第19話 パラレルワールド

 俺は今思いついている仮説を、伝わるかどうかは別として、泰斗に話して聞かせることした。

 「なぁ、なんでタイムトラベルすると俺たちが大金持ちになれんだよ?」泰斗の意見はもっともだ。

 「まだ説明すっから。」俺はそう言いながら、切れかけの街灯の下に座る込んだ。

 「まさか売るの?」泰斗は立ったまま話を続けた。

 「そんなもったいないことはしないよ。もしこれが高額で売れたとしても、それ一回ぽっきりじゃあねぇ・・・」

 「え?じゃあ継続的にお金がもらえるってこと?」もちろん泰斗はまだ理解できるはずもない。

 「あくまで俺の仮説だけどな。」そういうと泰斗は無言で2、3回連続でうなずいた。

 「この世にもう一つ、いやもっと多いかもしれないが、同じだけど少し違う世界が存在するとする。」

 「パラレルワールド?」泰斗からその言葉が出てくるとは思わなかった。

 「そのパラレルワールドは、一般的に俺らが今までの人生の岐路の中で選択しなかった方の選択をした自分の世界って言われていて、その仮定を採用したとしよう。」もう泰斗の顔は限界を迎えていた。俺は構わず話を続けた。

 「ということは、そのパラレルワールドにいる自分の人生の軌跡を辿って取捨選択をすれば、自分にとってベストな未来が待っていると思わないか?」俺は得意げに言った。

 「そしたら先に軌跡を辿って結果と辿らなかった結果を見るってこと?でもそもそも今のマーシーがどっちを選ぶかも分からないのにどうやって分かるのさ?」泰斗のバカさは時々わざとなのでは?と思わされる時がある。

 「そのためにタイムマシンを使って、あらかじめ俺らのタイムラインを知っておいて、」

 俺はこの仮説にかなりの自信があった。

 「なるほどねぇ。」泰斗はどこか腑に落ちていない様子だった。そりゃもちろんまだ説明は途中だからな。

 「でももしかしたらこの先どんな選択をしてても、大金持ちになってないかもしれないし、そもそもこの世界の平ちゃんを真似るなら過去に戻った方がいいんじゃない?」やっぱり泰斗は今までキャラを作っていたようだ。

 「いや、過去を知っていてもその過去の事象を変えることができるのは、その時代にいる自分だけ。だからな。俺の記憶じゃあそんなやつ現れてないってことは・・・」俺が話している最中に泰斗は、俺にあることを気づかせてくれた。

 「でも、今のマーシーはいっちゃ悪いけど成功してないマーシーだからね。もしかしたら成功してるマーシーは、マーシーに会ってるのかもよ。」俺より泰斗が賢いなんてことがあって良いのか?

 「いやもしかしたら、この世界の平ちゃんは会ってるのかもよ?」今日の泰斗はひらめきの帝王だった。

 「確かに・・・」俺はそうつぶやくと、再び自分の論理を組み直した。

 もし、この世界の平ちゃんが、誰かからの助言を聞いて今の現実になっているとしたら、その正体は俺ではない。それをするメリットがないから。じゃああっちの世界にいる平ちゃん?

 もし、そうだとすれば向こうの平ちゃんはこっちに干渉できる。いや、俺らでも干渉する術がある。もしかしたらそれは思っているよりも簡単なのでは?

 頭がこんがらがりそうだった。すると泰斗は、街灯の灯りを見上げはじめた。

 「もうさぁ一層の事、あっちの世界に行けたら良いのにね。」確かに、泰斗の言うとおりあっちの世界とこっちの世界を行き来しながらタイムトラベルができることに越したことはない。

 「ねぇ、さっきのラジオ貸して。」上の空状態で急に言われた俺は、空返事で泰斗にラジオを渡した。

 すると泰斗は、ひっくり返したり、ラジオをまるで舐めるように見回し始めた。

 「ここ動かしたらいけないの?」そう言いながら泰斗は、ラジオの周波数を調節するつまみを左右に回し始めた。

 俺は気付くのが遅くなってしまい、奪い返した時にはもうすでに、タイムトラベルができる周波数が分からなくなっていた。

 「おい、これ回したらタイムトラベルが・・・」つまみはさっきとは違う周波数をさせているようだった。やはり泰斗はアホだ。

 するとよく見ると泰斗の手がラジオのスイッチボタンを押していることに気が付いたが、特にラジオどころか音一つならなかった。その時見覚えのある、微弱な電流が目の前を通り過ぎた。俺と泰斗は辺りを見回した。

 「平ちゃん?」泰斗は叫びながら、何処かへ駆け寄って行った。泰斗の方を見ると、そこにはフラフラな姿の平ちゃんが立っていた。俺はこんな夜道に1人ほっつき歩いているのは、アイドルなわけないと思った。

 そんなことを考えてる間、泰斗は平ちゃんにお決まりのハグをしていたと思ったら、急に平ちゃんが膝から崩れ落ちるように、泰斗にもたれかかった。

 「お前何したんだよ。」俺はそう言いながら平ちゃんに駆け寄った。

 「知らないよ。」まぁ泰斗に何かできるわけもないが、何も理由なしに倒れる人間なんていないはずだったが、平ちゃんはそのまま俺たちの腕の中で意識を失っていた。

 俺たちは必死に平ちゃんの名前を呼び続けた。首元に手を当てると、鼓動のような振動がはっきり確認できた。

 「とりあえず病院を探さないと。この世界も有ればだけど・・・」そんな皮肉を言いながら、俺はあっちの世界の記憶を頼りに病院の場所を探し、泰斗は平ちゃんを背負うとそのまま俺についてきた。

 俺たちの騒ぎっぷりに、ちらほらと明かりがついていたが、俺たちはそんなことを気にする余裕はなかった。

 平ちゃんの少し安心したような安らかな表情が、俺たちをさらに焦らせた。

 

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