第13話 痩せ地、盗賊、ボタン

 戦争があった。

 大地は荒れ果て、海は枯れ尽き、空は燃え盛った。

 誰もが悲惨だった。誰もが苦痛だった。

 終戦してもなお、勝者はいない。

 辛勝どころではなく、虚ろな勝利だった。


 私はイシュマエル・ストライダー。

 この荒れ果てた地球ほしから逃げ出す計画を立てている。

 多くの人間とともに、新たな惑星を開拓すべく、宇宙船を始めとしたあらゆる過去の研究をかき集めていた。

 いや、こう語ると研究者だと勘違いされる。

 私は一介のトレジャーハンターに過ぎない。

 

 まだ夜が明けぬうちに、過去の異物を探すべく出発した。

 あまりこの地球ほしに猶予はない。

 それゆえに急がねばならないのだ。


「!!」


 揺れが来た。

 地震……、いや、だ。

 戦争で新兵器が大量に使われた結果である。

 

「……治まったか」

  

 案外、早期に揺れは止まった。

 比較的低い位置で大崩落が終わったらしい。


「急がなくちゃな」


 そう、急がなくてはならない。

 大崩落は最近増加の一途をたどっている。

 あちこちで深さ三キロメートル、直径十キロメートルクラスの大穴が空き、いずれ地球には住める土地はほとんどなくなるだろう。

 研究者たちがそう言っていた。


 私には学がない。

 研究者の言葉を全て理解できるわけではない。

 だが、大崩落が続く以上、人間はいずれ新たな土地を求めて宇宙へ旅立つべきだ。

 それだけははっきりとわかる。


 電磁ホバーバイクを走らせること二時間。

 目当ての廃墟群へとたどり着いた。

 ここで電算機器を探すことにする。

 少しでも研究者たちの役に立たなくてはならないからだ。


 小型ドローンを併用して未踏のエリアを探索する。

 ここの廃墟群はどこぞの軍が使っていたものであるため、高性能の電算機器ないしロボットを発見できるだろう。

 事実、PLVSVLTRA2300という型番のものを見つけている。

 気象の予想にも使えるとのことで、研究者には喜ばれた。

 これまでに四台を発見し根城に運んだ。

 それ以外にも四台の大型ドローン、十台の電磁ホバーバイク、二十五台の電磁ホバートラックを見つけている。


 そういった土地であるがゆえに。

 ドローンからの映像で、悪い情報を知った。


重油喰らいディーゼルドランカー! やつらも嗅ぎつけていたか!」


 ディーゼルドランカー。

 技術進化の一過程ではある。

 連中は、人類は地球と運命をともにすべき、と考えている。

 地球の現状に人類は合わせていくべきだ、とも。

 それはそれで正しいのだろう。


 ただ、連中も一枚板ではない。


 注意深く観察する。

 連中の掲げる旗には、白地に赤い豚の頭が描かれていた。

 最悪だ。

 ディーゼルドランカーの中では略奪も強盗も虐殺もいとわない過激派、蝿の王キング・オブ・フライが来てしまった。


 人類はボタンの掛け違いを繰り返し、今の状況へと陥った。

 これからもまた、掛け違いは続くだろう。

 蝿の王どもを見てそう思う。


 もはや、やつらが来た以上、ここから資源を得るのは得策ではない。

 研究者には十分な物を用意できたはずだ。

 この廃墟群は諦め、やつらに蹂躙させる外ない。


 悔しいがそうせざるを得ないのだ。

 電磁ホバーバイクに乗る私には頬が濡れていく感覚がわかった。


 私はイシュマエル・ストライダー。

 一介のトレジャーハンターに過ぎない。

 だが私の行為は、なんら恥じるところがないと自負している。

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