第20話 お仕事見学

 私は、いつものようにアシスタントの仕事に向かおうと、荷物を整えていた。


「クロ、かおるのお仕事みたい!!」

「え!?」


 クロが唐突に言ったのに私は驚いた。


「いやいや、さすがに無理だよ」


 私は首を横に振りながら言った。


「そっか……」


 クロは私の言葉にしょんぼりとしていた。


「やっぱり、一人でお留守番はつらい?」


 クロは大の寂しがり屋さんだ。

ふと、不安になった私は聞いた。


「うん、それもあるけど……かおるのことをもっと知りたい」


 その言葉で私の心は少し暖かくなった。


「うーん……大人しく出来る?」


 私は考えた結果、クロにそう尋ねた。


「クロ、得意だよ!!」


 クロはドヤ顔を浮かべていた。

心配だ……


 私は、クロをアシスタント先に連れていくことにした。

今、クロは大人しくしている。


「斉田さん、ここの指定お願い」

「分かりました」


 私はアシスタント先の先生から指示を受けた。


「おぉ!! 生で初めてみた! これが社長さんだ! クロより偉いんだ!!」


 何故かクロが興奮していた。


 私は、席に戻ると指示されたところを描き込んでいく。


「うぉぉ! かおるは天才だぁ! すごーい」


 クロは感心した様子で、私の手元をのぞき込んできた。


「いい、ものとか触ったら駄目だからね! 大人しくね!」


 私はクロにしか聞こえないほどの声で言った。


「ふん! ふん!」


 クロは首を縦に振って頷く。

本当に分かっているのだろうか。


 私は、そのまま作業を進める。

しかし、時計が14時を示そうとしている時、睡魔に襲われた。


 最近、私は睡眠不足の日々が続いていた。


『集中集中……』


 集中して描こうとしても、段々と視界がぼやけてくる。


「かおる!!」


 その時、クロの声が飛んできた。


「かおる、がんばって!! クロ、応援するから!!」


 クロは意気込んだ様子で言った。


「かおる! かおる! ふれふれかおる!! がんばれがんばれかおる!!」


 自分の長い黒髪をポンポンに見立てて振っている。

これ、本当に私以外は見えていないんだよな。

ちょっと恥ずかしい。


「おぉー! ふれふれ!!」


 だけど、おかげで、元気出た――


 クロは宙に浮きながらも私の応援をしてくれる。

やはり、応援の力というのはやる気を湧かせてくれる。


「斉田さん、何か変わりましたね」


 アシスタント先の先生が言った。


「そ、そうですか……?」


 私、何か変な事やらかしたかな。


「前より、凄く楽しそうですよ」


 その言葉で、私は自然とクロの方に目をやった。


「そうですね」

「クロも毎日楽しいんだよ!!」


 クロは満面の笑みで言った。

その笑顔は守ってあげたくなるような愛おしい表情であった。

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