山田さん、新しい生活をはじめる

派手な食卓

「ふあぁぁぁっ……」


あれから、少しだけ寝たのだが

全然寝足り無い。


「お嬢様、旦那様、

朝食の準備が出来ましたので、

どうぞお召し上がりください」


そう言いに来た

ジルの姿を見て驚いた。


なんだか露出の激しい

メイド服を着ている。


――いつの間に

そんなものに着替えたんだ?


しかも、生地がテロテロの

いかにもチープな感じのを。


お陰で、

メイド喫茶のメイドというよりも

場末のコスプレパブ感が半端ない。


そもそも私の家に

メイド喫茶のメイド要素は

必要ないのだが。


「……その服、どうしたの?」


「今日から家政婦として

働くことになったので、

昨晩、急遽買って来ました」


「どこで?」


「そんな夜遅くに

こんな服を売ってるとこって、

ドンキしかないじゃあないですか」


それ宴会とかパーティーとか、

カップルがプレイとかで使うやつだよね、

きっと。


どこの世界の一般家庭に

絶対領域をアピールする

家政婦さんが居るというのか?


「私は、日本のアニメが好きでしたので


お手伝いさんというのは

こういう格好をするものだと


ちゃんと知っていましたから」


あぁ、そうだよねえ。


日本のアニメ見てたら、

そうなるよねえ。


ここにも今日、

服を買いに行かなきゃいけない奴が居たな。



金髪の我が娘となったファニーと

向かい合ってテーブルに座る。


ジルは給仕をしてくれており、

私にコーヒーを出して来てくれた。


朝食は予想通り、

パンにベーコン、目玉焼き、

西洋のブレックファースト風。


まぁ、そこは問題ではない。


そもそもが、

食に執着があるタイプでもないのだ。


六億円が当たっても、

豪勢な食事を食べに行く

なんてこともしなかった。



ただ、いつもと同じ家である筈なのに、

これまでとはあまりに違い過ぎて

なんだか落ち着かない。


以前、思っていたのと、

なんか違うな……


上品なおばあさんがお手伝いさんで

養子の息子を「坊ちゃん」と呼ぶ


そんな食卓の風景だった筈なのだが……



……なんか、随分と

派手だな、この食卓は


そう、華やかというよりは

むしろ派手


金髪に、青い目の幼女に


赤い髪の大柄で恵体なメイドさん

しかもコスプレパブ風、絶対領域付き


二人とも、なんかもう、

存在感が半端ない


いや、これは

決して人種差別などではないのだが


そういう差別的な人間には

見られたくはないと、

いつも気をつけているつもりなのだが……



……うーん、そうだ、

慣れだ、これは慣れの問題なのだ


一人暮らしの

独り身中年のおっさん、


その日常の基本色は、

白、黒、茶色で出来ている


おっさんの三原色と言ってもいい


よくてたまに、青とか緑


そこに暖色系などが

存在する余地などないのだ


よって、こんな派手な色彩に

私の日常感覚がびっくりしている


まぁ、そういうことなのだろう、多分



これは一体、

どんな賑やかな食卓になるのか……。


「…………。」


「…………。」


「…………。」


そう思っていたのだが、

誰も一言もまったく喋らず、

ものすごい静寂。


他者との距離を

常に一定に保って来た私ですら

なんだか気まずくなってしまうぐらいに……。


日本語がまだあやしい

我が娘はいざ知らず


ジルが意外に

何も喋らないのには驚いた。


「お嬢様にお会い出来て

昨日からテンションが高かっただけで


私、普段は大人しいんですよ……

元軍人ですし……」


元軍人と無口の関係性がよく分からないが。


見た目は派手だが、

本当はめっちゃ地味というのが


これから、我が家での

食卓スタイルとなって行くのか……。



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