二度目の地下室

多分、二日ぐらい

あたしは地下に閉じ込められていたが


その間に少し冷静な考えを

取り戻すことが出来ていた。


そう、スマホさえあれば

また彼には連絡を取れる、


事情を話せば、きっと

彼なら分かってくれる筈。


むしろ今まで以上に

あたしに親身になってくれるだろう。


次こそ、自分が

鳥かごから連れ出してみせると、

そう思ってくれるに違いない。


彼はそういう人だから、

きっとそうに違いない。


-


再び地下室の扉が開いた時、

光の中にはジルの姿があった。


闇に慣れた目には

眩しくてよく分からなかったが、

ジルの顔は悲痛に満ちている。


「お嬢様……

大変申し上げにくいのですが……」


嫌な予感がする。


これまで、どんな状況でも

ジルのそんな顔は見たことがない。


悪寒が走る。


心臓の音がバクバクと鳴り、

背中がゾクゾク、寒気がする。


「あの方は、

お嬢様の彼氏は……

お亡くなりになりました……」


全身の毛穴が開いて

身の毛がよだつ感覚。


にわかには信じ難い。


「今、警察の方から

連絡がありまして……


お嬢様からも事情を聞きたいと……」


「……うっ、うそ?」


ジルは俯いて

涙を流している。


私はジルの腕を掴んで

揺さぶった。


「ねぇっ! 嘘でしょっ!

嘘っ! 嘘よっ!」


激しくジルを揺さぶったが、

彼女は俯いて首を横に振るばかり。


「嘘でしょ……」


頭が真っ白になって、

手足に力が入らない。


立ってすらいられなくなって、

あたしは泣きながら崩れ落ちる。



あたしは部屋にこもって

毎日泣き続けた。


スマホのLINEには

彼からの通知が

何百件と残っていた……。



彼は警官に撃たれて死んだ……。


最近、治安が悪くなって来ており、

そちこちでデモが起こっていたが、


デモに参加した若者達が

そのまま暴動を起こし、

暴徒となって店を襲いはじめた。


彼はそのデモに参加しており、

店を襲った暴徒として

警官に撃たれたと言う。


私にはとても信じられない話だった。


あの優しい彼が

そんなことをする筈がない。


きっと何かの間違いだ。



これは養父とジルが

私を彼と別れさせる為に

仕組んだ作り話ではないのか?


そんなことすら疑ったが


あたしは病院で遺体を確認し、

警察の人から関係者として

事情聴取を受けてしまった。


警察で聞いた話では、

彼は自由主義過激派のメンバーで

以前から警察もマークしていたらしい。


私にはとてもすぐに

受け入れられる話ではなかったが、

間違いなく養父とジルは

このことを知っていたのだろう……。



何故、こんなことに

なったのだろうか?


あたしがあの時、

彼との約束を守らなかったから?

破ってしまったから?


もしあたしが約束を守っていたら

彼は死なずに済んだのかもしれない?


あたしが行かなかったら

自暴自棄にでもなって

店を襲ってしまったの?


あたしはずっと泣き続けた、

何日も何日も……。


あの日、

あたしを行かせてくれなかった、

あたしを地下室に閉じ込めるように

ジルに命令した養父を恨んだ……。



これはまだわずか三年前の話で

私の心の傷は

まだ癒えたという訳ではない……。


そして、養父とのわだかまりも

解消されることが無いまま、

あの人もまた死んでしまった……。


結局、あの人は一度も

あたしを抱きしめてくれはしなかった……。

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