第23話 夢の日

 私は、漫画の担当編集さんと電話をしていた。


「いけますかね?」

『大丈夫だと思います。今までの中でも一番の傑作です。編集長も好評でしたし、副編やチーフによりますが、何とかなると思います』


 正直、今回は私にも手ごたえはあった。


『17時には結果が出るので編集室で打ち合わせましょう』

「はい、分かりました。失礼します……」


 そう言うと、私は電話を切った。

明日、全てが決まる……


「…………ああ、24時間ってこんなに長かったけ!! 体中がぞわぞわする!」


 とにかく、何かしていないと落ち着かないといった状況だ。

私はクロに視線を移す。


「クロいも虫だよ!」


 クロは布団に包まると、ぬくぬくと芋虫のように移動していた。

いや、何やってんの……


 あれからも不幸は続いている。

むしろ、悪化しているともいえるだろう。

一日数回は者を踏んだり、転んだり、雨漏りもするし、詐欺の電話もかかってくる。

クロに取り憑かれたら不幸になると言われていたが、まさかここまでとは……

これでは、クロに気づかれるのも時間の問題ではないだろうか。

そんなことを考えていた。


「かおる! 明日は夢の日?」


 クロが微笑みを浮かべながら聞いてきた。


「そうだよ。夕方に打ち合わせがあるからお留守番頼める?」

「おお、クロにお任せ!! クロはお留守番のプロだからね!!」


 クロは両手を上げると、勢いよく立ち上がった。

いや、それってニートじゃなかろうか。


「えらいえらい」


 私はクロの顎の下をこちょこちょと撫でてみた。


「もう、ほめすぎだよー。クロ、照れちゃう……」


 クロが表情を緩ませていた。

猫だ……!


「頭もなでなでして! ほめてもいいんだよ?」


 クロは、目をきらきらとさせていた。


「して欲しいのはクロでしょ? 分かったから」


 そう言うと、私はクロの頭をわしゃわしゃと撫でまわした。


「えらいえらい!」

「わー!! クロのあたまがぁ! やめろぉー」


 クロはやめろと言っていたが、その表情は嬉しそうだった。



 ♢



 翌日、17時の打ち合わせに間に合うように私は準備を済ませた。


「行ってきます」

「いってらっしゃい! かおる頑張って!」


 クロが優しい表情で応援してくれた。


「うん」


 そう言うと、私は家を出た。


「よしっ!!」


 気を一段と引き締め、私は打ち合わせへと向かった。


「よぉし、クロもがんばるぞぉ」


 クロも意気込んでいた。

どうやら、クロにも何か考えがあるらしい。

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