第10話 愛すべき日常

 クロと生活を共にするようになった。

これは、クロからもらった『日常』なのかもしれない。


 部屋で楽しそうに遊んでいるクロを眺めながらそんなことを思っていた。

クロは取り憑いたら不幸になると言っていたが、この日常、一人ではないという生活を送れるのであれば、大した問題ではないとこの時は考えていた。


「かおるー、あそぼー」


 テレビから目を離すと、私の方に駆け寄ってくる。

まるで、娘が出来たのではないかと、錯覚するような光景である。


「いいよ、何して遊ぶ?」


 漫画家というのは基本、自由業だ。

好きな時に仕事をすればいいので、クロと遊ぶ時間も取ることが出来る。

まあ、締め切りギリギリだとそうも言っていられないが。


「はっ!」


 次の瞬間、クロは驚いたような表情をした。


「どうした!?」


 思わず私は、そう尋ねた。


「クロ、かおると遊びたかったけど、何して遊ぶか決めてなかった!!」


 そう言ってクロは、エヘヘと笑った。

可愛いかよ!!!!

微笑むクロの顔は凄く、愛おしいものであった。


「うーん、どうしよっか。これとかどう?」


 私は、テレビの横にあった、オセロを手にした。

よく、友達と宅飲みするときにやっていたのだ。


「おぉー。これ、どうやるの?」


「黒と白で、こうやって、同じ色で挟んだら挟んだ色を変えることがでるんだよ」


 私は、オセロのルールを軽く説明した。

後は、やりながら覚えていくのがいいだろう。


「やってみる?」

「うん!」


 クロは元気よく頷いた。


「クロはどっちの色にする?」

「クロだから、黒にする!」


 クロはドヤ顔でうまいこと言ったとか言っている。

本来なら、じゃんけんなどで決めるのだが、別に今回はクロに譲ってもいいだろう。


「よし、じゃあ、私は白でやるね。お先にどうぞ」


 私はクロに先を譲る。


「よーし、やるぞぉ」


 クロは意気込んで、オセロの石を置いた。


「お、そう来るか」


 私も対抗して、石を置いてひっくり返す。


「おぉー。斜めでもいいのかぁ」


 私の置いた石に、クロは感心していた。

いや、そんなに感心した目を向けても何も出ないぞ。


「ここだぁ」

「ほい」


 その後も、パチパチとオセロの石を置いていく。

中々、クロも初めてにしては上手いもんだ。


「はい、これで終わりっと」


 私が最後の石を置き終わった。

結果から言うと、私の勝ちだ。

しかし、中々の接戦であった。

クロに思わぬ才能があったことを思い知らされた。


「あぁ、負けちゃったかぁ」


 クロは、エヘヘっと笑っていた。


「でも、初めてにしては凄いよ」

「そう? クロ、凄い?」


 クロはドヤ顔を浮かべていた。


「うん、凄い凄い」


 私は、クロの頭をくしゃくしゃっと撫でた。


「わー! くしゃくしゃだー!」


 クロはそれでも嬉しそうだった。


「もう一回やろ! また、クロが負けたら頭撫でていいよ」


 何で上から目線何だ。

それと、それでは賭けになっていないではないか。

まあ、可愛いから許そうじゃない。


「よし、もう一回やろっか」


 私は、微笑んだ。

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