第12話:第1章-9

 世界樹──それは大陸中央にそびえる大樹。

 かつては、世界に三本あったらしいけど、現存しているのは一本だけ。

 伝承によれば、三百年以上前の『じん大戦』終結後、一本がれ、世界をほろぼそうとした『魔神』にいどんだ六人のえいゆうを救い、力を使い果たし天に帰った『がみ』がこの世界からいなくなった際、もう一本も枯れ落ちたそうだ。

 辺り一帯はハイエルフの神域になっていて、立ち入るのも難しく、ていこくこうていが命じてもきよぜつされたと聞いている。

 結果、素材を手に入れるのも至難で、ごくごくまれに、冒険者ギルドへ持ち込まれる程度だ。

 歴史上、世界樹の枝を使用し、実在したと認定されているのは伝説のじよう『導きし星月』のみ。

 今、目の前にあるのはそういう代物だ。

 の地点の枝を使っているかまでは分からないけど、この杖には六つの属性宝珠も付いている。

 さっきから、ずっと白昼夢でも見てるんじゃないかしら。

 っぺたをつねってみるけど……痛い。これは現実だ。

 この短時間に、いくつ『さいこうほう』を見せられているわけ?

 こしかけた青年は珈琲コーヒーを飲んでいる。

 こ、こいつ……。

「変な顔だなぁ。めつにない機会だし、持ってごらんよ」

「え? ち、ちょっとっ!」

 青年が杖をこちらにわたしてきた。

 持ったしゆんかんさとる。


 ──……ああ、本物だ。


 自分の中で魔力がいちじるしく活性化している。

 今ならだん使えない属性の魔法も使えてしまいそう。

 それこそ──私が使えないかみなりほうだって。青年が微笑ほほえみ、左手の人差し指を立てた。

「一つ目の助言をしようか。レベッカは、炎だけじゃなくて雷を使った方が良いね。苦手にしているみたいだけど、君の適性は雷だよ」

 思考がいつしゆん止まる。私の適性が『雷』……??

 青年に問う。

「…………どうして、私の属性を知ってるの?」

「ふふ、僕は育成者だから。見れば分かるのさ」

 幾らあのエルミアでも、冒険者にとっていのちづなの情報を他人に話さないだろう。そういう子じゃない。

 確かに私はほのおほうを得意にしているし、雷魔法はまともに使えない。

 それを? しかも、適性が雷寄り?

 手品の種は……私は杖をにぎりしめる。

「この杖ね」

「またまた正解。それを持つと、魔力が活性化するからおどろかすには便利なんだ。全部そろえばもっとかつやくしてくれるだろう。君はかしこいね。大体、どんな子もここらへんでけんいたり、魔法を展開したりするんだけれど」

「……られたいの?」

 目を細め殺気をにおわす。

 青年の顔はおだやかなまま。対応しようともしていない。

 カップを持ったまま、片手を軽く上げた。

ひどいなぁ。めてるのに」

「からかわないで! ……おいとまするわ」

 そう言い、杖を返す。

 手に張り付くような感覚。まるで、杖が意思を持っているみたいだ。

 さきほどの倉庫に置かれていた物といい、この杖といい……じんじようじゃない。

 話せば話す程、常識はほうかいしていく。かかわるのは──危険過ぎる。

 私が築きあげてきた『世界』の中に、こいつはあっさりと入り込んできてしまいそうだ。

 ……そんなの、こわい……。

 私のかつとうを知ってか、知らずか、青年は気安くさそってきた。

「夕食も食べて行けばいいのに。そうを作るよ? エルミアの話も聞かせてほしいし」

「……結構よ。あと、あのメイドの話をするあくしゆは持ってないわ」

「そうなのかい? エルミアは毎回、楽しそうに話してくれたから、仲良しなんだな、って思っていたんだけど。ああ、夕食後にも珈琲と甘い物も出すよ?」

 ! エルミアが私の話を楽しそうに??

 心が温かくなり、少し顔がにやけそうになるのをおさえつつ断る。

「……け、結構よ! あと、べ、別に私はエルミアと仲良くなんかないっ! ……ま、まぁ、少しはしやべる方だけど」

 青年はかたすくめた。

「そうか残念。なら──代わりに二つ目の助言をしよう。魔法剣を使いたいなら今のままじゃ永久にだよ。君が成長するには、さっきも言ったように、炎魔法じゃなく雷魔法がかぎだからね。炎魔法の成長は雷魔法をきわめた後でも出来るさ」

 瞬間、ばつけんし本気のざんげき。寸止めすら考えていない。

 しかし──

「!?」

「危ないなぁ」


 私の剣は、目に見える程強力な魔力しようへきはばまれていた。


 が進んでいかない!?

 どうようを押し殺しながら、きよを取り、剣を構える。

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