第27話 「レベルアップで楽しさアップ!」

 俺はもう一度スタートボタンを押した。


 【Fight!】

 “ファイト!”


 予定ではリュパンを倒したあと、ボスのブラックドックを退治する時にゲームスタートするつもりであったが、イマダンが既に戦闘不能に陥っているのでスタートボタンを押さざるおえなかった。


 ゲームを始めるとイマダンは股間の痛みなどなかったかのように立ち上がり、剣を中段の構えで戦闘態勢に入った。

 女子たちはなぜ彼が倒れた分からなかったが、無事立ち上がったので気にせず戦闘に集中した。


 俺は近くにいる詩人少女と対峙しているリュパンを狙った。

 リュパンはこちらも警戒して動きを止めて隙をうかがっているようだ。

 こちらも相手との距離をはかって攻略を考えてみたが、このゲームは細かい指定は出来ない、ただ突っ込むだけの単純なシステムなので作戦など練っても意味がない。

 俺はただゲーム操作盤のレバーを前に入れた。


 リュパンは動揺と驚きの顔をしていた。

 さっきまでのイマダンは動物愛を公言していたのに剣を持って戦闘態勢を取っているのと、ロボットのように無表情で向かって来る怖さでリュパンは戸惑っているみたいだ。

 

 リュパンへの攻撃の間合いに入った瞬間、俺はAボタンを押した。

 イマダンの鋭い一刀両断で爺の剣を振り落としたが、リュパンは素早い動きで脇に避けて攻撃をかわした。

 狼の妖精ゆえに動きが素早いのか。

 これは厄介だ。


 そんな時、甲冑少女が他のリュパンにトドメの一撃を与えていた。


「キャイーン!」


 可愛い鳴き声のあと、粒子となって消滅した。

 外見は狼そのものなので、少し可哀想な気がする。

 それにしても妖精の最後は、皆んな可愛い悲鳴で倒れるのか?

 可哀想感はさらに倍だ。

 悪い妖精を退治したのに気分を悪くなる敵キャラの設定はどうにかしてもらいたい。


 “♪テロリロリーン!”


 突然、ゲーム操作盤から陽気な電子音が流れた。

 本来モニターがある部分の中央に英文字が出て、デジタルの疑似音声が流れた。


【Revel 2】

 “レベル トゥー!”


 やった、レベルが上がった。

 経験値50を超えて51以上になったのでレベル2になったのだろう。

 戦闘の途中でレベルが上がるのはラッキーな仕様だ。

 甲冑少女がリュパンを倒したので、その経験値が加わったのだ。

 パーティーの仲間が倒した分の経験値も入るのもラッキーな使用でありがたい。


 手元のゲーム操作盤の右側のA、Bボタンがある部分全体が白い粒子化を起こしゴチャゴチャし始めた。

 そして粒子が固まり安定すると、ボタンが四つに増えているではないか。

 これは……

 おそらくA、B、C、Dボタンだ。

 おかげで最低でも四種類のアクションが行う事が出来る。

 女神の言った通りにゲーム機がより高性能に進化、パワーアップした。


 目の前にはリュパンが待ち構えて危険でいっぱいであるが、新しいボタンを確かめずにはいられない、そんな気分の年頃な自分。


 まずはCボタン。

 

 “ポチッと!”


 剣の構えが変わった!

 最初は上段の構え、次は下段の構え、そして次は剣を右に傾けて横から切る脇構えに変わり、最後に突きの構え、そして元の中段の構えに戻った。

 思っていたよりバラエティー豊かなポージングが出来てゲーマーになった俺には飽きない使用だ。


 今度はDボタンを押してみた。

 

 “ポンッ!”


 イマダンはその場で垂直跳びのジャンプをした。

 あったらいいなの動きが手に入った。

 これは戦闘だけではなく、さまざまな場面で使えるアクションゲームではメジャーな技だ。

 これで技のレパートリーがかなり増えた。


 しかも自分がボタンを試し打ちしている間も敵のリュパンは待っていてくれて、人を脅すだけの本当は戦闘向きな妖精ではないのが分かる。


「あなた、いったいなにをしてるにゃん……」


 驚きの表情を隠さない詩人少女に不審がられたが、俺ではなくイマダンを見ての発言なので気にしない。


 ジャンプはレバーとの組み合わせが出来るかも知れない。

 そう思いながらもリュパンの素早さに対応する技のコマンドが思い付かない。


「キャイーン!」


 悩んでいる間に甲冑少女がもう一匹のリュパンを退治した。


 “ビビビビビ!”

「キャイーン!」


 目の前のリュパンも詩人少女のステキな魔法のステッキのビームでトドメを刺し撃退した。

 妖精っ娘は役に立たないのは仕方ないが、魔童女は右往左往しているだけでなにもしていない。

 杖で叩くだけなの攻撃ではリュパンのスピードには追い付けなく、どうする事も出来なかったのだろう。


 でも、よし! リュパンは全滅した。

 これで最後の敵、ブラックドックこと犬太郎の番だ。

 タイムもまだ一分を切ってない。


 妖精っ娘をふくむ五人はおのずとブラックドックを等間隔に離れて囲むようにジリジリと間を詰めて行く。


「ガァオー‼︎(これで勝ったと思うなよ、所詮奴らは余興に過ぎないのだからな……)」


「敵を撃ち抜け! にゃん!」


 ブラックドックが言い終わる前に詩人少女がステキな魔法のステッキのビームを発射し、ブラックドックの首元を直撃した。


「ガァオー‼︎(痛い、油断したぁ!)」


 甲冑少女が右前足をレイピアで斬り付けた。


「ガァオー‼︎(また、やられたぁ!)」


 なに、ボスのブラックドックは思ったより強くない?


「ガァオー‼︎(キサマら如きの攻撃など、オレには効かん!)」


 傷が増えて明らかに強がり発言のブラックドックに、楽に勝てるぞと俺は気持ちが楽勝モードへと入った。

 さっそくジャンプ斬りが出来るかどうか、この地域のボスであるブラックドックに試す事にした。


 まずはゲーム操作盤のレバーで死角で安全そうなブラックドックのうしろに回るように操作して、Cボタンで上段の構えにした。

 そしてレバーをブラックドックのいる前方に入れ接近させてちょうど良い位置でDボタンでジャンプ、狙いを定めてAボタンでアタック!

 決まった!

 ブラックドックのお尻に確実にダメージを与えた。


「ガァオー‼︎(おうっ! オトコのケツを狙うとは、なんて悪趣味なヤツだ)」


 悪趣味と言われるよりも卑怯者と呼ばれた方が良かった。

 男のお尻の話題がここでも繋がっていた事に、イマダンの男運の強さを感じさせずにはいられない。

 今回は俺が招いた事を棚に上げて彼の不運を嘆いた。

 

「もう勝ったな。

 ケンタロウのトドメはオレの必殺の最強魔法でトドメを刺してやる」


 魔童女のトドメを二回言ったのは気にしない。

 が、やはり彼女は魔法使いなのだな。

 言葉通りの凄い魔法を見せてくれ。


「ダメー!」

「ダメにゃん!」

「だめ!」


 三人の女子が必死で止めに入った。


「なぜだ⁉︎」

 なぜだ⁉︎


 なぜ魔法を止めに入った?

 なぜ否定されたのか魔童女は分からず戸惑っている。

 なぜなのか俺も分からない。

 今がブラックドックを倒すチャンスなのに。


 ブラックドックは我々に攻撃を行わず、じっと耐えているかのように見える。

 でも、ここまでやられっぱなしなのはどうした事だ。

 ブラックドックは形だけのボスなのか?


 攻撃方法は確か……ブラックドックは肉弾戦がメインではなかったはず。

 魔法か!

 ヤツが今、動かないのは魔力を溜めているのではないか、部活のプログラム開発部でゲーム制作のため調べたヤツの情報を思い出したらそう思えて仕方がない。


 真の攻撃方法は……見ただけで死ぬ、声を聴いただけで死ぬ、触れただけでも死ぬといった呪いに似た恐ろしいものだ。

 本当にそうなら、前回のバトルで我々は死んでパーティーは全滅しているのでマユツバものの話だと思われる。

 バトルすらならず、このように再戦にも来ない。

 現にヤツの声は聞いているし。


 そして睨まれたら、睨んだ相手の身体が動かなくする技がある。

 動けなくなったら、一方的に攻撃を喰らうので一番厄介な技かも知れない。

 魔童女は相手の妖精の生態を知っているようなので、そこの所は考慮しているはずだ。

 でも童女なのでそこまで考えが至らないのかも知れないが……


 不安だな……

 もし自分の予想が当たっていたら危険だ。

 ブラックドックが魔法、もしくは呪いのような力でパーティーの皆んなの動きを止める事が出来たなら全滅に近いダメージを喰らうかも知れない。


 ブラックドックが技を使用する前に全力で攻撃すべきか?

 それしかない。

 俺はイマダンにブラックドックのケツを攻めさせる事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る