第5話



「なんか最近、良太りょうたがちょっかいかけなくなったんだよ!。やっぱり無関心ってすごいね!」


愛美まなみが私に楽しそうに話しかけている。


「でもなぁ…これだけやると、さすがに良太くんがかわいそうになって来るわぁ」


「えー?。今まであれだけ私に迷惑かけてたんだし、当然の罰だよ」


まぁ近い内にまた元に戻るだろう…その時の私は、楽観的にその程度にしか考えてなかった。



ただ、最近良太くんの様子があきらかにおかしい。


こちらを隠れる様にうかがうだけで、全く近付いてこなくなったのだ。


朝の通学路で会う事もなくなり、先に教室にいるのに机に伏せたまま全く動かない。



更に週が明けるとそれは悪化した。


良太くんが私達を避ける様に教室から飛び出していく様になったのだ。



時同じくして、愛美もおかしくなっていた。


良太くんの姿を探し、何か言いたそうにしている、そんな感じだった。


私が話しかけてもどこか上の空で、誰も座ってない机をチラチラと確認してはため息をついている。




そんな2人のおかしな雰囲気に、教室中がなんとなく察する。


でも、そんな状況をクサせる様な真似も出来ずに、距離を置いてただ見守っている…そんな雰囲気だった。


私はさすがにこれはまずいと、やっと行動を起こす。



「いや、さすがにこれはおかしいって。愛美、良太くんに謝り行こう?、な?」


「…イヤ。なんで私が謝らなきゃいけないの?。私何も悪い事してないもん…」


愛美は私からプイっと視線を逸らす。


「いや、そうかもしれんけど。でも、愛美もこんな雰囲気イヤやろ?」


「そんな事ない!。私はアイツが寄って来なくなって清々してるの!」


─────ガタッ


後ろの扉の方で音がして、私と愛美がそちらを見ると、教室に戻って来ていた良太くんが逃げる様に教室を出えていく背が見えた。


「「あっ…」」


私と愛美が止める様に虚空に手を伸ばすが、それは何の意味もない事だった。



「ん~?。良太はいないがトイレか?。誰か知ってる者はいないかー?」


授業が始まり、空いた席を見つけた教員が全員に問う。


私は手を上げ、席を立ちあがる。


「良太くんはなんか気分悪そうだったので、多分保健室に行ったんや思います」


「そうか…じゃあとりあえず授業始めるぞー。ほら、教科書を開けー」


私の発言に教室内が多少ザワついたけど、異論を唱える者は誰もいなかった。


そしてちらりと見た私の親友は、今にも泣きだしそうな顔をしてじっと下を向いたままだった。



結局良太くんは保健室に居たそうで、しばらくしたら保健室で書いてもらった紙を持って教室に戻ってきた。


ただ、その顔は全く生気がなくて、いつもの元気な良太くんは見る影もなくなっていた。




─────ガラッ


授業が終わり、良太くんが扉を開けて教室を飛び出していく。


チラリと見ると、愛美がその背へと手を伸ばすも、動けないままでいるのが見えた。


「すまん愛美。ちと行ってくる」


「あ……」


私はそれだけ言い残し、出ていった良太くんをさがす。



階段を上る背が見えて、私はそちらへ走る。そして上っていくと、鍵を閉められた屋上への扉の前で膝を抱えて座り込んでいる良太くんを見つける。


「良太くん…その、大丈夫か?」


「…………」


私が声をかけるも、何の返事もないし、膝につけたままの顔も上がってこない。


「愛美はさすがにやり過ぎやと、私も思うとる…だから、良太くんも機嫌治してくれへん?」


「…………」


私は何も言わない良太くんの横に腰を下ろし、膝を抱えて小さくなっているクラスメートをじっと見るのだった。

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