第34話 配達員

 今奴らは俺の部屋にいる。そしてその数分後俺はベランダから落ちるがクッションのおかげでなんとか助かる。そのクッションを俺が落ちてくる落下地点に置くのが恐らく俺の役目のはず。だがしかし、その肝心なクッションが周りにない。俺が落ちてくるまで後役5分、いやもっと早いかもしれない。俺は間違いなく焦っていた。

 するとちょうど宅配の車がマンションの前に止まった。

 俺はほっとしながらもすかさず宅配トラックに駆け寄った。 

 「すいません。なんかおっきいベッドみたいなクッションありますか?」突然のことで配達のおっちゃんは目を見開きながらこっちを見ていた。

 「いや・・・な・・・ないよ。」そんなはずはない。

 「ないってどう言うことですか?」

 「どう言うって・・・」そりゃ配達のおっちゃんの反応が正解だと思う。

 「クッションがないなんてそんなはずないです。」我ながら言っている意味がわからなかった。

 「ないって言われてもこのトラックに積んでないんだから私に言われても・・・ちょっと本部に確認してもらっていいですか?」配達のおっちゃんは少し強い口調で俺に言い放った。

 「それじゃあ遅いんです。今すぐそのクッションが必要なんです。」俺は藁をもすがる思いで配達のおっちゃんのボロボロでタバコの匂いが染み付いた服にすがった。

 するとおっちゃんは俺の背後に指を差した。

 「あれじゃダメなんですか?」俺はその言葉を聞くと事態を理解しないまま後ろを見た。

 するとちょうど落下の着地地点に以前命を救われたクッションが置かれていた。

 俺はほっとしたのと同時にこのクッションの出どころがかなり気になった。

 「あれはあなたが?」その疑問の言葉に配達のおっちゃんは呆れ顔になった。

 「さっきからあったよ?」その言葉が耳を伝って脳に届いた直後、背後から俺の首根っこを掴まれる感覚が俺を襲った。俺はあまりの突然のことに身体が硬直した。

 「あーすいません。こいつちょっといろいろあって・・・ご迷惑をおかけしました。」どこかで聞き覚えのある声はそう言うと俺をそのままひきづるようにマンションの入口へと向かっていった。

 配達員の不思議そうな表情を見ながら俺はそいつに引きずられるようにマンションに入っていった。

 「先生、なんで?」俺は俺を引きずった人間を確認した。

 「待て、まだだ。」ひそめた声に俺も息を殺した。

 「お前あの時宅配の車が停まってたか覚えてるか?」

 「いや多分いなかったと思うよ?」俺はそう言いながら俺が今話しているのが田中先生である確信をしていた。

 「じゃあなんで?」

 「そもそもこんなど深夜に宅配のトラックが停まってるわけ・・・」俺もそう言いながら今起きていることが異常なことだと認識した。

 すると宅配のトラックが大きな音を立ててエンジンを始動させた。

 「あのトラックおかしいぞ。」そう言うと宅配のトラックが動き出した。その後すぐ目の前のクッションが何かを受け止めるような鈍い音がした。

 「あぶねー。」俺と先生は胸を撫で下ろした。

 「よし、撤去だ。」そう言うと先生はクッションへと向かっていった。俺もそれに少し遅れて駆け寄った。

 「で、なんで知ってんっすか?」先生はすぐに俺の質問の真意を読み取った。

 「おい、誰があれを作ったと思ってんだよ?」そういうと先生はポケットから少し新しいポケットラジオを取り出した。

 「中古のくせにお前のやつより正確に周波数を調整できるから便利だぞ。」

 「でもなんで?」俺がそう言うと先生はクッションを持ち上げた。

 俺もそれを一緒に手で支えた。

 「最近ずっと電波の増減が激しくていろいろ調べてたんだよ。」そう言っていると上で一悶着やった後の例のあの二人が降りてきた。

 すると先生は改まったようにクッションを移動させると俺の方を見た。「実は時哉お前に隠していたことがある。」すると先生の後ろであの二人が俺を見つけていた。

 「平ちゃん、よかった!生きてて・・・」泰ちゃんがほっとしたような表情を見せている横で、マーシーは鋭い目つきで俺を見ていた。

 すると先生も俺の背後で誰かを見ていた。俺はすかさず後ろを振り向くとそこにはどこか見覚えがあるおじさんが立っていた。

 「まったく・・・クッションだけこっちに移動させればいいのに宅配の車まで持ってきたら宅配の人困っちゃうでしょ?ただでさえ忙しいのに。」

 「お前・・・やっぱり・・・」どうやら先生の知ってる人だった。いや俺も知ってるはず。

 「田中先生?」泰ちゃんが後ろからつぶやいた。そうだ。この人あっちの世界の先生だ。とは言うもののにしては本人と見比べるとどこか違う気が・・・

 「逆だよ。お前が宅配トラックをあっちに持っていっちゃったからこっちに戻すときの俺がうっかり時間を間違えただけであって、ことの発端は・・・」

 「またそうやって責任転嫁ですか?」

 「またってなんだよ?」少し先生の様子が変わった。

 「まぁそんなことより再会を喜びましょうよ先生。いや・・・」


        「親父・・・」

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