落ちた先は、神の世界でした。

猫屋敷いーりあ

第1話 ガニュメデスの家

痛い…。

痛い……。

なんだこれは…。

足?尻?……それとも背中?

なんでだ。

どこもかしこも痛い…。

起き上がる気力もないじゃないか……。

あぁ…痛い。

まさか、始まる前に終わるのか?


(こいつ起きないな…。)

(ん~でも死んでないし…。いつか、起きるでしょ?)

(おまえは本当に他人に興味ないな。ある意味尊敬に値する。)

(へぇ~じゃあ存分に尊敬していいよ。あぁ!崇めるのもやぶさかではないよぉ。)

(だまれ。この俺がなんでおまえみたいな奴を。)

(ふふっ!いいじゃないか。たまには君も誰かに仕えてみるのはいかがかな?)

(それはおまえの主のことか?ハッ!)

(そんなに毛嫌いする事はないよ。だって慣れてしまえばいい主だよ。)

(いい主?良い悪い以前に色欲狂いのど変態なんて……。)

(ん~それは…否定できないねぇ~)


……。

…死んでるわけじゃないな。

誰かの話し声が聞こえるし。

けど…聞いたことのない声だ。

ついに、売り飛ばされのか……?

まぁ‥‥‥いいか。

布団がすべすべしてる。

叩き起こされそうにもないな。

このままでもいいか。

‥あぁ…‥尻が痛い‥‥。




「…ん?‥‥。」

ここは‥‥どこだ‥?

なんだここは水?海?

なんだここは?

こんな場所‥俺の知ってる町じゃねぇ…。


昨日の記憶が曖昧だ。

思い出す必要があるな・・。

まずは名前…ぺル。馬小屋の端が俺の部屋。

両親は事故死と聞いている。

父さんの姉のモーリス叔母さんに世話なってる。

叔母さんは俺の事が嫌いで家の中には入れない。

俺の仕事は馬の世話と庭の掃除。

それと叔父さんが取ってきた魚を町まで売りに行くこと。

ここまでは合ってるはずだ。

それで…昨日は?

あぁ‥‥庭の掃除中、一番大きな木の周りを‥‥箒で履いてた。

焚火用に落ち葉を集める。

……。

確か……そうだ。

それで…。

それから?

わかんねぇな‥…。

でもこれは絶対に言える。

ここは叔母さんの家じゃない。

こんなに高級そうな布団なんてない。

よく庭に干されてたのを見てたし断言できる。

それに…いい匂いがする。

腹が‥減った…。

それにやっぱり背中‥というか後ろ半身が痛い‥‥。


昨日の事を思い出そうとしたせいで完全に目が冴えた。

こんな高級な布団に二度と寝れる機会はない。

もっと寝ていたかった。

痛い体を無理やり起こして立って、部屋を見渡してみる。

部屋には、高級な布団と水槽とクローゼット。

どれもモーリス叔母さん家で見たことはない物。

高級そうで壊したら叔母さん達に、何をされるかわかったものじゃない。

その中でも一番目を引くのは窓の外。

窓から見えるのは、青。

空じゃなくて水の中にいるみたいな。

視界が、ゆらゆら揺れて・・・

やっぱり水の中にいるのか?


がっちゃ…。


「あぁ~起きたのぉ?おはよう。よく眠れたかい?」


目の前の男はやっぱり知らない奴。

無駄に整った顔。

金髪に青い目。

俺より身長は低くて声が高い。

スカートでも履いたら女に見えるな。

…女か?

「んん~、違うよ?僕は、男だよ?」

「……。それは、すまない。」

俺は声を出していたか?

まぁ…いいか。

「ふふっ。君は物事を深く考えないたちなのかな?とても、面白いね。」

「…あぁ?それより…ここは?というか‥‥俺は何でここに……?」

「んん~。君がどうやってここに居るのかはわからないよ。けれどもここは僕の家。君が寝てたのは客間で、僕の名前はガニュメデスそして、アクエリアスとも呼ばれる者。どうぞよろしくね?」

金髪の髪を揺らし微笑む男は昔、教会でみた天使像みたいな顔。


「あぁ…よろしく?貴族は、名前が多くて不便だな。どっちの名前で呼べばいいんだ?」

「んん~僕は貴族じゃないよ。ただの羊飼いに給仕係だよ。好きに読んで欲しいな。まぁ、友達は僕の事をアースって呼ぶからそう呼んでくれたら反応しやすいな。」

羊飼い。

給仕係。

親近感わくな。

「わかった。俺は…。ペル。ただのペルだ。」

「うん。ペル!仲良くしてね?」


「君は、どうしてあんなところにいたの?」

「あんなところ?俺は…。庭の掃除をしてただけなんだけど。むしろここはどこだよ。」

「んん~…。もしかしたら。君はここに招かれたのかもね?」

「は…?」

「だってネクタルの泉の前で倒れてたし。僕がたまたま通りかかって良かったね。悪魔や魔族、それに最近は東から鬼が引っ越してきたらしいから、ちょっと危ないよね。妖精達もいたずら好きだし。もし、君が彼らに何かをされても抜け出せなかっただろうしね。」

…。

………。

は?…悪魔?鬼?妖精?

…こいつは、何を言っている?

「おい…それは、子供の読む本の内容か?」

「ん?………んーーーーーっ!なるほど。」

アースは、納得したように。

それでいて、楽しそうに笑っている。

「ふふっ。よくわかったよ。やっぱり。招かれたのかもしれないね。それか連れてこられたかのどっちかだね。」

「……連れて‥売られた可能性もあるのか?」

「なんでそう思うの?」

「俺は…邪魔な存在だったから。」

「んん~…。君にも辛い何かがあるんだね。ここではそんな事心配しないでよ。好きなだけここに居てもいいよ。」

「‥‥…あぁ。ありがとう・・親切だな。」

「んん~?そうでもないよ?僕はみんなの事が好きだからね。なんでも頼って。」


クスクスと女の様に笑う。

俺がいつも向けられてた笑い声と違うな。

嫌な感じがしない。


「んで…ここはどこなんだ?俺はボルシアっていう場所にいたはずなんだ。」

「んん~?ボルシア?僕は知らないなぁ。と言っても僕がいた時の、地上の地名と今じゃ違うかもしれないし?ここはオリンポス。神々の館とその眷属・創造物・従者または、それらに準ずるすべての者の楽園であり檻そしてこの世の果てともいえね。」

…は?‥‥この世の果て?

…俺は‥…死んだのか?

庭の掃除をしてただけで…。

俺の…人生はなんのためにあったんだ…。

‥‥‥‥。


「んん~?おっと!おっと!正確には死んでないと思うよ?多分?おそらく?…きっと?」

「どっちだよ。」

「んん~…驚いているけど悲しくはないみたいだね?」

「どっちかわかんないんだろ?それに……どこにいても一緒だしな。」


俺は死んでいるかもしれないし、死んでいないかもしれない。

よくわかんねーって事が良くわかった。

とりあえず倒れてた俺をこんな上等な布団に寝かせてくれたこいつは、俺の知っている人種の中でもお人好しって事がわかる。

さて……。

これからどうしようか?

生き返るべきなのか……?

それとも今のままでいいのか?

……。

…………。

わかんねー。


パンっ!

突然、小さな破裂音が頭の上から聞こえた。

いつの間にか下を向いていたみたいだ。

顔を上げるとアースが、笑顔で叩いた手を合わせていた。


「よし!ご飯食べようか!ペル君は、いま混乱してると思うし落ち着こうか。お腹が減っていたら考えなんてまとまらないよ?それに…ペル君痩せすぎじゃない?ネメア君の筋肉を分けてあげたいくらいだよ。」

合わせていた手を頬の横に持ってきて首を傾げてる。

ますます女にしか見えない。

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