再びのフォースビット城
戦いの後で祭りの前
コンソメスープ四杯、仔牛とマッシュルームのクリーム煮三杯、舌とバラ肉の硬煮三皿、ローストビーフ一塊、ビーフシチュー五杯、ウマイモのパイ生地のミートパイ三つ、ウマイモに新作チーズをかけたラクレット五皿、丸ネギのタルト一つ、今年の果物パイ二皿、スパイダーマークのストレートティーポット二つ、レモネード一杯。
本来は来る精霊祭、契約更新を祝うお祭りに出されるご馳走、食材、だけども財政難だったこの城に出せる目いっぱいのご馳走だった。
並べるのは本来は大規模な宴会を開くための大広間、だけどいるのは図らずも救国の英雄になってしまった蛮族四人とそれをもてなすのはリーア、それと給仕が五人、ひっそりとしていた。
本来は国賓としてもてなすしかないところだけど、この国の代表、女王と婿王、お母様とお父様は予想もしてなかった精霊の撃破に、最悪を想定していた政策を修正するため、あちこちへと奔走していて城にはおらず、だからリーア一人、姫としてのおもてなしとなっていた。
白色のドレス、小さなティアラ、ほんのりお化粧、本来の姫としての姿、お披露目したというのに、蛮族どもはただひたすら料理にしか興味を示さなかった。
「あぁ~~~~~」
汚い息で喉を鳴らしながら、念願のレモネードの余韻に、トーチャが満面の笑みを浮かべる。
「しかし、質素で薄味ながら手間のかかった食事、食材も地味にいいものばかりですし、これ高いですね」
価値を見抜いたらしいマルクがフォークでラクレットを突く。その顔は美形と呼ぶには痛々しく赤く腫れあがっていた。
「何よわかってるわよ。でもこれらのほとんどは領地からの献上品、後は口を付けちゃったから返品できない物ばかりよ。それも尽きたら当分の間は質素倹約の生活よ」
応えて紅茶に口を付けるリーア、舌に広がる渋み、鼻を抜ける香り、ほっとする。
「はぁん。質素倹約、ねぇ」
そこに愚痴るのはケルズスだった。上半身裸、ビッチりの胸毛、悲惨な格好で不満げな表情だった。
「何よ」
「契約だよ。支払いを十年延期、その間の利子は支払うし失敗すればまた生贄、この件についての再契約は無し。俺様は男爵だからよぉ。精霊の相場ってやつを知ってるから言えんだが、馬鹿だろ? あそこまでボコれたんなら踏み倒しも余裕、加えてもっと値引きもできた。商売下手だなぁおい」
「それこそ何よ、よ。そもそも契約を破ったのは妾達、加えて無作法にも乗り込んで、暴れまくって、それで言うことを聞け? それじゃあ妾がまるっきり悪者じゃない。あれでもかなり無茶言った方よ」
「はぁん。まぁお嬢ちゃんがそういうなら構わねぇよ。それにいざとなったらまた勝手に殴り込みしてやらぁよ」
卑屈に笑うケルズスにダンが眉を上げる。
「まて、またあの合体技とやらをやりにここに来るのか?」
「そりゃあ、おめぇ、そん時までには単身劇はできるように鍛えんだよ。つぅかおめぇ、どうやって食ってんだよそりゃあ」
「何がだ?」
言われたダン、目の前のコンソメスープを救うスプーンを掴んでいるのは足だった。
椅子に座って、両手は下にだらりと下げた状態で両足上げて、裸足の指に挟んでの器用な食事、難なく口に運べていた。
「以前、手合わせした武人が見せた技だ。まさかまねる日が来るとは思わなかったが、手がこの通りでな」
そう言って見せた両手、人差し指中指に白い包帯で添え木が巻き付けられている。
「治療も受けた。いうには半月で、次の月一までには治るらしい。だから遠慮なく負けて構わんぞ」
「よく言いますね。今回、一番の怪我はあなたなんですよ? それも治療を受けたのはただ一人、そんなので今後もやっていけるのですか?」
「……この場で試してみるか? 貴殿程度なら足技だけで余裕だが」
「これはこれは、お気を悪くしたのなら許してください。僕はただあなたのことを思っての進言です。次は命にかかわるかもしれませんからね」
「ふん。老婆二人にもみくちゃにされてた男の発言とは思えんな」
ダンの発言に、マルク手のフォークをガチャリと置いて立ち上がる。
それにダンも応じてガチャリ、立ち上がった。
「おい。何で俺っちが食う前にローストビーフなくなってんだよ」
そこへ勝手にトーチャもふわりと浮かんで参戦する。
「おぃい、おめぇらいい加減にしろよぉ。こいつぁ国からの接待、えらくなった証拠だってぇのに、ケチつけんな」
「あぁこれは失礼した。流れとは言え玉を蹴り潰された貴殿には争いごとは刺激が強すぎたな」
ガチャン、一際大きな音を立ててケルズスも立ち上がる。
いつもの感じ、馴れてない給仕たちは怯えているけれど、馴れてしまったリーアにはいつものこととなってしまっていた。
「あなたたちいい加減にしなさい。これ以上揉めるならばあなたたちが壊したお城の修繕費、貰うわよ」
一言に四人、一斉にリーアを見る。
「そいつぁねぇよお嬢ちゃん、あれは必要経費だろ?」
「そう言いたければこの城にいる間ぐらいは大人しくしてなさい」
「待ってください。僕は何も」
「壊しては無いわね。でも略奪はしたでしょ? 杖とかモロモロ、帰りに置いて来なさいよ。そしたら見逃してあげるわ」
「マロはそれすらしてないぞ」
「でもこの城の秘密の脱出口を知っている。本来それだけでもこの国では重罪、禁固刑、だけど信用のおける人物ならば良しとされる。信用できる?」
「俺っちを脅そうってか、あ? いい度胸だなおい」
「何よ。それがおごってもらってる人が言うセリフ? 言っときますけど、あなたのレモネードが一番お金かかったんですからね」
言い返されたトーチャ、不機嫌なまま、だけどもいつものような高熱は無かった。
「それからこの場で言っておくけど、今回のことは身内での訓練での事故、外からの襲撃はなかった。壊れたのも怪我したのも事故ということで保険金貰う予定だから、余計なこと外で口走ったら国家反逆罪よ。国際手配して罰金刑だからね」
嘘か真かリーアの口から出た言葉に、四人は目を合わせ、肩を竦め合った。
「仕方あるまい。少なくとも報酬をもらうまでは、マロは大人しくしていると約束しよう」
「わかってるわよ。ちゃんと払うわよ。金貨何枚だっけ? すぐに用意するわ」
「それだけじゃたんねーよ。お前救出分もちゃんともらうぜ」
「何よ。足元みて吊り上げる気?」
「いや、金じゃないぜ」
「ないですね」
「ねぇなぁ」
「とはいっても、ちゃんともらえるかは、明言されては無いがな」
四人の微妙な言い回しに、リーアは右眉を吊り上げた。
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