ちょっと小休止〜乙女に祭りは似合わない

縁日でごった返す境内の一角に、浴衣を着た四人組の姿があった。


「よ、待たせたな」

雑踏の中からさらに一人が合流してきた。

「と、ときっ!?」

「とき……さん!?」

「せ、せ、せんぱい!?」

尊、柚羽、凛、晶の四人が同時に叫ぶ。

目の前に浴衣姿の時空が立っていた。


「あ、あなたそれ……じゃない!」

尊がわなわなと震えながら指差す。

「ばか、当たり前だろ。女の俺が女物着るの」

「いや、セリフと見た目のギャップあり過ぎだし」 


「でも、よくお似合いです」

柚羽が目を輝かせた。

確かに引き締まった無駄の無い肢体は不思議なほど浴衣とマッチしていた。

「きれい……」

凛が頬を赤らめ呟く。

胸に抱えたミョウが締め付けられてムギュッと唸る。

「ホント先輩カッコいいっす。アタイなんか既製品無くて特注で別料金取られたっすよ」

高身長の晶も興奮気味にまくし立てる。

「何よ、批判したの私だけ?あなたたちねぇ……」

尊が口をとがらせた。


「そんなことより早く行こうぜ。腹ペコなんだ」

「なら向こうに先輩の好きなたこ焼きあったすよ。しかもかなりの大玉おおだまっす」

「お、いいね」

晶が小さくガッツポーズ。

「あ、それなら焼そばもありましたよ。今なら大盛りで同じ値段らしいです」

「そいつもいただこう」

柚羽が小さくガッツポーズ。

「フランクフルト……大きかった」

「うまそうだな」

凛が小さくガッツポーズ。


「なんかまるでお祭りみたいだな」

「いや、お祭りだし。てか、どんだけ食べるつもり!?」

はしゃぐ時空に尊がツッコむ。

「いいだろ。これぞ祭りの醍醐味だ」

「いやいや、もっと他にあるでしょ」

「他って、たとえば?」

「たとえば……一緒にあちこち見てまわったり……その……一緒に花火見たりとか」

尊は視線をそらすと、微かに顔を赤らめた。

柚羽、晶、凛の表情が一斉に強張こわばる。


「そっか……ほんじゃま、ちょっと歩くか」

「あ、それなら私もお供いたします!この辺りは初めてなのでぜひ案内してください」

そう言うと柚羽はすかさず時空の左腕に手を掛けた。

「ああ、いいよ」

「それならアタイもついてくっす。この辺詳しいので穴場教えるっすよ」

そう言って晶は右腕を組んだ。

「へえ、じゃ頼むよ」

時空は後ろでモジモジする凛の方を振り向く。

「凛、お前も来るか?」

「……はい♪」

凛は満面の笑みを浮かべると、後ろから時空の袖を掴んだ。

胸に抱えたミョウがまた締め付けられてムギュッと唸る。

「あ、あんたらねぇ……」

尊が眉をしかめ絶句する。

「どした尊?行くぞ」

マグネットのようにへばり付く三人を睨みながら、尊は後に続いた。


金魚つり、ヨーヨー釣り、射的、福引……

神社の沿道に立ち並ぶ店は、どれも盛況で風情があった。


ちなみに筆者の田舎のお祭りにも毎年屋台が並びます。

一番人気はくじ引きで、一等のTVゲーム目当てに子どもは勿論大人も列をつくっています。

やはり家電はつよ……

「そんな事よりストーリーに戻ってもらえますか」(尊)

あ、はい……すんません。

ちょっとくらい郷愁に浸っても……ぶつぶつ(筆者 涙目)


「お、綺麗どころがそろってるね」

舟に三段重ねのたこ焼きを積みながらオヤジさんが笑った。

「お姉ちゃんらは彼氏と一緒じゃないのかい?」

「いませんわ、そんなの」

「興味ないっす」

「……いらない」

「へえぇ、勿体無いねぇ。皆ベッピンなのに」

柚羽らの即答にオヤジさんは目を丸くした。

「てっきりここの花火目当てに来てんのかと思ったよ」

「花火目当てって?」

背後で第一陣のたこ焼きに舌鼓したづつみを打つ時空を見ながら尊が尋ねた。

食べるのに忙しくて全く話しは聞いていないようだ。

「いやね、なんでも一発目が上がった時に『たまや〜』て声を合わせられたら恋仲になれるって話しさ。実際にもう何組もカップルが出来てるらしいよ」


おっと、これは聞き捨てならぬ情報。

たちまち四人の目に炎が立ち昇り、体から闘気がほとばしった。

本気モードに入ったぞ!この乙女たち……

という事でここからは会話調で(なんでやねん!?)


「花火上がったら『たまや』て言うのよ時空」(尊)

「な、なんだいきなり」(時空)

「花火のかけ声よ」(尊)

「いやそれは分かるが、なぜに強制?」(時空)

「美しい花火にぜひ感謝の意を示してください」(柚羽)

「いや、そんな鬼のような形相で言われても……」(時空)

「男を魅せるときっすよ、先輩!」(晶)

「だから俺は女だって……」(時空)

「ここは一発どんとかましたれっ!」(凛)

「性格変わってるぞ、凛!?」(時空)


その時辺りにアナウンスが響いた。


『お知らせします。あと五分で花火が上がります。皆さま、夜空の一大ショーをご堪能ください』


きたっ!!


その場の全員が時空を取り囲むようにして空を見上げる。

固唾かたずを飲む五分間……


尊は瞬きもせず中空を睨む

柚羽は手を合わせて祈っている

晶は小さく発声練習を繰り返す

凛はちっ息寸前までミョウを抱きしめたため、たまらず下に飛び降りてしまった。


そして


パパーン!!!


白糸のように立ち昇った白煙が、空中で大きく花開いた。


「た〜まや〜!」


時空がかけ声を上げる。

その声に重ねて皆口々に叫ぶ。


「た〜まや〜!」


それはほとんど一人が放ったとしか思えないほど見事にハモっていた。


一瞬の間を置き皆が顔を見合わせる。

「完全に同時だったわね」(尊)

「これは引き分けですね」(柚羽)

「まあ、今回はおあずけということで」(晶)

「……でも、気持ち良かった」(凛)

最後の凛の言葉に、皆声を上げて笑った。


「あちゃー、なんかタイミング逃しちまったな」

時空のその一言で全員の笑い顔が凍りつく。

「え……今、なんて……?」

尊が笑顔のまま時空の方を振り返る。

目だけマジだ。

「いや、なんか次何食べるか考えてる間に上がっちまって……悪い」

「で、でも今たしかに『たまや〜』って……」

言いながら尊の目線が下を向く。

皆同じように時空の足元に目を向けた。


「いや〜、いつ見ても花火は風情があんね〜」


そこには満足げに空を見上げるミョウの姿があった。


「お前か〜い!!」(尊、柚羽、晶、凛)

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