短編小説集(恋愛編)

葉柚

第1話 図書館で秘密の恋を






彼氏にも言えない秘密が出来てしまった―――










彼氏から昨日、プロポーズされた。



まだプロポーズされたという実感もわかず、本当に彼と結婚してもいいのかと迷っている私は、落ち着いて考えるために学生時代によく通っていた図書館に来た。



彼は優しいし誠実だけど、少し物足りない。








お気に入りの作家の小説を手に、学生時代によく座っていた窓際の席に座る。



しばらくページを捲っていると、誰かが前に座る気配がして、そっと視線を上げる。



「…えっ?」



柔らかく私を見詰める視線とぶつかる。



「やっと会えたね」



そうやって微笑んだ彼は、本を捲っていた私の手をギュッと握った。



中学生の時に付き合っていた私の元カレ。



中学卒業とともに遠くへ引越していた彼に、当時の私は遠距離恋愛なんて考えられなくて、別れを選択した。



今までで、一番好きだった人。





「…その指輪、結婚したの?」



寂しそうに微笑む彼に、胸がドキッと跳ね上がる。



「まだ…してないよ」



声が掠れてしまうのは、この再開に昔の気持ちが蘇ってくるから…?



「でも、結婚するんでしょ?」



優しく私の手を、なぞっていた指を私の首筋に這わせて問いかけてくる彼の切ない瞳に、私の視線は引き込まれて。



いつの間にか、彼とキスをしていた。





チュッと軽いリップ音をたてて離れていく彼の唇に寂しさを感じて、



私の方から、私の口紅が付いてしまった彼の唇に唇を重ね合わせる。



段々と深くなる口付けに、私は彼とこそずっと一緒にいたかったのだと思い知る。



だから私は、彼氏からプロポーズされた時に嬉しさよりも戸惑いを感じたのね。



「48日間だけ、もう一度俺だけのものになってくれる?」



だから、彼の言葉に二つ返事で頷いた。






【48日後】



私は、彼と再開した時の彼の言葉の意味を知った。



「今の彼氏は君を幸せにしてくれる。


俺が幸せにしてやれなくてごめんな。


俺の最期のワガママに付き合ってくれて有り難う」



優しく私を抱きしめる彼の胸に、顔を埋めて、別れの時を惜しんで溢れだす涙を隠す。



「幸せになれよ」



優しく包まれるような声を残して、彼は光に融けるように消えていった。













Fin

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