第6話:第1章-3

「ごめんなさい。今、レベッカさんにごしようかい出来るとうばつ任務はありません」


 翌朝、ぼうけん者ギルド。

 受付の台しにジゼルが謝ってきた。

 朝のたんれんを終えても、ここ最近のばくぜんとした不安とうつくつは収まらなかった。

 こういう時は、思いっきりけんを振り回せる簡単なじゆう討伐任務でも、と思って来たんだけど……。不発だなんて、本当についてない。

「そう……仕方ないわね」

「で、でもパーティを組まれるなら……。ほ、ほら? これとか如何いかがですか? この辺りではすごめずらしいちようそうおおくま討伐! ほうしゆう美味おいしいですし、第五階位の方がリーダーで」

「……昨日も言ったわよ?」

「す、すいません……。あ、なら──す、少しだけ待っててください!」

 そう言うと、ジゼルは受付の奥へと引っ込んだ。

 待っている間に、近くの大柱にられている、各地の冒険者ギルドの報告書をながめる。


こくかいろうの群れ、各地で消失相次ぐ。新種の魔獣によるものか?』

『東部地区において多数のきよえんもくげき情報。生息地を移動?』

めい、三大クランをふくむ大連合が第百層の主、ちようせんへ』

『【盟約のおう】団長、王国北方をらしまわっていたほのおの特級あくを討伐』


 ……世の中、ぜんとしてぶつそうきわまりないわね。

 クラン、というのは、一定数以上の冒険者達が寄り集まって作られる団体だ。

【盟約の桜花】は大陸西方に勇名をせている最せいえいクランの一つ。上位りゆうや特級悪魔討伐にすら成功している。

 私も何時か、そんな冒険者に──。

「お待たせしましたっ!」

 そんなことを受付の台にかたひじをつきながら考えていると、ジゼルがもどってきた。

 片手に持っていた小箱とふうとうをそっと机の上に置く。

 小箱にはせいな白のリボンがていねいに結ばれていて、封筒も見るからに高級品。ごくうすべに色での花弁がかたどられている。

 りよくは放ってないし、危ない物ではなさそうだけど……。

「……これは?」

 私は何だかうれしそうな表情の担当窓口に問う。

「……ここから先は内密にお願いしますね? 実はですね、これ、本当はエルミアせんぱいのお仕事なんです。ただレベッカさんもぞんじの通り、この数週間、ていこく東部へ出張中でして。支部長に相談したところ、レベッカさんになららいして良い、と」

 私はギルド職員でありながら制服をメイド服風に改造し、担当すら持っていない、存在自体がなぞはくはつハーフエルフ少女を思い返す。

 確かにこの数週間、姿を見かけていない。

 ……いれば、色々と相談──……ち、ちがうしっ!

 あ、あんな子に、べ、別に相談することなんてないしっ! たよりにもしてないしっ!

 …………でも、いてくれたらいつしよに食事に行けるのに。

 私は内心のおもいを見せないようにしつつ、ジゼルへ素っ気なく返す。

「……あのメイド、しょっちゅうていや迷都へ行ってるみたいだけど……辺境ギルドの一職員に、そんな用事があるの?」

 ジゼルがいつしようけんめい、弁明する。

「あ、あれで、お仕事は出来る方なんですよ? 顔も広くて、帝都や、西都、迷都だけでなく、帝国外のギルドのえらい人達とも、顔見知りみたいです」

「……にわかには信じられないわね。で? 私は何をすればいいの?」

 私はジゼルへ再度問いかけた。

 すると、こちらはきちんと制服を着ている担当窓口が胸を張った。

「冒険者になりたてのころよくやりませんでしたか? おつかいです! ここは基本に立ち返ってですね、先輩の秘密を私と一緒にさぐってみましょう!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る