第5話

 すさまじい閃光に視界を奪われた俺は……次に目を開けたとき、何もない真っ白な空間にいることに気が付いた。


 これは、いつもループ前にたどり着く、あの空間だ。


「よしっ、次こそ、リリーナを助ける!」


 この時の俺は、九周回目が始まると信じて疑わなかった。

 いや、もう十周回でも、二十周回でも、ともかくリリーナが幸せになるエンドを見るまで何度でも、このミララキの世界をループする覚悟はできていたのだ。


 しかし、そんな俺の希望を打ち砕いたのはチヒロの声だった。


「残念だけど、ゲームクリアよ」


 いつの間に現れたのか、チヒロは俺のすぐ隣に立っていた。


「私たちは元の世界へ戻されるわ」


「そんなの、わかんないだろ!」


「わかるのよ、だって私、このゲームのヒロインだもの!」


「そんなバカな……だってアレ、ハッピーエンドじゃないじゃんよ!」


「そんなの、あなたの主観でしょ!」


 俺はこの時初めて、チヒロが少し鼻をすすりあげていることに気づいた。


「お前、泣いて……」


 ぷいと顔を背けて、チヒロは涙を隠す。


「リリーナは、バカだわ。あんたに告白されて、愛するアンタを守ることができて……それで幸せだと思っちゃったのね」


「嫌だ……こんな終わり方……嫌だ」


「嫌でも認めなさいよ! これがあの子の望んだ真実トゥルーなんだから!」


 チヒロはひときわ大きく鼻をすすりあげてから、グイッと顔をあげた。


「さ、もうお別れね、もう二度と会うことはないと思うけど」


 その姿がゆらりと揺れて消えてゆく。


「待てよチヒロ、お前はこんな終わり方で納得ができるのかよ!」


「納得なんかできるわけがないでしょ!」


 消えかけてゆくチヒロが、ふいっと振り向いた。

 彼女は目を真っ赤にして泣いていた。


「納得なんかしていないけど、しかたないじゃん!」


 それっきり、チヒロの姿はすっかり消えてしまった。

 それと同時に、真っ白だった俺の視界は、とつぜん闇に包まれたかのような黒一色に塗りつぶされた。


 こうして俺は……ミララキの世界から抜け出すことができた……わけだ……

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