第30話 事故物件、じゃない……?

 事故物件のこの部屋と、隣の部屋の家賃が同じ……?

確かに、言われてみればそれはおかしなことなのかもしれない。


「おおー! クロは1位だー!」


 クロがゲームの結果ではしゃいでいる。

これは、いつものことである。


「かおる見てぇー!!」


 クロが、ドヤ顔を私の方に浮かべていた。

これも、いつものことだ。


 しかし、クロが消えることが時々ある。

何かが、起こり始めているんだ。


「アオイ! 電話する間、クロのこと見ててくれる? もし、クロに何かあったらすぐに教えて!! 事情は、後で説明するから」


 私は、大家さんに電話してみようと思っていた。


「了解っす!!」


 アオイはキラっとした笑みを浮かべると、敬礼のポーズをしていた。

それを確認すると、私は電話をするために廊下に出た。

そして、ポケットからスマホを取り出すと、大家さんの番号を確認して電話をかける。

スマホを耳に当てると、コール音がなる。


『はい、もしもしどなた?』


 ワンコールで電話がつながった。


「もしもし、お世話になっております。私、202から203号室に引っ越した斉田と申しますが、四つ葉荘の大家さんでしょうか?」

『あー、はいはい。急な引っ越ししたからね! それで、どうかしたの?』


 私の電話に、大家さんはきちんと対応してくれていた。


「あの、一つお伺いしたいことがありまして……こ、ここって、事故物件ですよね……」


 私は、疑問に思っていたことをそのまま大家さんにぶつけた。


『やっだ! もしかして、あたなもなの? いやねーもう、前の住人も幽霊だって出て行ったのよ』


 大家さんの返答は私の期待しているものとは違っていた。

いや、本来は事故物件じゃないことに安心すべきなのかもしれないが、私の場合は事情が違う。

ここが、事故物件であってくれと、どこかで願っていたのである。


『それから、インターネット?ってやつでも書かれちゃって、誰も入らなくなっちゃってねぇ』


 大家さんは心底困っていたという口ぶりだった。


「まっ、待って下さい!! それじゃあ、ここは……」

『そうよ』


 このアパートが建って6年間、事故も事件も何一つ起こっていない。

これが、大家さんの返答だった。


 夏の乾いた暑さなど、感じる余裕もなく、私の背中には冷たいものが走ったような気がした。

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