第15話 お留守番

 翌朝、アオイは私の部屋から仕事に向かった。

また来ると言っていたが、今度は空気を読んだタイミングで来て欲しいものだ。

まあ、無理だとは思うけど。


「じゃ、私も仕事行ってきます」


 準備を済ませた私は、玄関の方からクロに向かって言った。


「まってまってー!!」


 クロが奥の部屋から、ドタバタと走ってきた。

転ぶなよ。


「行ってらっしゃい! かおる、今日もがんばってね!!」


 そう言うと、クロはいつも抱えているぬいぐるみを、頭の上に掲げた。


「いい子にしててね」


 クロに微笑みを浮かべると、私は玄関の扉を閉め、鍵を掛けた。



* * *


 これは、クロがお留守番をするお話である。



「クロ、さみしいぃ!!」


 クロが涙目になっていた。

ちなみに、薫が部屋を出て、まだ3秒も経っていない。

かおるショック発動までは2秒ほどだった。


「クロ、こわいよぉ……かおるー」


 クロは、リビングで布団にくるまっていた。

寂しいとすぐに、布団にくるまる癖がある。


「クロ、おこったぞ!!」


 クロは、布団にくるまったまま、立ち上がった。


「こうなったらクロもう、薫を作る!!」


 意気込んでいるが、意味不明だ。

まあ、可愛いから許すけど。


「よし、決めた! 君がかおる二号だ!」


 クロは、最初から持っていたボロボロになったくまぬいぐるみを指さして言った。


「いい? 今日からかおる二号だよ!!」


 ぬいぐるみに向かって言った。


「かおる二号完成!! かおる二号ほめてー! 頭なでなでしてー」


 クロは、ぬいぐるみにぐりぐりと顔をうずめていた。


『クロはいい子だよ大好き!』

「えへへー! クロも!」


 一人二役でクロが話し、ぬいぐるみの手を自分の頭に持ってきて、左右に動かし頭を撫でる。

クロは少し、満足げであった。

しかし、ハッとした様子で立ち上がった。


「ほめパワーが足りない!!」


 ほめパワーとはなんぞや。

クロは、立ち上がるとそのままお風呂場へと向かった。


「おぉー。かおる三号、君に決めたー」


 ポ〇モンかよ。

クロは、浴槽にあったゴム製のアヒルさんを手に取っていた。

それを、持って部屋に戻る。


「かおる二号三号! クロをほめてー! ほーめて!!」


 人形を自分の前に置くと、クロはうつ伏せになって寝転んだ。


『クロはえらい。えらいよー』


 アヒルさんに言わせる


『クロはやさしいよ。かおるはクロが大好きだよ』


 今度はクロのぬいぐるみに。


「うへへ。もう、クロのことほめすぎだよぉ」


 クロは、満足そうな微笑みを浮かべていた。


「はやく、薫と遊びたいな……」


 二つの人形を胸に抱えると、クロはゴロンと天井を見上げた。

代役を立てても、本物の薫が一番に決まっている。


「クロ、さみしい……」


 時刻はもう、月が綺麗に見えるほどの時間だった。

玄関の扉がガチャっと開かれた。


「ただいまー。クロ……」

「かおるー!!!!」


 クロは、奥の部屋から薫の元に走っていくとそのまま薫の胸に飛びついた。


「わっ! 何いきなり!?」

「かおるー、ほめて!!」


 クロは、屈託のないドヤ顔を浮かべていた。

いや、なんで!?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る