやるよ。というわけで気張っていけー!!!!!」


「分かったよ。俺には早くレベルを上げてやらなきゃいけないことがあるからな」




 俺はブロンズソードを構えた。


 すると、先頭にいたゴブリンが雄たけびを上げながら棍棒を振り下ろしてきた。俺は騎士団で何度もゴブリン退治をしたことから侮っていたのだろう。棍棒を避けて背後から首をはねようとした俺に二体目のゴブリンが体当たりしてきた。俺は、避けきれずに派手に吹っ飛ばされていくつかの樹木をなぎ倒してようやく止まった。




「がはっ!!」




 目がチカチカしてるところにゴブリンが飛び跳ねて頭上から棍棒を振り下ろしてきた。




「キャキャキャッ!」




 ガッキンッ!!!




 俺はブロンズソードで棍棒を受けとめた。




「くっ! ち、力負けしてる。ここまで身体能力が落ちてるなんて」


「キャキャキャッ!」


「クソッ!こんなところで終わってたまるか」




 フューン




「グエッ!」




 ドサッ




 ゴブリンが飛んできた矢に撃ち抜かれた。




「おいおい、油断するなよ」




 声のした方を見ると近くの木の枝の上にグリムがいた。




「残りは四体だ。後はお前だけでどうにかしてみな。落ち着いて相手の動きを見れば今のお前でも勝てる相手だぜ」




 俺は息を整えると、ブロンズソードを正眼にかまえてゴブリンの動きに注視した。




 一体のゴブリンが何かをつぶやくと残りの三体が四方に散って俺を囲む陣形をとった。おそらくあの指示を出したゴブリンがこのゴブリンのボスだろう。あいつを倒すことができれば他のゴブリンが動揺してそこにスキが生まれるはず。


 俺は指示を出したゴブリンを第一目標に決めた。




 まず、右から襲ってきたゴブリンの攻撃をバックステップで躱し、背後から斧を振り下ろしたゴブリンの攻撃をサイドステップで躱すとそのままゴブリンの斧が先ほど襲ってきたゴブリンに当たった。




「ッギャァァァァッ!!」


「グッギャッギャギャ」




 俺は動揺しているもう一方のゴブリンを背後から切り裂いた。順番が違ったがゴブリンを二体まとめて倒せたのはよかった。そして、俺は左にいるゴブリンを睨むとゴブリンはおののいて逃げ出した。


 逃げたゴブリンはグリムが放ったフレイムアローで射抜かれた。




 俺は残った一体のゴブリンに向かってブロンズソードを構えた。ゴブリンは一定の距離をとって間合いには決して入ってこない。倒したゴブリンと違って賢いようだ。やはりこのゴブリンたちのボスだったんだろう。するとゴブリンが横に生い茂っている草に手を入れると弓矢を出し構えた。なるほど。周りにはいろんな武器を隠しているのだろう。


 ゴブリンが矢を放った。飛んでくる矢に対し俺は、




『ファイヤーボール』




 矢が焼けて地面に落ちた。




「グギャッ!?」




 ゴブリンが動揺している。


 俺はレベル一になっても魔法が使えなくなったわけじゃない。初級魔法の『ファイヤーボール』と『ウインドカッター』だけは使うことができる。だけどMPが少なくなってるのであまり連発すると直ぐ魔力がなくなってしまう。だから今までブロンズソードだけでゴブリンを倒してきたが今までと違い矢を放ってきたので咄嗟に魔法を使ってしまった。俺は早くこんな事気にしなくてもいいようにレベルを上げようと改めて心に誓った。




 今度はゴブリンが矢を三本連続で放ってきた。俺は一本目をブロンズソードで弾き、二本目、三本目を躱すと跳躍してゴブリンにブロンズソードをつき下ろした。




「グギャッ、グギギギギッ」




 ゴブリンがブロンズソードをギリギリのところで掴んで踏ん張っている。俺は、全体重を乗っけるようにブロンズソードを押した。




「いい加減くたばれ~!」


「グギャッ!!!!!」




 ブロンズソードが突き刺さるとゴブリンは体を痙攣させると動かなくなった。




「ハア、ハア、ハア、や、やった」




 俺は疲れて気にもたれかかるようにして地面に座った。レベル一になったことで身体能力もだいぶ落ちてしまったようだ。




「ヒュ~、おみごと」




 そう言うとグリムは木の枝から飛び降りて俺のところに近づいてきた。その時、何かが懐で震えて光っていた。俺は懐に手を入れて取り出すと冒険者カードだった。




「お、レベルが上がったみたいだな」


「そうなのか。言われてみればさっきまでの疲れが嘘のように引いてるけど、今までと違う感じなんだが」




 俺は騎士団で相当レベルを上げたがこんなことは無かった。




「これは、冒険者特有でな。レベルが上がると冒険者カードが教えてくれる。今みたいにな。それにこいつは覚えられるスキルも教えてくれる。カードを見てみろ。名前の下に出てるだろう。ちなみに名前の上にあるのが今現在のレベルな」




 俺はグリムに言われたようにカードを見た。




「レベルは八まで上がってる。覚えられるスキルは『フレイムバースト』、『ブリザード』、隠密スキル『隠密』か。ん、このスキルの横に書いてある数字はなんだ?」


「それは、そのスキルを獲得するためのスキルポイントだ。カードのスキルの段の上に数字が書いてあるだろう。そいつに指を触れて獲得したいスキルに振り分けてみな。全部使わなくてもいいからな」




 俺のスキルポイントは八十。覚えられるスキルはそれぞれが二十ポイントだった。俺は『フレイムバースト』、『ブリザード』を攻撃のバリエーションを増やすため、『隠密をダンジョンに潜ったときに魔物と鉢合わせする確率を減らすためにそれぞれ取った。覚えたスキルは色が赤に変わるようだ。残りは二十ポイントになった。




「それと覚えたスキルもポイントを使って熟練度を上げる事もできる。スキルを使えば使うほど上がるけどポイントを使えばすぐに可能になる。スキルによって熟練度のMaxが違うから臨機応変にやることだな」


「分かった」




 俺は五ポイントを使って『フレイムバースト』の熟練度をレベル二にした。




 俺は冒険者カードをしまうと、




「依頼はこれで終わりか?」


「いや、依頼はこの先にあるゴブリンの巣の駆除だ」


「じゃぁ、今倒したのは」


「それは、お前に冒険者としての戦い方のレクチャーに丁度いいからやっただけだ。それにレベルを上げといて損はないだろう?」


「それはそうだけど・・・・・・事前に説明が欲しかったというか・・・・・・」




 レオスがブツブツ言ってると




「習うより慣れろだ」




 そう言って肩にポンとやるとそそくさと言ってしまった。


 俺はグリムの人間性がちょっとは理解できた気がした。

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