第一章 6

   六


 武器の工夫はそれだけではなかった。

弓の本弭(もとはず)が、太く、長くなっていて、そこに短剣が、付けられるようになっていたので、射た後、槍の代わりになるのであった。

鉄砲も同じで、すべて、銃剣になっていた。

さらに、手投げ弾を使った。

これにも刺激剤が混入してあって、爆発すると、強い刺激に襲われた。

 そうした武器で戦闘してくる、台車が、十数台も疾走してくるのである。

その間には、勿論、槍、鉄砲、野太刀で斬り込んで来る騎馬軍団がいた。

騎馬武者の馬も、馬鎧と龍面で武装していた。

 それらも、赤で統一されていた。

 それだけで、攻撃してくるのではなかった。

 九度山に蟄居を命じられた幸村は、父の昌幸とともに、

「こういうときこそが、真田一族の真価を問われるときぞ。歯を食いしばって、生計(たつき)の手段(てだて)と、武芸百般の練磨と、武器の工夫、農耕の基礎からを考えよ。幸い、浅野長晟もこの草深き、九度山までは、監視には来ぬ。あらゆることを磨き抜く機会ぞ。農業、工業、商業抜本から考え直すのだ」

 と考えだされたのが、真田紐であった。

これを造っては、売りに行くのであるが、ただの行商ではない。

真田忍軍と呼ばれた者たちが、全国の様子を足で探索する目的も持っていたのであった。

 九度山には、真田氏の基地ともいうべき真田庵を造った。

湧水のある場所を選んで、さらに井戸も掘って、水の手を切られないようにしてから、外観は殆ど農家としか見えない建物をいくつも建てて、地下室を造ってさらに、地下道で農家と農家の間を迷路のように繋いでいった。

 すべて、昌幸の発案であった。

昌幸はそれらの

ことを、父の幸隆から、教わっていた。

 幸隆は、軍神と呼ばれた、甲信の武田信玄の二十四将の一人であった人であった。

「攻めどき、退きどき、待ちどきがある。止めのときもある。これを、間違えるな。戦の土台は、土木にある。いかに、早く、堅牢な陣地を造れるか、専門の土木隊を常に、養成せよ。農業は土に慣れる、最高の仕事ぞ。土に慣れれば、土木も難儀ではない」

 と陣地、土塁、石垣、土塀、水濠、空濠、土塁に植える鹿砦の方法、石垣には、武者走りを付け武者走りの背後に矢倉を建て、長屋、倉庫、武器庫、兵粮蔵までを造る。

最初の土塀の高さ、必ず屋根を付けること。

そうしないと、風雨で土塀が壊れやすくなる。

屋根は不燃の瓦とすること。瓦の焼き方と炉の造り方。馬の育て方、牛の育て方。諜報こそが最初の戦であること。そのための忍軍の育て方。

と、こまごまとしたことが、書き記されてあった。

 この幸隆の書き残した教えを真田軍法といった。

信玄公が最も欲しかったのは、

「駿河である。海が欲しかったのだ。日本は、細長い島国である。船にすべてを積み移動すれば、馬よりも早い。船の研究こそ肝要である。常々、信玄公が言って居られた、大切なことばである。外国の文化、科学、武器、こうしたことさえも、船があれば、こちらから言って学んでこられる」

 ということであった。

もしも、そうした機会があったなら、資金を惜しまず、南洋、南蛮を研究し、そのすべてを摂取せよ。

 事実、今川が倒れたときに、武田はすかさず、駿河を取り、武田水軍を造った。

 幸隆は武田二十四将の一人であったが、信濃先方衆であった。

真田と言う土地のためである。

ために上田に城を造った。

上田は、真田の一部である。

真田を姓としたのは、棟綱様である、予の父である。

「始祖は清和天皇に発し、その皇子、貞保(さだもち)親王の孫の善淵(よしぶち)王が初めて、滋野氏を称して信濃守となって、信州に赴任した。信州の望月牧などの、牧監(もくげん)となって良馬を育成した。滋野氏は、小県(ちいさがた)郡海野に住んだが三家に分かれた。本家の海野、禰津(ねづ)氏、佐久郡望月の望月氏である。真田は代々海野小太郎信濃守である。真田になったのは、棟綱・予、幸隆・昌幸・幸村(信繁)である。信玄公が信濃を治めたので、その麾下に加わったが、勝頼公のとき織田信長公に破れ、駿遠三に甲信を加えた、徳川家康の幕下にはいるも、予は家康と反りが合わず、いかんせんとしたときに、家康は、武蔵に移り、秀吉公の恩顧を受ける。秀吉公とは、大いに肝胆相照らした」

 と記してあった。

 信玄公が山国にあって、海を望み、南洋、南蛮に心を馳せたという記述には、幸村はおおいに感興をそそられた。

信玄公の人物の大きさが想像できた。

 九度山では、山中で武芸を磨いた。山野に親しんだ。

野外戦は、最も得意とするところとなった。

鹿の捕獲の仕方や、猪の捉え方は、猟師に習っていた。

 猟師は、狩りの助手に、犬を使った。何頭もの犬を、家族のようにして飼い慣らしていた。

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