第50話 激突戦域

 ユウが出撃準備に入る中、アンデッド小隊はライトニングヴァイオレットと交戦していた。

 ケインの<セルフィーカスタム>は狙撃に使用していたTターミナスBビームスナイパーライフルの銃身をスライドさせて短くし通常戦闘用として運用している。

 出力は低下したもののある程度の連射が可能となり、紫色の機体へ向けて何度もビームを発射するがそれすらも『地球連合軍』のエースパイロットは華麗に回避する。


「くそっ! 何てヤローだ、変則的な動きばっかしやがってサーカスじゃねぇんだよ!!」


 ケインが悪態をついていると彼と同様に苛立っているルカが敵機に攻撃を放つ。

 自機の右腕に装備したTBダブルガトリング砲で牽制しつつ、ジェネレーターと直結したターミナスキャノンを発射するがそのことごとくが躱される。


「ちっ、速すぎる! 急加速と急制動を織り交ぜた回避運動……あんな無茶な動きをしてパイロットはどうして耐えられるのよ」


 攻撃を当てようとルカ機とケイン機が敵との距離を詰め始めるとマリクが一喝した。


「不用意にヤツに近づくな! 近距離から中距離は俺が受け持つ。お前たちは遠距離からの攻撃に徹しろ!! あの機体が時々使う急加速は危険だ。一気に接近されれば遠距離仕様のお前たちの機体では太刀打ちできん」


「でも、兄さんこのままじゃ……」


 ルカが言いかけた時コックピットに警報音が鳴り響く。それはライトニングヴァイオレットに遅れる形で戦場に到達した敵に対してのものだった。


「あの紫だけでも手一杯だっていうのに団体さんのお出ましかよ!」


 三隻の戦艦から数十機のオービタルトルーパーが出撃し『リザード』の防衛部隊と戦闘に入る。

 あちこちで戦いが始まり混乱する中、ライトニングヴァイオレット――ロイド・アーカムの搭乗機<カラドボルグ>はアンデッド小隊を翻弄する。

 交戦の最中、<カラドボルグ>の肩の一部装甲が開放され内部から円状の三つのレンズが顔を出す。

 両肩で合計六つのレンズが光り出すのを見たマリクは危機感を覚え、ルカとケインに注意を促した。


「ケイン、ルカッ! 敵が仕掛けて来るぞ、注意しろ!!」


 その直後<カラドボルグ>の両肩のレンズ部分から六本のレーザーが発射され不規則な動きをしながらアンデッド小隊を襲った。

 マリクはスラスターを全開にしつつ各部バーニアを巧みに操って何とか回避する。距離を取っていたケインとルカも回避に成功していた。


「くっ、今のはホーミングレーザーか? 戦艦用の武装をオービタルトルーパーに搭載しているとは……!」


「あれが全弾命中したらいくら<セルフィーカスタム>でも持たないわ。ケイン、兄さんの言うようにもっと距離を取るわよ!」


「もうやってるよ。隊長やユウならあれを躱せるだろうが、俺とルカの回避テクニックじゃ避け続けられねぇ。さっき躱せたのはまぐれだからな」


 <カラドボルグ>のホーミングレーザーを目の当たりにして危険と判断したアンデッド小隊は急いでフォーメーションを組み直す。

 その隙を突いて<カラドボルグ>は専用のTBライフルでフォーメーションを崩しそこに再びホーミングレーザーを放つ。

 マリクは回避に成功するがルカとケインは回避しきれずターミナスシールドで何とか持ち堪える。


「くそっ。一、二発ぐらいなら何とかなるが連続で食らったらさすがに持たないぜ。こうなったらやられる前にやってやる!」


 ケインが通常戦闘モードのTBスナイパーライフルで狙い撃つ。

 それに合わせてルカも機体の重火器を総動員してビームをばら撒くが、<カラドボルグ>はサブスラスターユニットにチャージしていたターミナス粒子を解放し稲妻の如く加速し回避した。


「また加速した!?」


 <カラドボルグ>が方向転換しケインとルカに向けて再び動き出そうとした時、そのコックピットに警報が鳴る。

 減速した瞬間を狙っていたマリクの<セルフィーカスタム>がTBライフルを連射しながら高速で突っ込んできたのだ。


「思った通りさっきの急加速は連続使用できないようだな。――それならばっ!!」


 迫るマリク機を狙って<カラドボルグ>が両肩からホーミングレーザーを発射する。

 しかし、マリクは左腕のシールド発生器にターミナスシールドを張ったまま速度を落とすことなく突撃し六本のレーザーを正面から受けるのであった。

 耐久限界を超えたマリク機のシールド発生器は破壊され、シールドを突破したビームは威力を弱めながらも機体の胸部や肩部に直撃した。


「一機撃破、残り二機―――!」


 敵のコックピット付近にビームが当たった事でロイドはパイロットの死亡を確信していた。

 そんな彼がケイン達に向かおうとした時、撃墜したと思われた<セルフィーカスタム>がTBセイバーを装備して斬りかかって来た。

 

「何だと!? 直撃したはずだ!」


 咄嗟の判断でロイドもTBセイバーを装備し肉薄した二機はビーム刃をぶつけ合う。その際、機体が衝突し接触回線が開く。

 それにより、お互いのコックピットモニターに敵パイロットの姿が映し出された。


『悪いがこの追加装甲は耐ビームコーティング処理が施されているんでね。威力が落ちたビーム程度なら耐えられるんだよ!!』


 <カラドボルグ>のコックピットモニターに映ったマリクは不敵な笑みを浮かべながら何度もTBセイバーを振い、ロイドはその斬撃を自機のTBセイバーで受け流していた。


「なるほど、『シルエット』にも中々腕の立つパイロットがいるようだな。先程の狙撃も素晴らしい腕前だったし、もう一機の支援機のサポートも適確だった。君たちは良いチームのようだ」


『自慢のつもりか? そんな俺たちの攻撃を簡単に躱しておいてよく言う』


「それは申し訳ない。気を悪くしたのならば謝らせてもらう!」


 ビーム刃で鍔迫り合いをする中、<カラドボルグ>は左腕にターミナスシールドを発生させたまま体当たりをしてマリク機の動きを一時的に麻痺させる。

 その隙に距離を取り、マリク機にTBライフルの銃口を向けホーミングレーザーの発射態勢に入った。


「もしも君がもっと性能の良い機体に乗っていたら私も苦戦は必至だっただろう。――さらばだ!!」


 ロイドが引き金を引こうとした時、<カラドボルグ>のコックピットにアラートが響きその原因がモニターに表示される。

 ロイドはそれを見ると同時に攻撃を中止し回避に全力を注いだ。

 全スラスターを最大にしてその場から離れた瞬間、一瞬前までいた場所をマグマのように赤いビームが通過していった。

 

「何だ今の砲撃は? 戦艦の主砲クラスのターミナス粒子だと……あれか!?」


 <カラドボルグ>のコックピットには何処までも広がる真空の宇宙が表示されている。

 その中に一筋の光と共にその発生源が映り込む。それは一機の白いオービタルトルーパーだった。

 全身がほぼ純白の中、デュアルアイは深紅の光を灯しており凶暴な印象をロイドに与える。

 その姿を目の当たりにして彼は一瞬身を震わせた。だがそれは恐怖から来るものではない。

 心の底から望んでいた闘争の相手が現れた事によって喜びが爆発して生じた震えだ。


「現れたか……待っていたぞ、白い死神!!」


 木星の宇宙そらを舞台に二人のエースが今激突しようとしていた。

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