呪殺少女の猫

「ただいま」

 私は今日も無事に、こうやってねぐらに帰り着くことができた。神に感謝する。死んでも死にきれない神に。

「おかえり。今日も人を殺したの?」

「うん、殺した」

 私を出迎えてくれたのは、私の友達であり、私の家族であり、私の魂の伴侶であるセバスチャン。何を隠そう猫であるセバスチャン。鴉のように真っ黒なセバスチャン。

 私のベッドにちょこなんと座っているセバスチャンは、くすくす笑った。

かなえは殺人鬼だねえ」

「まあね」

 ばふっ、と私はセバスチャンの隣に座り、紙パックのトマトジュースをストローでちゅーちゅー吸いながら、セバスチャンの背中を撫でた。セバスチャンは気持ち良さそうに、にゃーと鳴いた。私は嫌いなトマトジュースの味に顔をしかめた。

「なんで嫌いなのに飲んでるの?」

「憎悪が溜まるから」

「ふうん」

 私はセバスチャンの背中を撫でながら、指先をタップさせ、呪文を唱えた。セバスチャンがしっぽから浮き始める。黒い風船のように軽々と、セバスチャンが宙をただよう。仙人のように神妙な顔つきのまま、部屋の真ん中でホバリングしている。

「セバスチャン、歌って」

「オッケー」

 セバスチャンが、猫にしか出せない独特のファルセットで歌い始める。私のリクエストで、曲はバッハの教会カンタータ第140番『目覚めよ、と私たちに声が呼びかける』。セバスチャンは、二百にもおよぶバッハの教会カンタータをすべて歌うことができる。といっても、猫なりの歌い方ではあるが。

「にゃにゃにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー、にゃにゃにゃーにゃー、にゃーにゃーにゃー♪ にゃにゃにゃーにゃーにゃーにゃーにゃーにゃー、にゃにゃにゃーにゃー、にゃーにゃーにゃー♪」

 セバスチャンは、とてもかわいい。

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