拝啓、音無家は今日も。

月凪あゆむ

1. 音無家の3兄妹

 音無家は基本、「早寝早起き」を地で行く家だ。

 大抵は、母の七瀬か末っ子の真陽が一番に動きだす。その後、父雅司と次男悠也が。とびきり朝を苦手としている長男の旭は、毎回一番最後だ。

 しかし。

 一番に家を出て行くのは、旭だ。もちろん、仕事のため。

 彼は、昔から動物を苦手としている。

 そのためもあってか、家の近所の犬の吠える声が聞こえない道を歩く。そのため、時々妹に先を越される日も、あったりなかったり。

 その後に、次男の悠也がバスの送迎を使い、彼も半日は仕事場へ。

 真陽が高校生のころは、兄妹の中では彼女が最初に出て、最後に帰宅していた日も多かった。


 父、雅司はすでに退職している。

 母、七瀬は専業主婦として、これまでも家族を支えてきていた。



 そんな音無家は、ちょっと周りと違った部分がある。

 まず、長男の旭。

 彼は、「自閉症」という障がいを背負っている。ほとんど言葉を話せないし、人とのコミュニケーションも、それほど得意とは言えない。

 しかし。一度自分の懐に入れた相手に対しては、とても積極的だ。


 次男の悠也は、よく喋る。本当に、よく。

 ただ、あまり内容は多くない。

 彼も自閉症だが、旭とはタイプが違う。動物に対してで言えば、恐れているほどではないが、「触りたい」という気持ちも薄い。

 好きな物は、とことん好きだ。食べ物で言うと、人参なんかは、生でも食べかねない。

 

 末っ子の真陽は、健常児で育ってきていたが、ある事がきっかけで、精神の病を持ってしまったのだが、それはまた別の話としよう。


 旭と悠也のように、「自閉症」というものでも、人によりそれぞれまったく変わることが多い。

 生まれつきに障がいを背負って育つ二人の兄を、健常児で妹の真陽は、ずっとそばで見てきた。

 彼女のように、障がい等を抱えているひとの兄弟姉妹を、「きょうだい児」と呼ぶ。

 「きょうだい」については、あまり世間ではピックアップされることは少ない。

 ここも、意外と闇が深かったりもする。

 

 そんな真陽は、少し先の自分に対してだったりもしたりしながら、言葉を残している日がある。


 ――拝啓、少し先の自分へ。

 今日は、帰りにコンビニに寄って帰ったら、そのレシートをゆう(悠也)が見たがってうるさかった。でも、渡せば不思議なくらいに機嫌が良くなる。単純だな。

 あと、いつも見てたアニメの最終回だったのに、あさ(旭)にリモコン取られた。

 ……ちょっとダメージくらった。

 それを母さんに話したら、そこからグチグチ大会に。

 ……レシート、次はもっと上手くやろう。ぜったい。

 うん。やってみなくちゃ分からないけど。

 

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