第4話

 『まもなく終着の横川です。お忘れ物、落とし物のございませんようご注意ください。この電車は横川駅到着後、折り返し普通、高崎行となります。続けてのご乗車は出来かねますのでご了承ください。本日もJR東日本、信越本線をご利用いただきましてありがとうございました。この先もお気をつけて行ってらっしゃいませ。』


 礼儀正しい車掌さんの放送をよそに、一行を乗せた列車は横川駅に到着した。昔日の面影を残すホームの雰囲気に、遥はどことなく感じる旅情にひたっていた。そして、遥はそんなホームの先端部に違和感を覚えた。


 「なんか変な形のホームですね。この先を塞いでいるような感じじゃないですか?」

 「この先がまさに横川〜軽井沢間、略して横軽と呼ばれた区間なんだ。で、この先にあるアプト区間を進むためにここでEF63型電気機関車を連結したんだ。」

 「信越本線経由の特急、急行列車は必ずこの駅に止まることになっていたわ。例えばあさま、そよかぜ、能登、北陸などね。」

 「1997年9月30日の横軽廃止であさま、そよかぜは廃止、北陸、能登は上越線経由になって2000年代には廃止になってしまったのだ。」

 「あさま、そよかぜ、そして急行白山は、後にリバイバル運転が行われたけど、2013年を境に行われていないの。充当されてた189系、489系はもう廃車になっているからもう走らないかも…」

 「'97/9/30に横川機関区はその役目を終えて、その場所に碓氷峠鉄道文化むらが誕生したなり。確か某有名動画閲覧アプリに横軽最後の日の動画が上がってたなりよ。ぜひ見てほしいなり!」

 「さすがよ○つべ、何でも投稿されてるな。」

 「ちなみに、横軽の廃線跡は遊歩道になってるけど結構長くて次の目的地に間に合わないからカットね。」

 「は〜い」

 仕方ない、また来ればいいか…それにしても廃線跡が遊歩道に整備されるなんて他にあるのだろうか。帰ったら調べてみよう。


 




 駅を出て、碓氷峠鉄道文化むらに向かう。ちなみに、横川駅の駅舎は日本名駅舎100選に選ばれている。その姿から一見なんでもない駅のように見えるが、その昔は多くの夜行列車が停泊し、駅前のおぎのやには峠の釜めしを求めて多くの人が行列をなしたというから驚きだ。

 


 鉄道文化むらは駅からすぐのところにある。おぎのやを通って歩き続けると、門が見えてくる。門の横の券売機で入場券を購入、係員に見せて場内へ入場。すると真正面には

あさま幕を掲げた、クリーム色の車体に赤色の帯が入った特急車両と青色の車体に白色の帯が入った電気機関車が見えてきた。


 「この車両が189系で、奥の電気機関車がEF63ですか。なんか不思議と古い感じがしないですね。」

 「この施設でちゃんと適切に管理されているからね。特に、動態保存されてるEF63はたまに高崎の車両センターや大宮へ回送されて整備されてるからね。往年の走りっぷりを今でも発揮できるよ。」

 「そうなんですね。」

 「奥の方にも車両が展示されているから見に行こう!」


 EF63が静態保存されている車庫の横を抜けて直進していくと、数々の電気機関車、客車、気動車や特急車両が展示されていた。

 「すごいっすね…!特にあの銀色の電気機関車なんかピカピカですね!」

 「EF30形だね。もちろん世代じゃないから何の寝台列車の牽引をしてたかイメージつかないけど、貨物の牽引機でだったら見たことあるかな。横に止まってるEF58は彗星の牽引機のイメージだね。」

 「列車によって牽引する機関車も変わるんですか?」

 「うん、経由する路線の特徴で牽引機が変わるね。例えば右のEF80はゆうづる、十和田を引いてたね。」

 「そうなんですね。そういえば気になったんですけど、今残ってる夜行列車ってどんなのがあるんですか?」

 「サンライズ出雲・瀬戸、TRAIN SUITE四季島、トワイライトエクスプレス瑞風、ななつ星in九州、WEST EXPRESS 銀河、カシオペア紀行かな。急行津軽の復刻運転は昨年あったけど、今年以降やるかどうかは分からないしやらない可能性の方が高いと思うね。」

 「へ〜」

 やはり夜行列車は採算がとれないのか…夜行バスやLCCのような格安な移動手段ができて久しいが、そういったものとの競争には勝てないのが現状だろう。時の流れの厳しさを感じた遥だった。











 



 



 その後、施設内のミニSLや人力トロッコに乗ったり、○車でGO!の筐体で遊んだり、ショップで遥が生まれて初めて鉄道グッズを購入する瞬間に一同が立ち会ったりと、様々な体験で楽しんだ。今は13:40。我々は曳舟先輩の指示通り、門を出てバス乗り場に来ていた。


 「こっからどこに行くんですか、先輩。」

 「まあちょっとそこまで、ね♪」

 「ね♪、じゃないっすよ…つーか軽井沢駅行バス乗り場って書いてあるんですけど、まさか行く気じゃないですよね?」

 「大丈夫、私達部活としての実績は毎年出してるからこういう細々した出費は部費から捻出できるんだよ!」

 「写真のコンクールとか、模型ジオラマのレイアウトを作って展示するイベントとかプラレールでレイアウトを組んで、その完成度を競うイベントとかで毎度高成績を取ってるのだ。」

 「問題なく部費も降りたし大丈夫よ。」

 「そういう問題じゃないんだよなあ…」

 軽井沢に行ってどうするというのだ。そもそも何があるかも僕は把握していない。

 「そりゃあ軽井沢っていったらしなの鉄道でしょ。」

 「115系見に行こう!」


 おいおい、大丈夫なのか?これ?道草食うとかそういうレベルじゃないぞ。それから20分近く後に来た軽井沢駅行きのバスで軽井沢へ向かった一行。この便は旧道を通って軽井沢に至るルートで、険しい峠道をグイグイ進んでいく。いかに横軽が超えていた碓井峠が厳しい環境だったかを実感させてくれる。険しい峠道を30分かけて超えるとそろそろ軽井沢だ。バスは駅前ロータリーの改札口寄りの場所に止まった。


 「着いた〜!」

 「ほんとに来ちゃったよ、この人たち…」

 「まあいいじゃない。ちょっとした寄り道よ。」

 「だから寄り道ってレベルじゃないんだって…」

 避暑地として人気の高い軽井沢に到着。ここから僕らは軽井沢駅構内へ。一同の目には東海道線で見たことのある、緑とオレンジの塗装の電車が飛び込んできた。

 

 「快速用車両のSR-1系!この間行ったときは乗れなかったから乗ってみたかったんだよね。」

 「新車はええの〜^^たまらんのぉ〜^^」

 「長野の方に行きたいわよね、これ見ちゃうと…」

 「所持金的に行けなくはないというところが悩ましいなり…」

 「何時になるんだよ…帰りは…」


 雫石先輩は平常運転だった。結果、上田から新幹線で帰路につくことで話は落ち着き、停泊中の15:05発の快速長野行に乗って途中の上田で降りることにした。僕たちは車内で遅めの昼ごはんを摂ることにし、各自横川で買った峠の釜めしを広げている。先生もお酒を飲みながら美味しそうに釜めしを食べている。電車はまもなく軽井沢を発車。上田到着まで約40分ほどの乗車だ。そろそろ初の部活旅行も後半に差し掛かった。もっと続けていたいような、もう帰りたいような。そんな複雑な感じだが、非常に面白かったのは確かだ。さて、周りを見やると――


 「そろそろ降りようか。」

 「うんうん。そうしよー」

 「はっ?次小諸ですけど?」

 「だから、小諸で降りるんだよ?」


 前言撤回。やっぱおうちかえりたい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る