転生するには死なないといけない

 エネルギー意識体の際限の無い膨張性という、どうしようも出来ない事態に直面した魔法科学国家ジェグ。

 そんな国家の国民が絶望して封印世界を展開した後、自ら命を絶ってから幾星霜の時間が流れている。

 中心部にエネルギー意識体を配し、その周囲を種々様々な世界で覆い、物質とエネルギーの糧とする。

 摩素の糧として入手した物質とエネルギー等は世界群の維持と新たな世界の創造に用いられる。

 封印世界ストゥラトゥム・カルパー・テルミヌスは摩素を収集し各世界へと供給する事により世界の維持を行う事で、エネルギー意識体の膨張の抑制を行っている。

 幾層にも折り重なる世界では、何時終わるともしれない摩素量の調整の日々が何時までも何時までも続いていた。

 そんな中、この封印世界ストゥラトゥム・カルパー・テルミヌスを維持管理する存在であるデアエ・エクス・マーキニースは諦観を得る事に成功する。

 彼女達が得たのはエネルギー意識体の本質。

 彼女達の造物主達が絶望し、死に絶える道を選んだ元凶を見つめ続ける事によって到達したのは、ネガティブな感情を有しない様に行動を行う事であった。

 そしてデアエ・エクス・マーキニースはその持って生まれた管理能力を最大限に活用し、世界に影響を与えうるシステムを生み出した。

 すべての世界で起こっている様々な事象の言語化と数値化。

 言語化した物はシステム上に蓄積され、時にアイテム名、時に種族名、時に職業名と分類される。

 数値化した物は、エラとレベルとし、これらを管理する為に経験値という物をシステム上で再現した。


 世界はシステムで徹底管理された。

 それはまるでゲームの様な世界の様相となっていったのだった。


 そして、世界間のエネルギーバランスを保つ為に彼女達は霊魂を利用する様になる。

 また、エネルギーバランス以外の有事に対処する為にもこれは利用される様になる。

 こうなってくるとより良い、より彼女達に都合の良い霊魂が必要になった。

 その為彼女達は、自分達にとって都合の良い霊魂を生み出す為に一つの世界を調整した。


 封印世界ストゥラトゥム・カルパー・テルミヌスの最外縁に程近い領域にあるラー六三四〇二六二二ろくさんよんまるにろくにに

 そこは、異世界転生または異世界転移を行うに易い霊魂を育てる為の世界。

 特にその世界で最も異世界転生や転移に適した霊魂を育てる事に成功した事例がある。

 そう、その場所こそ地球に存在する日本という国家。そして、そこに住まうオタクと呼ばれる人種である。


 平日の昼下がり、世間一般的には労働に準拠するのが普通であるが、だからといって全ての人がそれに倣い休日を得ている訳では無い。


 もう一回見に行こうかな?童女戦記。


 そんな事を思いながら、非番の日に映画を見た帰り道、最寄り駅となる地下鉄のホームから降り、地上へと登る為の長いエスカレーターの右側を歩きながら、河野瑛多は家路についていた。


 都内のスーパーマーケットで日夜働きつつ、アニメや漫画、小説にゲームを嗜むれっきとしたオタクである彼だが。本人曰く、俺程度でオタクと言うのは烏滸がましい等と言って憚らない。だが、サブカルチャーに傾倒していない人から見れば、どう足掻いても立派なオタクであるところの彼だった。

 さて、そんな瑛多であるが、最近公開された「劇場版童女戦記」二度目の視聴を終え、三度目を見に行こうかな?等と考えながらの帰宅途中である。


 シン・ガジラ以来だなー、同じ映画を二度見に行ったのは・・・。


 そんな事を思いつつ、夏江駅名物と勝手に瑛多が思っている、ムダニナガイエスカレーターを登り切り、いつも使用している出入口から徐に出ると、彼の目の前には一条の何かが迫っていた。

「へ?」

 急に視線に入ってきた為に、目の前の物が何か理解する間もなく、河野瑛多の肉体はミンチになっていた。


 本日未明夏江駅で突如起こった高圧電線の断線事故に巻き込まれ、死亡された方の身元が確認されました。


 このニュースを見た彼の親族は一体どのような心情だったのか。

 河野瑛多はそれを確認する術を失い、異世界へと転生した。

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