第6話 「荘厳な自然に抱かれて」

 俺は、またもや奇声を……そんな事はどうでもいい!

 これはいったい、どういう事だよ?


「見れば分かるだろ、新たな魂でオトコが復活して皆、喜んでいる所だ。

 ハッピハッピーだ、アハハハ!」


 神と名乗った女性は勝ち誇った顔で笑った。


 新しい魂って……なんだよ?

 俺は?

 俺は全然嬉しくない! 俺が転生するんじゃなかったのか?


「大体オマエ、躊躇してたじゃないか。

 そんな時は辞めておいた方がイイぞ」


 違う! どんな男なのか、見ていただけだ!


「アハハハ!

 オマエ、ソッチのケがあるのか」


 ち、違う!

 ダメだ、この女、女神とは話が通じない。


「見てみろ、皆笑顔で良かっただろ」


 確かに少女たちは涙を流してはいるが、嬉しそうだ。

 妖精も男の頭に抱きついて、はしゃいでる。

 皆んな、男に抱きつき笑顔で喜んでいる。

 男も喜んでいる。

 男は顔を赤くして、鼻の下を伸ばしてピクピクさせている……


 あっ?

 神様、コイツだけ違う意味で喜んでいるぞ!

 俺は先生に告げ口する感覚で密告した。

 そう、あの男は抱き合うフリをして少女たちの身体を触りまくっているのだ。


「この魂も年頃の男の子じゃ、仕方なかろうて」


 くっ、反論出来ない。

 そんな事を告げ口してもなんにもならないって分かってるはずなのに……自分だって、そうしていたかも知れないのに。

 ただ……羨ましかっただけか、俺は。


 俺は彼らを見ていた。

 喜び涙し、抱き合っている彼らを。

 ずっと見ていた。

 ずっと……


 俺……これからどうなるんだよ!

 なんとかしてくれよ、神様!


「どうしたものかのぉ」


 ちょっと、ちゃんと考えてくれよ! もう違う場所には行けないんだろ!

 だいたい、人の命を奪っておきながら、この仕打ちはなんなんだよ!


 そんな時、女神がなにか案を思い付いて発言した。


「この世界で空気のように漂い、過ごすのも悪くないんじゃないか」


 それじゃ、浮遊霊と同じじゃないかよ!


 ダメだ、怒りが収まらない。

 ずっとそうだ! このダメダメな状態はなんなんだ、俺は貴様らになにしたんだよ!

 テメェらは本当は悪魔じゃないのか!


「ワシは、神だ」ぴかぁあ!

「アタシは、神だ」きらきらりん!


 く~、眩しい~!

 神なら、なんとかしてくれよ~!


「わかった、アタシからの新提案だ。

 ほら、周りを見てみろよ。

 これほどの自然、今まで見た事ないだろ。

 壮大な森林、澄み渡る大気、透き通る清流、オマエは空気となって、この荘厳な大自然の息吹に抱かれ、風と共に旅をして、時として動物達に潤いの――」

 俺はそんなネーチャーな人間じゃねぇ‼︎


 女神の言葉を途中でさえぎった。

 さっきとまったく同じ事を言ってるじゃないか!

 確かに高校のオタク部[プログラム開発部]に入ってから、教室では空気っぽい扱いになったけど!

 

「仕方ないのぅ、あの者達に雷を落として状態の良い死体に転生させてやろうかの」


 やめろ‼︎ 物騒だろ、神様!

 俺は本当に悪魔のような言葉に耳を疑った。


 テメェら、もっとまともな案はないのかよ! なんなんだ、このポンコツっぷりは。

 これが神か?

 冗談じゃない! こんなのが神であってたまるか!


「ワシは、カ――」ぴ――

「アタシは、カ――」き――

 シャぁラぁップっ‼︎ だまれ‼︎


 限界だ、早くコイツらと縁を切りたい。

 しかし、自分ではどうする事も出来ない。

 このままじゃ、本当に空気にされてしまいそうだ。

 ジレンマで胸が、魂が痛い。


「ふむ、ひとつあるのじゃが、よろしいかな」

 

 また悪ふざけなら、容赦せん!


「あの男の守護聖霊になってみるのはどうかの」


 酒豪、政令……都市?


「オマエ、また悪ふざけか? 容赦ねぇなぁ」


 くっ、女神め! ヤレヤレってポーズも呆れた表情も悔しい。


「我々に代わって、あの男に神の御加護を与える仕事じゃ」


 なっ? 仕事?


「それイイ! アイツの力になれるってコトだ。

 アイツのサポーターになってくれってコトだ」


 女神の捕捉があったが、まったくピンとこない。


「あの男が窮地に陥った時、手助けが出来るという事じゃ」


「アイツだけじゃ不安だったんだよ。

 オマエがサポートすれば大魔王もイチコロさ」


 二人がチョットなに言ってるか分からないんだけど、彼らの冒険に参加出来るって事か?


「その通りじゃ」

「デキルデキル!」


 せっかく声をそろえたのに違う言葉で喋ったのでよく分からなかったが、そういう事なのだろう。


 これが最善なのか、と思いながら俺は冒険者であろう彼らを見つめた。

 男と少女たちは色々話し合っているようだ。

 

「情報交換をしているようじゃの」


 ん?

 少女たちが立ち上がり、男から離れた所で一塊になってヒソヒソ話し始めた。


「普通に蘇生した人間でも記憶障害が起こるのじゃ、まして転生者ではまったく話が通じないのじゃろ」


 それってヤバイんじゃないか。

 怪しまれてバレたら、どうするんだ?


「まあ、どうにかなるじゃろ」


 どうにかって!

 少女たちは真剣に話し合っている。

 男の不審な言動に戸惑っているのだろうか。


 代わって男の方は手持ち無沙汰で指を動かしながら、森を眺めて悦に浸っているみたいだ。

 コイツの方が空気になってネーチャーしてた方がいいんじゃないか。


「このまま考えても時間の無駄だろ。

 サポートする気があるのなら早くしな。

 実際やってみないと何事も分からないだろ。

 サポーター君」


 サポーター君って……

 確かに女神の言う通りこの時間は本当に無駄だが、不確定要素が多過ぎて決断しづらい。

 実際やってみないと分からないと言う女神が、珍しく正しいのだろう。


「このままじゃアタシ達の時間の無駄だからな、オマエと違って忙しいんだ」


 コ・ノ・ク・ソ・メ・ガ・ミ~!


「ほほっ。

 確かにこのままでは、きりがないのぉ。

 ほれ、見てみぃ」


 え?

 再び冒険者の方を見た。

 少女たちが男の近くに集まって話し始めた。

 少女たちの手振り素振りを見る限り、今までの事の顛末を話しているようだ。


「記憶が飛んだと思っておるのじゃろう、この世界の成り立ちや、戦いの理由を教えておるわ。

 早くしないと話題に乗り遅れるぞ」


 確かに聞き逃すのは良くない。

 だが、俺はこの国の成り立ちは知っている。


 アヴァレン某将軍の『テル』という名の君主が国を建国したんだ。


「……うむ」


「アハハ!

 コイツ、なかなかメンタルが強いじゃねぇか、異世界転生にうってつけだ」


 女神は初めて興味を持ったかのように俺をマジマジと見た。


「うむ、なかなかのメンタリストじゃな」


 神様、それ意味が違う。

 異世界転生にメンタルが必要なのか?


「あぁ、初めは意気揚々と乗り気で冒険に出るのだが、しばらく経つと『ママ~、パパ~』って泣きやがる」


『ママ~、パパ~』って、子供のホームシックか。


「中には『ママ~、おっぱいでちゅ~』て言うヤツもいるぞ」


 それは中年オヤジの趣味だ。

 

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