小さなトラブル

「お隣のレオ君は、そろそろ狩りに連れてって、もらえるそうだ」


 夕食の魚の入ったシチューを食べている時に、そんな話が父から出て来た。

 我が村〈コユキ〉では、農業とミルク等の畜産がメインなので、肉は基本的には狩猟か、魚の養殖か釣りで賄っている。

 狩猟は我が家と、お隣のレオとレオナの家、もう一軒の家で行っていて、魚関係は村の老人達で、後の仕事は村全体で分担して行っていく形態を採っている。


「まー! もう10歳だものねー。もう狩りに出る歳になったのねー。レオー君」


「心配するなよ、シルバ。お前は俺に似て、優秀だからな。レオ君が10歳なら、8か9の頃には、連れてけるはずだ」


 何かと、レオが俺と張り合うので、俺もレオに対抗心が有ると思っている父が気遣って、慰めの言葉を口にする。

 数えてはいないが、魔狼として何十年と生きてきたし、転生とユニーク・スキルのおかげで、実力的にも村の狩人に負けない自信は有る。

 子供レオ相手に対抗心など抱いてはいないのだが、転生云々の事はトラブルしか起こさないと思っているので、両親には黙っている。


「そうよー。レオー君が5年掛かった採取スキルを1年でー、覚えた自慢のシルバーだものー。狩りなんてー、来年には、ちょちょいよー」


 ムフー!! と、鼻息荒く胸の張る母さんを見ながら、村で一番、対抗心というか虚栄心みたいなものが大きいのは、母さんではないかと、密かに思っている。





「おい! シルバ!」


 朝早く薪を割りつつ、そろそろ薪の補充は充分かなと思っていると、後ろから声をかけられた。


「何か用かい? レオ。見ての通り、仕事中なんだけど」


「はっ! 薪割りや、ウチのレオナの御守おもりで採取するのが仕事とはね!? 男なら狩りが仕事だろ!」


 レオナと同じ明るい茶色の長い髪を後ろで一房に縛っているレオが、狩りに連れてってもらえるのが嬉しいのか威張り散らしている。

 いや、俺より先に、俺には出来ないことを仕事に出来る、経験出来ることが嬉しい、が正しいのだろう。


「狩りが大変な仕事なのは認めるけど、畑や動物の世話、薪割りや山菜採りだって、立派な仕事だよ。レオ」


「はっ! 俺に抜かされて悔しいからって、言い訳してんじゃねぇよ! 妹と仲良く山菜でも採ってな!」


 レオは威張るだけ威張って、狩人の集合場所に向かって行った。

 俺の反応が薄いのも、レオの対抗心を刺激してしまっているのは分かるのだが、つい子供だからと思ってしまう。




「レオナーちゃん、遅いわねー。どうしたのかしらー?」


 山菜採りの途中で食べる弁当を届けに来た母と、レオナを待っているのだが、なかなか来ない。


「たまには寝過ごしたりもするよ。たまには、僕から迎えに行くよ」


 意識して明るい調子で、レオナを迎えに行くのだが、俺の長年の感覚と勘が、を告げていた。




 ーーーーーー

「はっ! 薪割りや、ウチのレオナの御守おもりで採取するのが仕事とはね!? 男なら狩りが仕事だろ!」


(御守り!? レオナ!シルバの迷惑になってる!!?)


 採取1を覚えて、村に貢献出来るようになって嬉しかった。

 自分よりも早く覚えたのに自分が覚えるまで付き合ってくれたシルバにも迷惑かけずに済んで嬉しかった。


(嬉しかった! 嬉しかったのに!!)


 気付けば、篭を握りしめ、一目散に駆け出していた。


『こういうのは反復が大事なんだよ。何回も挑戦、練習して経験を積むんだ。そうすれば覚えられるよ』


 思い浮かべるのは、採取を覚えるまでのシルバの言葉。


(覚えるんだ! シルバみたいに覚えるんだ! 練習だ! 経験だ!)


 獣や危険の気配を感じられるようになれば、自分だけで山菜採りの仕事が出来る。

 そうしたら、シルバは他の仕事が出来る。


!』


 他のが出来るんだ!!


(今日から、いつもより奥に行って、すぐ帰る! 繰り返せば、きっと覚えられる。きっと! きっと!!)

 ーーーーーー



「あら? シルバくん。レオナならレオが騒がしく出てったから、いつもより早く起きちゃって、シルバくんの所に行ったはずよ」



 悪い予感は的中していた。

 タイミング的に、レオと自分の会話を聞き、自分だけで仕事をしようと森に向かったのだろう。

 今、村に助けを求められる狩人は居ない。

 通常なら、一人は有事に備えて待機して居るのだが、今日は見習いレオの初参加なので、総出で狩りに出ている。

 他の大人達を連れていくと防衛力の低下で、村全体が危険になってしまう。


(やるしかない! トラブルの種スキル・転生のことは気にするな! 種より咲いたトラブルを処理しろ! 出し惜しみは無しだ!!)


 通常の身体強化でも、多少の嗅覚や味覚の上昇は有るので 誤魔化せていたが、人を匂いで追跡などは異常過ぎる能力だ。

 一刻を争うので、スキル全開で四足歩行で疾駆している上に、人には無い牙や爪、尾を再現するために身体から溢れる魔力が、それらを形作っている。


(急げ! いつもぐらいの場所なら悪くても、獣に襲われて怪我で済む! もっと奥なら……)


 が出てくるという言葉を堪えて急ぐ。

 魔物と遭遇したのなら、下手したらな事態になりかねない。

 今は黙って、レオナの後を追うのに専念していた。






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