5.可能性を探って。







 俺たちの寿命は学園祭の当日、その終わり頃だった。

 なにが起きるのかは予想もつかないけれども、ただ一つ確信をもって言えることがある。それは『イ・リーガル』の反体制派が関与している、ということだった。

 最初は災害関係の線も疑いはしたが、他のクラスの生徒などの寿命は変化していない。そうとなれば、やはり組織が動いている可能性が高い。


 それが、俺の導き出した答えだった。


「それとなると、警戒するのは――」


 俺は寿命の変化を確認したその日から、行動を開始した。

 なにかと問われれば、監視だ。誰を監視するのか、と問われれば――。


「やっぱり、アレンだよな」


 ダースの可能性が低くなった以上、アレンを見張るというのが普通だろう。

 そんなわけで俺は彼の動向を追っていた。だが、しかし……。


「結局、不審なところは今日までなかったか……」


 学園祭の当日を迎えるまで、アレンが怪しい行動を取ることはなかった。

 もしかしたら、今回のことには関係ないのかもしれない。

 そう思い始めた時だった。




「それじゃ、行ってくるよ」

「行ってきますね、アレン」


 俺はいつも通り、公園でミレイのことを預かる。

 適当に言葉を交わして、その場を後にしようとした。すると、


「……待て、ミコト」

「ん……?」


 突然に呼び止められる。

 振り返ると、アレンはどこか考え込むようにしていた。

 その姿に思わず首を傾げてしまう。いったい、どうしたのだろうか。普段ならばこのように声をかけてくることはなかった。

 もしかしたら、俺たちの寿命について、有益な情報だろうか。

 そんな期待が僅かに生まれた時だった。



「学園祭、オレも行くからな」



 ピリッとした緊張が、肌を刺す。

 そして直後に、目を疑う結果となった。


「アレンじゃ、ないのか……?」


 震えた声で、俺はそう呟く。

 それが分かった理由は、一つしかなかった。

 アレンの頭上にある数字が、俺たちのそれと同じ時刻に切り替わったのだから。



◆◇◆



「だとしたら、誰なんだ……?」


 学園祭開催直前、俺は1人でポツリとそう漏らした。

 最後の最後、書類関係の処理を行っているのだが頭に入ってこない。これまでの予想と対策が、完全に水の泡となったのだから、仕方のないことだろう。


 しかしここで終わりというわけではない。

 アレンの寿命が短縮されたということ、それは彼へひとまずの信用を寄せても良い、ということを示していた。もっとも、全幅の信頼、というわけにはいかないが。それでも、自らの死を選ぶような作戦を決行するなど――ゼロではないが、可能性は低い。


 そうなってくると、今回は身内以外の行いである可能性が高かった。

 それこそ、体育祭の日に起きた事件のような。


「そういえば、あの時の男を殺したのは――口調からして、女か?」


 俺はふと思い出した。

 そういえば何かを被っているのかくぐもったそれだったが、相手は女である可能性が高かった。もっとも決めつけることは危険だが、それとなると……。


「ダースとアレンは、限りなく白に近い……か?」


 顎に手を当てて考え込む。

 そうなってくると、また色々と再考しなければならない。

 面倒なことになってきたな、と。一つ大きくため息をついた、その時だ。




「ミコトくんっ! 見てくださいっ!!」




 更衣室の方から、明るいミレイの声が聞こえてきたのは。


「ん、どうした? ミレ――」


 俺は重たくなった頭を持ち上げて、声のした方を見た。

 そして……。



「ぐはっ…………!?」




 完全にノックアウトを喰らった!

 今まで考えてきたこと、すべてが遠く彼方へホームラン!


「どうですか? 似合ってます?」

「いや、あの、うん……似合ってりゅ……」


 呂律が回らない。

 それほどまでの破壊力だった。


 だって、ミレイのミニスカメイド姿だぞ!?

 しかも猫耳付きで!!


 ふわふわなフリルをふんだんに使用したスカート。

 彼女が動くたびに、宙を舞う。


 駄目だ、上手く表現できない。

 鼻から血が出てきた……。


「えへへっ! ミコトくんには、一番にお見せしたかったのです!」

「あ、ありがとう……」


 俺はティッシュを鼻に突っ込みながら、サムズアップ。

 何はともあれ、致命傷で済んだ。仰げば尊死、とならなくてよかっ――。




「いいえ、お褒めいただき感謝なのです! ――『ご主人さま』!」




 そこからしばらく、俺の記憶はない。



 

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