家出してきたので匿ってください(転生の女神)

@adegh3ik2nos

「家出してきたので匿ってください」

 それはある土曜の日の夜。


ピーンポーン

「はいはーい...ちょっとお待ちをー」

ガチャ

「家出してきたので匿ってください」

「ん?あれ転生の女神さまですか?お久しぶりです」

「はい、お久しぶりですが今は急ぎです。まずは家に上げることを要求します」

「相変わらずの説明の無さ」

「それとお茶はいりませんから茶菓子を3倍用意してください」

「そして相変わらずの暴虐ぶり」

「あなた相手にいちいち取り繕っても仕方ありませんから」

「なるほど、それではどうぞ」

「いきなり来た私がいうのもなんですが理由わけとか聞かなくてもいいのですか?」

「えぇまぁ知らない仲でもないですし」

「これから私を探しに美の神、酒神に創造神、はては異世界の勇者や魔王に国王、近所のおばあちゃんまでもが探しに来るとしても?」

「おっと、ちょっと聞きたくなってきた」

「それではお邪魔して、よいしょ」

「説明する気は無いんですね?」

「えぇ、ありませんとも」


◇◆◇


 俺は吉田、名前はまだ無い。過去に5度の人生と5度の転生を経て今ここにいる。

 過去の人生では勇者になったり魔王になったり貴族に生まれて悪の組織に入ってと色々な経験をした。そんな中、毎度のごとく転生の際に顔を合わせていたのが彼女、転生の女神様だ。そして一目惚れした。

 最初に会った時はひどく事務的な対応をされたものだが2度3度と会ううちになんとなくだが打ち解けてきたような気がしないでもないので彼女もまんざらでもないのだろうと思う。そうに違いない。

 そして.....


「もぐもぐごっくん....なにをやっているのですか吉田さん」

「すみません、今の展開に付いていけない人のための説明を流してました」

「どうやって?」

「頭の中のモノローグで」

「そうですか。でもなんとなく不快さを感じたのでそれは一旦破棄してください」

「ではまた新たに」


彼女と会ったのはある真夏の....

「女神空間に四季はありません」


寒い冬の路地裏で倒れていた俺を優しく介抱してくれたのが....

「私は放っておくタイプです」


重なる手と手、一冊の本.....

「本はあまり読まずに鈍器にします」

「そんな物騒な」

「面倒な転生者を始末するのに便利なのです。あと喉が渇いたので飲み物を要求します」


◇◆◇


「ゴクゴク......まともに説明する気が無いのは分かりました」

「どうしても女神様との出会いは劇的にしたくて」

「十分劇的でしたよ、ハーレム勇者として生まれたのに幼馴染にメイスで殴り殺されて転生しに来た人は初めてでしたから」

「あの時は死ぬかと思いました」

「実際死んでいるのですが」

「でもそのおかげでこうして女神様と話せるわけですし」

「そうですね。あまりの不憫さに創造神がくださった"転生しても記憶の残るスキル"のおかげであなただけは私を覚えているのですよね」

「だけってなんか恋人みたいじゃありません?」

「ありません」

「というかスルーしましたが女神様、普通に考えていること分かるのですね?」

「いえ、他の人のは分かりませんよ?」

「それはあなただけが特別的な?」

「いえ、あなたの頭の中には私特製の改造チップが埋め込んでありますから」

「思ってたよりヤバい理由だった」

「2度目の転生の時点でなんとなく頭がおかしい事は分かっていたので」

「しかもさらっと危険人物扱い」

「2度目の人生で悪の組織に入り世界一つを滅亡させかけた人が何をおっしゃる」

「いえあれは全ての者が手を取り合えるようにと」

「そうですね。最終的には人も魔族も獣人、亜人に魔王までが勇者のあなたを倒さんがために立ち上がりました」

「何が悪かったのでしょうか」

「世界の終末を告げるドラゴンの住処に大量の塩水を流し込んだのはマズかったでしょう」

「おや女神様はケチャップ派?」

「塩が不味いと言っているのではありません。そして目玉焼きには卵黄をかけますが」

「女神様って微妙に味覚ずれてるんですよね」

「料理は上手く作れるのですが」

「前に転生者たちに振舞ってくれた後、みんな転生する前から記憶を失くしてましたが」

「おいしい記憶が全てを上書きしてしまったのでしょう」

「俺もスキルが無かったらヤバかったです」

「それでなぜドラゴンに塩水を?」

「無傷でとらえたドラゴンの鱗が欲しくて」

「塩水では仕留めきれないでしょう」

「そのあと雷魔法を叩きこみました」

「えげつない」

「それでも仕留めきれずに逃げ出してしまいまして」

「さすがは世界の終末を告げるドラゴンといったところでしょうか」

「残念でした。実はその鱗は万人単位を救える薬になるので少しでも人助けをできればと」

「そのせいで億人単位の人が迷惑していましたが」

「それにドラゴンって初めて見るので」

「なら普通に見ればいいでしょうに」

「初めて見る動物が寝ているって嫌じゃありません?」

「いえ、そこまででは」

「人前で寝てても許されるのはパンダだけですよ」

「たしかにそれはそうかもしれません」


◇◆◇


「ところで女神様はどうしてここに?」

「やはり気になりますか?」

「創造神様はともかく近所のおばあちゃんはさなければと」

「あなたと私の近所のおばあちゃんの間に一体何が」

「むかし別のおばあちゃんに命を救っていただいたことがありまして」

「思わぬ急展開」

「それ以来それがどこの誰であろうとおばあちゃんであれば恩を返そうと決めているのです」

「それあまり意味ないのでは」

「気持ちの問題ですね」

「それでその命の恩とやらについては?」

「それはまた今度話しましょう。今は家出の理由です」

「覚えていましたか。いえ大した理由ではないのですが」

「そうなんですか?」

「うっかり勇者を別の世界に送ってしまった結果、送るはずだった世界の人類は魔王に滅ぼされてしまいまして」

「女神様の大したとは一体」

「そうして送った先が劣悪な環境だったため勇者が第二の魔王として目覚めてしまい」

「おっととんだ二次被害」

「こうして2つの世界の人類が滅んだ結果、大量の転生者があふれまして」

「さらっと勇者が世界を滅ぼしていた」

「勇者はその後、腹心のひとりに刺殺されたようです」

「独裁でも敷きましたか」

「最後の言葉は"魔王お前もか"」

「魔王お前もか」

「これはヤバいなと思った私は一瞬の閃きに有り余る力を注ぎ込み、まとめて友神ゆうじんの実家に転生させ事なきを得たのです」

「さらにヤバいことになってる」

「それでバレないうちにと転生の業務を近くにいた転生者に託し、こうして"ニッポン"へとやってきたわけなのですよ」

「それ友達の神様は怒ってないですかね?」

「えぇそれはもう。ですから美の神が追ってくるのです」

「お友達は美の神様でしたか。おやでは酒神というのは?」

「それは私が"ニッポン"でおいしいお酒を飲んでくると自慢したら追ってきたようでして」

「もしかしなくても家出の理由の半分はお酒ですか?」

「いえ、しっかりと食事もとるつもりです」

「さようですか」


◇◆◇


ペタペタかきかき

「ところでさっきから何をしているのですか?」

「じきに気配を嗅ぎつけた者たちがここに来るのは止められません」

「それは困りますね」

「そこで私なりにあなたを守ろうと」

「女神様が帰ればいいのでは?」

「結界を張っているのです」

「華麗にスルー」

パァァァァ

「よし張り終わりました」

「なんか光ってますね」

「私特製の結界です。これで神気が外に漏れなくなりました」

「なるほど」

「さらに守護の結界を重ね掛けしてます」

「守りということは押し入ったり出来なくなるのですか?」」

「その通り。私クラスになれば創造神さえも通さないものが作れます」

「わざわざここに来なくてもそれを使って引き籠るという手があったのでは?」

「たまには羽を伸ばそうかと思いまして」

「女神様いつも自由じゃないですか」

「それに"ニッポン"のほうが住み心地もよさそうですし」

「本音ですね」

「食事もお酒もおいしいですし」

「本音ですね」

「ゲームや漫画で遊び放題」

「これ遊びに来ただけでは?」

「ようやくあなたが1LDKに引っ越したのでやってきました」

「計画的犯行でしたか」

「間取りも家具も把握済みです。足りないものは後日買いにいくので付き合ってください」

「結界は?」

「段ボールにも張ります」

「担いでいけと?」

「冗談です。1日程度であれば全身に認識疎外をかけられますから」

「そういうことであれば付き合いますとも」

「ではその前に部屋割りを決めましょう」

「おっとまたもや横暴の予感」

「私がリビング、あなたは引き続き自分の部屋で寝てください」

「あれ、思ったより普通ですね。てっきり"あなたの活動範囲は玄関のみです"とか言われると思ってましたが」

「私を何だと思っているのですか。これでも人の子を見守り導く慈愛にあふれた女神ですよ?」

「さきほど人の子ごと世界を2つ滅ぼしてきたと聞きましたが」

「それはそれ。私の手の及ばないこともあるのです」

「ただのうっかりだったような」

「それとお風呂の時間は20時までにあなたが入ってください」

「先でいいのですか?」

「えぇ、私が先に入ると残り汁で何をされるか分かりませんし」

「女神様の残り汁って何かご利益ありそうですね」

「やってる事は不敬以外のなんでもないのですが」

「でもそうするとお風呂上がりの女神様はリビングで寝るわけですよね?」

「そうですが何か?」

「いえ、ただこれならラッキーなスケベとかワンチャンあるかも、と」

「それに関しては問題ありません。お風呂の時間から次の日の朝まで認識疎外を全力でかけます」

「これは手厳しい」

「それにもし何かあれば.....」

「あれば....?」

「次からあなたの転生先はウミユスリカです」

「1時間で次の転生ですか」

「それも永遠に」

「瞬く間に終わる羽ばたく人生」

「それが嫌なら変な気は起こさないことです」

「肝に銘じておきます」

「それでは先にお風呂に入ってきてもらえますか?」

「そうですね。なんだかんだ22時は過ぎてますから」

「私はリビングに布団を敷いて荷物の整理をしていますので」

「そして当然のように知られている来客用の布団のありか。それでは失礼して」


◇◆◇


「ふぃ~さっぱりさっぱり」

「ようやく出ましたか」

「日本人たるもの長風呂は基本ですから」

「日本人以外のほうが長かった人が何を言いますか」

「それでお風呂に入るのですよね?」

「はい、今日は色々あって疲れましたから。それでは失礼して」

パッ

「はっ、消えた。っと認識疎外でしたか」

パッ

「えぇ」

「はっ、現れた」

「これからは日常なのでいちいち驚かないように。それと言い忘れていました」

「なんでしょう?」

「おやすみなさい。それと.....これからお世話になります」

パッ

「こちらこそ。そしておやすみなさい」


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