パラレル〜平行世界のパラドックス〜

第44話 復讐

　平越は笑っていた。その笑みの意味は俺にも分からなかった。

　「で、未来人さん。俺を殺すとどんな復習が果たせる？俺があんたになんかしたことがあるってことかい？」すると田中はゆっくりと俺を見た。

　「俺はある男に復讐するために、彼の大事な人を殺す・・・いや存在自体をなかったことにする。そのためにはお前というか、平越時蔵を殺さなけらばならない。」殺害宣言をされているのに平越はいたって平然としていた。

　「平ちゃんの存在を消してお前は何が手に入る？」

　「平ちゃん？」平越が反応した。

　「そう、あんたを殺して、子孫である平ちゃんを生まれてこないようにするのがこいつの魂胆。」

　「何のために？」

　「だから、それを聞いてんの！」俺は平越という上官を怒鳴りつけた。

　「親父は、俺と母さんを捨て、あのガキを選んだ。もし、やつがいなければ親父は帰ってきてた。俺も親父を探していた。見つけ出していた。帰ってこられない理由はなかった。あいつさえいなければ・・・」確かに、この前もそんなこと言っていたかもしれないと俺の記憶も少しずつよみがえっていた。

　「あんたの気持ちも分かるが、あの時田中さんにも事情があって仕方がなかったなら、そんなことをしても意味がなかったんじゃないですか？」俺はとりあえず諭すように、説得を始めた。しかし、相手もかなりの頭脳の持ち主。そううまくいかないと思ってはいた。

　「確かに、記憶がなかったとか言っていた。しかし、記憶がなかったとしても平越時哉がいなければ、あの時代にとどまる必要もない。」確かに。その時平越が眉間にしわを寄せながら話し始めた。

　「あんた名前田中っていうのか？」田中は不思議そうな顔で答えた。

　「田中一茶だがそれがどうした？」

　「あんたの親父は田中清作？」

　「何で知ってんだよ？」二人のテンションが徐々に上がっていた。

　「あんたの親父を知ってるからだよ。」平越は少し嬉しそうな顔をしていた。

　「そっか、あんたが一茶か。確かに言われてみれば、お父さんにそっくりだな。」平越はまるで親戚のおじさんのようにじろじろ田中を眺めた。

　「親父が話したのは名前だけだろ？自分でつけた古臭い名前だけだろ？」すると平越は少し顔を曇らせた。

　「一茶、今の話を聞く限り、親父さんに会ってるんだろ？こんなことしてるのは知ってるのか？」

　「ああ、」見た目おっさんの田中が、見た目まだ若い平越に説教されている姿は、かなりシュールだった。

　「田中さんがっかりしてただろ？お前のこと自慢してたのに。俺より賢くて、もしかしたらあいつひょっこりタイムマシンなんか作って助けに来たりしてなんて言っててさぁ・・・」平越はまるで彼の頭の中でその会話が行われているかのように、穏やかな表情になっていた。

　「そんなこと言われたって・・・」田中がそういうと急に平越が頭を下げた。

　「なんだよ？」田中は少し戸惑った様子だった。

　「すまん！たぶん田中さんが帰らなかったのは俺のせいだ。」田中は黙って平越の後頭部を見ていた。

　「俺が田中さんと別れる時、俺の子孫を見守って欲しいと言っちゃったから・・・」すると田中の体の震えがまた始まった。

　「だからさっきから全部遅いんだって。そんなのもっと早く言えただろ？俺がこんなに老ける前に、母さんが死ぬ前に言えただろ。」田中のこのセリフ何度目だろう？おそらく彼の中ではそれしかなかったのかもしれない。

　「でも、もし平越時蔵を殺しても意味はないぞ？」

　「へ？」俺もまさかとは思っていたが・・・。

　「だってももううちの女房。妊娠してるし。多分もう生まれてるんじゃないかな？」田中は平越の言葉を聞いて、そこの部分だけ時が止まっているようだった。

　「じゃなきゃ田中さんにあんなこと言わないって。」平越は無慈悲に笑っていた。いや俺も薄々感じてはいたことだった。それに俺を殺す理由もよくわからんし。やはり復習に取りつかれると、目の前のものが見えなくなるというのはこういう事なんだなと思った。

　「とりあえず、今の君に必要なのは話し合いじゃないかい？ちゃんと人の話を聞く事だな。頭がいいのは分かるけど、だからってなんでもわかると思ったら大間違いだからな。」さすがに二十代後半の男が四十代の男に言っていると考えると、煽っているようにしか見えなかった。しかし、田中は別のことを懸念しているようだった。

　「そんなはずはない？じゃあ誰が？」

　「どうしたんですか？」明らかに先ほどからの田中の様子がおかしかった。

　「この時点にどこかしらエラーが起きているはず。」

　「とうとう壊れたか？」平越、それはさすがに煽っているぞ？

　「勘違いをしているかもしれないが、俺が復讐の為にお前を殺しているわけじゃない？」田中の爆弾発言に、俺たち二人は開いた口がふさがらなかった。

　「いや、さっきお前復讐って・・・」

　「そうだけど違う。確かに復讐だよ。復讐でエラーを直して親父を元の世界に戻そうと思っていたんだよ。」・・・え？急にいいやつじゃん？その時平越が、上空を見ていた。

　「まずい。伏せろ。」その瞬間大爆発が起きた。

　「空襲だ。」静かな夜に空襲警報がけたたましく鳴り響いた。