兵士志願

「10才の少年が、兵士に志願しに来ているだと?」


 朝食を終え、紅茶で一息を入れ、昼まで書類仕事などの執務をしようとしていたヴォルフ家六代目当主アレクセイ・ヴォルフ辺境伯は、部下の報告に驚きを感じていた。

 通常なら、十五歳成人前の若者を採用しないので門前払いか見込みが有れば、兵士見習いとして小間使いとして採用するのが通例だ。

 新しい兵士の採用不採用の報告でもなく、志願の時点で報告が来て、それが十歳の子供だと言うのだから仕方ないことではある。


「通例どうりにいかない少年だったのか。亜人か獣人の類の傑物かな」


 武門であるヴォルフ家の当主として、血が騒ぐのを感じながら、アレクセイは急かすように報告に来た兵士に尋ねる。


「いえ、人族の少年です。ただ、のようになれる恩寵ユニーク持ちのようで、出兵で兵士長と補佐が居ないとはいえ、兵士達が軒並み、で倒されました」


「私自ら、会おう!」


 溢れ出る好奇心を抑えられないといった風に、若き当主は兵士を連れ、件の少年の待つ練兵場へ向かった。




 ーーーーーー

 さほど広いとは言えない練兵場の真ん中で、一人で立って待っている。

 周囲には、倒された兵士を介抱する兵士や自分を警戒する兵士達が、自分に好奇と畏怖の視線を向けながら取り囲んでいた。


(少しは話の分かる人物が、来てくれれば良いのだが)


 通常は、門前払いの年齢なので実力を示す上で、の無礼な振る舞いをしたのを悔いながら、責任者の到着を待っている。


「お待たせした! 次は私が、お相手をしよう!!」


 着くなり、そんなこと口走る若者を、兵士達は(お前は何を言ってるんだ?)という目で見ている。

 自分の中のが反応したのが分かった。


「当主自ら、面接の試験官になってくれるのは有り難いですが、良いのですか? 私が悪漢だったら、危険では?」


「そういう気遣いや礼儀が有る時点で、性格面でも採用レベルだな。実力については示してくれたが、相手これは、純粋な興味だ!」


 倒した兵士の転がった木剣を、駆け出しながら蹴り上げ掴むと、その勢いのままに振り下ろしてくる。


 ーー魔装・爪(クロウ)・--


 瞬時に、左腕だけにスキルを発動して受ける。

 戦闘中に、幼い身体の魔力が切れないよう、部分的に発動する技術を身に着けていた。


「おお!! 素晴らしい! まるで岩でも打ち据えた感触だ!!」


「これで終わりにしませんか?」


 俺としても、これから仕える相手を殴るのが気が引けるので、そろそろ終わりにしてもらいたかったのだが


「まだまだ! これからだろ!? 面白いのは!!」


 喜色満面といった様子で、紅い髪を逆立たせて、アレクセイは止まらない!

 故人オスカーには失礼だが、アレクセイはオスカーより強い!

 両腕を・爪・で強化して対応するが、猛攻を止められる気配が無い。


 ーー魔装・顕現(フルカウル)・ーー


 攻防を短期決戦に切り替え、スキル全開で、アレクセイが持つ木剣を3~4本の棒切れに叩き折る。


「ここまでされたら、終わりにせざるを得ないな。採用だ!」


 信じられないモノを見たという風に目を見開いた後に、感嘆した様子で、アレクセイが高らかに宣言する。

 周りの兵士達も、雇用主の宣言と俺の実力のせいで反対を申し出る者は居なかった。

 やっと終わったと、俺が安堵していると


「採用したからには機会は、いくらでもある」


 俺の肩を気軽に叩き、アレクセイは上機嫌な様子で執務に戻っていった。

 嵐のように来ては去っていったアレクセイを一同で見送っていると、我に返った。


「具体的に私は、どうすれば良いのでしょうか?」




 アレクセイに報告に行った兵士が、当面の俺の教育係として上司となり、寮に部屋を用意してくれた。


「シルバ! ろう!!」


 午後、アレクセイが友人を遊びに誘う気楽さで、物騒なことを言いに来たが


新入りシルバは、覚える仕事や手続きが多いんです!! 帰ってください!!」


 俺の上司になってくれたブルータスさんが追い払ってくれた。




 ブルータスさん、ありがとうございます。











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