5(4歳)「村を魔改造してみる」

 城塞都市を出て、北上すること小一時間。やって来ました農村!

 兵士たちが片手間に耕した畑より、本職が世話しているものを見た方がいいだろうという、パパンの粋な計らいだ。


 村長さんに挨拶し、小麦畑へ案内してもらう。

 畑に着くと、そこには無残にもメチャクチャに食い荒らされた小麦たちの姿が!


「これはいったい――」


「ご報告に上がれておらず、申し訳ございません。実は昨晩、荒らされたのです……まだ村民に被害は出ていないのですが、山の麓ではぐれのオークを見た者がいます」


 オーク! 姫騎士推参!


 続いて村の端――山の麓へ案内される。木製の柵の一角が盛大に破壊されていた。


「――山狩りはしていないのか?」


「実は1週間ほど前、村一番の狩人を含む数名が大柄なオーク数匹と遭遇し、大怪我を負いまして。幸い死者はなく、狩人たちは砦街の医療院で治療を受けているのですが、ここしばらくは山に入れていないのです」


 オークの繁殖力・成長力はすさまじく、また魔の森から壁の穴を抜けてやってくる魔物も多く、1週間も山を放置すれば、あっという間に魔物の集落が出来上がるのだとパパンからは教えられていた。


「今にして思えば、教会へ狩人たちを預けた時に、従士長様へご報告し、兵士を何名か派遣して頂くべきでした……」


 ……ふむ。肥料だとかクローバーだとか以前に、問題が山積み……。


 まずはオークか。

 の前に、とりま柵を直そう。


「村長さん、ちょっとよいですか?」


「はい、何でございましょう、お嬢様?」


「私、【土魔法】が得意なんです。もしよければ、この柵を頑丈な壁に置き換えさせてもらえませんか?」


「な、なんと! ……お、お願いしてもよろしいので!?」


 村長さんが私とパパンの顔を交互に見る。


「ふむ……アリスが鍛錬している様子は知っているからな。やってみろ」


「はい!」


 じゃあさくっとやっちゃいましょうかね! 柵だけにさくっとね!


 まずは破壊された箇所とその周辺10メートル分ほどの柵を【アイテムボックス】へ収納する。


「「「――――え?」」」


 あ、しまった。急に柵が消えたもんだから、大人3人が固まっちゃった。


「あ、ごめんなさい……いったん【アイテムボックス】に収納したんです。ほら!」


 邪魔にならないよう、やや離れた場所に、解体済みの状態の柵と釘を積み上げる。


「「「えぇぇぇえええええええええええっ?」」」


 むおっ、なんだなんだ?


「アリス、4大属性魔法と【鑑定】のみならず、【アイテムボックス】が使えるのか!?」


 パパンに肩を掴まれた。い、痛いよパパン……。


「……く、【空間魔法】は一番得意なので……」


「……そ、それにしたって……収納範囲といい、一瞬で解体する術といい……」


「ひ、ひえぇぇ、神の御業じゃあ~……」


 村長さん、腰抜かしちゃってる。手とかすりむいてない?

 慌ててヒールをかけると、目をひん剥かれた。


「と、とにかく! 続けますね!」


 地面に手を上げ、そこからぐっと引っ張り上げるイメージで、腕と全身を振り上げ、


「うりゃっ!」


 ずももももももも……


 高さ地上2メートル、地下1メートル、幅50センチほどの土壁が地面からせりあがる。


「ちょっと柔らかいな。水分を抜いて……圧縮して……結界で壁を囲って……中を真空にして……高熱で焼き上げて……よし、できた!」


 生成したアースニードルでガンガン突いてみるが、傷一つつかない出来栄え!

 むふー、成し遂げたぜ。

 私だって伊達に1年、魔法の研鑽に努めてないんだぜ!?


 ホントは鉄製にしたかったんだけど、教本の上級【土魔法】にすら、鉄生成魔法は存在しなかった。まぁ、無限に鉄を生み出せるなんて十分に『神の御業』なわけで、聖級か神級魔法なんだろう。


「……あ、アリス、お、おま、お前……」


 仰ぎ見ると、パパンが口をパクパクさせたまま固まっている。


「――アリスちゃん!」


 同じく固まっていたママンが、血相を変えて私の肩を掴んだ。


「魔力は大丈夫なの!? 頭痛はない!? 気だるさは感じていない!?

 これだけの魔力を一気に使って、体調でも崩したらどうするの!! 魔力切れは、死の危険すらあるのよっ!?」


 いかん、これはガチで心配をかけさせちゃったな。


「だ、大丈夫ですよ、お母様! 1歳の頃から毎日魔法を使ってるんです。魔力はまだまだ余裕がありますよ!」


 安心させるように、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねて見せる。

 確かに今の魔法で数千ほどMPを消費したものの、1億の中の数千だ。疲れも何もない。


「まだまだあるって言ったってお前……アリス、これと同じ壁を、あとどれくらい生み出せる?」


 パパンの問いに、


「どれだけでも!」


「はぁっ!?」


「どれだけでも出せますよ!」


 赤ちゃん期MP養殖で鍛えた1億越えのMPは伊達ではない。

 伊達にあの世は見てねぇぜ! 実際、無限の死に戻りで育てたMPだしね!


「ででで、ではお嬢様、……この村の柵全てをこの頑丈な壁に置き換えて頂くことも……?」


「はい、できますよ!」


 ママンが失神した。



    ◇  ◆  ◇  ◆



 急に柵が壁に変わっては村中が大混乱になるので、一夜城大作戦は小一時間後に決行されることになった。それまでに、村の各所へ連絡してくれるのだそうだ。


 そして私は今、村の居住区上空をふわふわと漂い、居住区の全体像を眺めている。


 下界からは、『天使様だ』『いや女神様だ』とかいろんな声が聞こえる。なんかめっちゃ人が集まってるんですけど!


「お嬢ぉ~さぁ~まぁ~!!」


 下を見ると、村長さんが大きく手を振っている。

 準備完了の合図だ。了解っと手を振り返す。


 じゃまずは、不要な柵をまとめて【アイテムボックス】!

 村の居住区を囲んでいた柵が姿を消す。


 勇者仕様のアイテムボックスは、触れなくても、近寄らなくても、距離・範囲無制限で無限に収納できる、マジもんのチート技。

 やったことはないが、多分視認するだけで、襲い掛かってくるオーガを武装解除したり、ゴブリンの首だけ収納したり……そういう無敵技が使えると思う。相手の精神力(魔法防御力)が高い場合は、レジストされるかもしれないけど。


 とにかく今は、壁の生成に集中だ。


「よいしょっとぉ!」


 ずもももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももももも…………


 ……からのぉ、水分除去! 圧縮! 結界! 真空! 焼き入れ! 結界解除! いっちょ上がりぃ!


 MPが1万ほど減った。さすがにほんのちょっとだけ疲労を感じるが、逆に『ひとっ走りしてすがすがしい』くらいの感覚。


 しかし、これだけ天地創造みたいなことをやっても消費が1万。

【ふっかつのじゅもん・ロード】の消費100万ってのはすごいね!

 いや、逆にこの程度の魔法のたった100倍のMPで時空を歪められると考えれば、十分に省エネなのか……?



    ◇  ◆  ◇  ◆



 そんな感じで村の各所を回り、木製の柵をなんちゃって煉瓦製の壁に置換した。特にオークが出るという山方面に関しては、ちょっとした街ばりの防御態勢が整った。

 調子に乗った私が、見張り台まで作っちゃったからね!


 村人たちの歓声の中、村長さんが涙を流しながら感謝してくれたが、こちとらまだ本題にたどり着いてすらいない。


 さて、お次はオーク退治だ!

 レベリングするぞぉ!






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追記回数:4,649回  通算年数:4年  レベル:1


次回、「はじめてのたたかい」!

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