5スラ 夜のおやつ! スライムさん

ベルが電池切れだ。

床に転がってグースカピーしている。

幼児は電池切れまで全力疾走なのだ。手は一切抜かないのである。

今日1日で一杯興奮したからなぁ。


「おい、クレイトス。ベルが転がってるぞ。ちゃんと寝かしてやんな。」

「おや、疲れて寝てしまったんだね。今日は楽しかったんだろうね。ありがとう、スライムさん。」

「おいおい、礼はいらないぜ? 家に連れて来てもらったしな。」


クレイトス、いや、パパンは娘を寝かしつけるため運んでいく。

ベルが寝ぼけながら身じろぎ敢行。

なんか俵担ぎみたくなってますけど。


「ローズ。おまえも眠そうだな。さっさとベットに入れ。」

「んゆー、スライムさんいなくならない? もっとあそびたい。」

「おい、オレは泊まりだ泊まり。明日遊んでやっから今日はもう寝ろ。」

「わかったー。おやすみー。」


やはり姉妹。言葉使いとかイントネーションとかなんか似ている。


「で。マルガレーテ。オレはどこで鎮座してればいいんだ?」


鎮座である。スライムさんは睡眠はとらない。

だからこそ王座に跨る王のように格式高い場所で座することをご所望あそばす。

と言うか、王座に跨るってナニよ。座れよ、王。


「その前に、教えて?スライムさん。」

「あん? どうした? なんか不都合か?」

「スライムさんに性別はあるの? 話口調は男っぽいけど。」

「ははは、チンピラみたいってか。口調はクセみたいなもんだ。スライムさんに性別はねぇよ。菌類は無性生殖だしな。」

「そう。なら聞くわ。スライムさんの秘密9番。お肌のお手入れは具体的にどうなるの?」


やはり、お肌のお手入れが技能としてあれば、それだけで目を引くものだ。女性からは。そして施術をオスがするならなんとなく気になってしまうのだ。

マルガレーテが興味を持っても仕方ない。

つーか美容関連について女性に逆らってはいけない。


「ああ、そこに食いつくか。まぁ、そりゃそうか。角質やら老廃物を体中這い回ってオレがそぎ落として消化するんだよ。」

「あとは11番のローションで肌に水分と栄養与えて艶と張りがでる。ただしローションの成分でエロい気分になるのが難点だな。」

「ふーん。実績はあるのかしら? 体験者の声はどうだった?」

「おう。昔から何度もな。たいてい9番11番のオーダーで、みんな若返ったって喜んでたぜ。」

「9、11、12番とオーダーするヤツも結構いたがな。」


フヒッと苦笑が漏れるスライムさん。過去にいったい何があったのか。

ナニがあったんですね。わかります。


「みんなリピーターになっちまって大変だったわ。好みの声音で囁けとか、もうめんどくせーことになってな。」

「あら。声も変えられるの?」


スライムさんに声帯はない。声は空気振動で出している。

通常は振動が楽な声音にしてるので凛々しい系の男装女性のような中性っぽい声。

しかし、自由自在なので、渋いオッサンとかイケボとかお嬢様とか女王様とかバリエーションは無限大だ。

そして、幼児ほのぼのふれあいランド的ハートウォームな感じが、人妻ぬきぬきやじゅうランド的パッションエロチカな雲行きになってきたぞ?

エロ回ですか!エロ回ですよね!


「対価にはナニが必要なのかしら?」

「ん? 別に要らねぇよ。世話になってるんだからな。サービスだ。」

「そう。じゃあ、9番をお願いしたいけど良いかしら。」

「ああ、かまわねぇぞ。いつがいい?」

「今晩お願いよ。」


オーダー入りましたー



夜遅く。だいたい21時から23時くらいの間と思いねぇ。

この屋敷は無駄に部屋数が多いため、一人一部屋ずつ分け与えている。

夫婦の寝室以外に、マルガレーテの部屋も別にある。

今日、夫は次女と一緒に寝ているため、今晩は一人である。

小脇に抱えたスライムさんがいるけどね!


さすがお金持ちの家。ベットがフッカフカです。手を置くだけで沈みますよダンナ。

…あんま柔いと腰悪くするんだけどね。


「用意はいいか?」

「ええ、いいわ…」


なんか少しハスキーなイケボになってるスライムさん。

この声音調整で1時間かかりました。オーダー細かすぎ!


マルガレーテ、通称メグ、はベットの脇に立ちガウンを肩からスルリと脱ぎ落した。

まだ、湯上りの熱は冷めきっておらず、身体の至る所が薄桃色に染まっている。

今年で大台に乗る年齢だというのに、身体の線に乱れは見えず、メリハリのある肢体は彼女の魅力を一層引き出している。

はい、9番入りまーす!


「ベットで仰向きになりな。」

「はい…」


ハスキーイケボに命令されたい系であったようだ。


スライムさんはメグに覆いかぶさる。


「あ……」


スライムさんが全身に広がる。

皮膚に浸透する様な感覚、毛穴と言う毛穴に侵入してくる。

スライムさんパックだ。


「フフ、くすぐったい。でもキモチイイわ…」


わざわざカタカナ使うところがナニかを物語っているようだ。

あ、ちょっ!モニターが!いまからイイとこなのに!ちょ、待って!



残念ながら施術完了!

結構長い時間が経っている。

具体的に言うと、ご休息2時間6,800円くらいの時間だ。延長なし。


「どうだ、スッキリしたか?」

「ええ、ほんとに肌がスッキリスベスベね。髪の艶まで出るとは思わなかったわ。これはクセになるわよ。」

「血行促進もしてるからな。暫くは身体の調子もいい筈だ。」

「腰が軽いわ。あれだけ動いたのに。する前よりもイイくらいよ。目元の疲れも取れてるみたい。凄い効果ね。定期的にお願いしたいわ。」

「まぁ、世話になってる間はいつでもサービスしてやんよ。」


大好評だ。

ウナギなパイとか一緒に食べると効果が出るぞ!…と思う。

個人的には源氏なパイより好きなんだけどな。うめぇ。

あるぇー?12番の描写はー?服従系人妻の痴態は?

え?ないの?………………そう、DEATHか。

施術内容は個人のプライベート情報だから明かせない。

セキュリティレベルが高いスライムさんは機密保持も万全だ。

IT企業へのスカウト待ったなしだ。

そうDEATHか、そうDEATHか。チッ。


「オレは今、豪華なソファーに鎮座しておる。」

「素晴らしい鎮座ごこちだ。」


メグの部屋にあるソファーにスライムさんはポヨンと鎮座している。

今晩はここで夜を明かすことになるが、そもそもスライムさんは睡眠がいらない24時間戦える企業戦士だ。

人々は畏怖と尊敬を込めてこう呼ぶ。『ブラック企業戦士』と。


スライムさんは深い思索を繰り返す。このまま神仙へ至ろうとでも言うのか、いうのんか?

我々は!今!正に!!人が神になる瞬間に立ち会っているのだっ!


…立ち会えませんがな。スライムさん人と違いますがな。


周りの思惑を一切関知せず、我思う故に我在り的哲学者であるスライムさんは、6MHzのCPUに匹敵する高性能で明瞭なる頭脳と2DDフロッピーディスク4枚にも及ぶ莫大な記憶域から2bit処理である記憶を呼び起こした。


「そういや、ベルの部屋に寝床用意してもらってたじゃん。」


うん。あったね。謎のシミが染みついたヤツが。


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