5.百鬼夜行

 俺達は灯りライティングが照らすダンジョンの通路を地下に向かって進んで行く。


 その過程で出現するモンスターは全て低レベルのザコらしく、三人の星騎士の敵ではなかった。


 援護と回復のためにアーシアさんが後方で待機しているけど、彼女の出番はなかなかまわってこない。星騎士達がかすり傷一つ負わないからだ。


 ちなみに俺は後方で待機しているアーシアさんのそのまた後方で待機している。いわゆるVIP待遇やな。ガハハ。


 星騎士達のリーダーであるランディさんは、曲がり角から突然現れた巨大なゼリー状モンスターにも一切の動揺を見せず、腰の鞘から長剣を抜き、刃を走らせた。


 ダンジョンに向かう馬車で雑談をしているときに、中学生の頃に歯医者でギャン泣きした話をテラリエルの人間にも分かるようアレンジして話したら、イーサンがゲラゲラと笑い転げた。ジョンはたしなめていたけど、イーサンの気持ちはよく分かる。自分でもちょっとヘタレ過ぎるだろと思わんこともないからだ。どう考えても英雄には向いてない。セイドルファーさんはやはり人選を間違えたのでは?


 俺に、痛みに対する堪え性のないことを知ったランディさんが、これから向かうダンジョンには暗黒怨霊ダークスペクターしか強力なモンスターは存在しないので、ひとまず戦闘は自分達に任せて、後方で待機していても問題ないと提言してくれた。なんていい人なんだ! 情けない英雄で本当にすまない。でも、神星教団的には俺の実力を見極めたかったはずでは?


 多少、疑問を感じないわけでもなかったが、俺はそのお言葉に甘えて、戦闘をランディさん、イーサン、ジョンの三人に任せて、後方で見物に専念した。アーシアさんも手持ち無沙汰なのか、後方で待機しながら、シスターのスキル邪念感知センスイーヴルで周囲の警戒をしていた。


「ランディさん、メチャクチャ強いですよね……」


 俺は、ゼリー状のモンスターを反りの付いた長剣で一刀のもとに斬り倒したランディさんの戦闘技術に感嘆の声を上げた。


「はは、ここのモンスターが弱いだけだよ。なにせ、駆け出し冒険者が訓練に使うダンジョンだしね。今のラージスライムを難なく倒せるようになったら卒業間近かな」


 長剣を鞘に収めながらランディさんが答える。


 ちなみに、みんなの武器やダンジョン探索に必要な道具類はあらかじめ馬車に積み込まれていた。


「このダンジョンくらいならオレやジョンだけでも最深部まで潜れるぜ!」


 イーサンが自慢げな表情で言う。


「へぇー、星騎士って凄いんだな」


 俺は少年キッズの言葉に素直に感心した。


「ボク達もここで訓練したんですよ。結構な回数、潜りましたね」


 眼鏡の星騎士、ジョンが付け加える。


「もう、何十年も使われているダンジョンだからね。隠し部屋なんかの位置も含めて、内部構造は完全に把握されているんだ。目的地まで最短ルートで行けるよ」


 ランディさんが言う目的地。

 そこは、このダンジョンの終着点にして最深部。

 本来ならここに現れるはずのない、高レベルアンデッドの発生が最初に確認されたポイントだ。そして、その姿が最も確認されているポイントでもある。


 俺達五人は、高レベルアンデッドの討伐とその発生原因究明のため、そこに向かっている最中だ。


 もし、目的地で標的と遭遇できなければ、途中で休憩を挟みつつ、時間が許す限りダンジョン内を探索する予定だった。


 俺はズボンのポケットから神星教団のエンブレム——星と十字架を組み合わせたもの——が刻まれた懐中時計を取り出して時間を確認した。


 昼過ぎに街を出てから二時間、ダンジョンに潜りはじめてから二時間。


 魔物が異界から移動シフトを始める黄昏時は、既に始まっていた。


「皆さん、何かおかしな音が聞こえませんか?」


 後方で周囲を警戒していたアーシアさんが言う。


「変な音?」


 ランディさんが訝しげな表情で答える。


「それに……これは!? 大量の邪悪な気配が近付いている……ですって……!?」


 アーシアさんが驚愕の声を上げる。


『主よ、そこの娘の言う通りだ。。気を付けろ……!』


 ずっと黙りを決め込んでいたリッチキングリッちゃんの声が、頭の中に響いた。


「来るって、何がだよ……!?」


 俺が口を開くと同時だった。

 回廊の奥から轟音と共に、異形の群が押し寄せてきたのは。


「ゲッ、なんだよアレ……! 邪骨兵スケルトン屍人ゾンビ亡霊ゴースト、マミー…… 首なし騎士デュラハンまでいやがるぞ!?」


 イーサンが叫ぶ。


 通路の奥から押し寄せてきたモノ。

 それは、アンデッドモンスターどもの百鬼夜行だった。

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